見出し画像

それは7月の夜の四条通りよりも美しかった。

僕がケスクセクモアの稽古場で、
親しくなった一人は役者の藤澤賢明さんだ。

藤澤さんと僕は、
共に京阪電車に乗って帰るので稽古終わりの四条通りを一緒に歩くことがある。

その日もたまたま同じタイミングで稽古場を後にしたので駅まで歩くことにした。

二人とも「安住の地」の芝居をまだ観たことが無いという共通点があり、帰り道には決まって「いやぁ、面白いっすよねー。安住の地」という話にはじまり、その日の稽古の感想について話し合ったりする。

藤澤さんはフリーの役者で、
普段は会社勤めをしている。

だから、平日は仕事終わりに
稽古場へと駆けつけてワイシャツから
稽古着に着替えて稽古に励む。
そして、稽古終わりには再びワイシャツに
着替えて家路に着く。

藤澤さんの芸歴は長く、
役者になる前はお笑いを
やっていたらしい。

今回は初の音楽劇ということもあって、
普段の会話劇とはまた違った課題があるという話をしてくれた。
「いや〜難しいっすよね〜」と何度も首を傾げながらこぼしていたのが印象的だった。

お笑いも芝居も音楽も
共通するのは“間”である。

この“間”が少しズレると、
同じフレーズでも全く響かなくなる。

笑いの場合はテンポと云うが、
音楽の場合はリズムと云ったりもする。

そのいわゆるテンポとリズムの中に、
面白みがあり難しさがあると藤澤さんは話していた。

今回の劇は全体にグルーヴと言われるような、大きなうねりがある。
だから、グルーヴを生むテンポの横軸とリズムの縦軸を見ながら(感じながら)台詞というメロディーを載せていかなくてはならない。

でも、単にテンポキープが出来る人やリズム感のある人がこの劇に向いているというわけではない。
むしろそれを崩すような人こそがトリックスターである。

脚本・演出の岡本さんが当初から「一人ひとりの音楽性を活かしたい」と話していた通りに、個人のリズム感・音楽の趣向を全て取り込んだえらく多国籍な音楽劇となっている。

そのため、
戯曲も演出もほとんど
90分の交響曲をつくるみたいに
個人のパートが綿密に編まれてゆく。

ただ、交響曲と違うのは劇中にマエストロが不在なことだ。
一音目がガーン!と鳴ったその瞬間から、楽譜は終止線目掛けて左から右に流れ続ける。

そこからはもう完全に役者とバカがミタカッタ世界。による合奏となる。
個人のソロパートの即興性も相まって、本作品はほとんどジャズバンドのコンサートのようなスリリングな芝居となっている。

グルーブを生むためには、
度重なるセッションが必要なわけで稽古ではお互いの持って生まれた音楽性が遺憾無く発揮されそれが正面からぶつかり合っている。

その衝突のエネルギーたるや、
とてつもないものである。
ぜひそれを直接感じ取って頂きたい。

僕はH&Mの横を通り過ぎた辺りで「今回は台詞と節回しを憶えておかなきゃいけないから大変ですね…」と労いの意を込めて藤澤さんに質問した。

すると「そうなんですよねぇ〜。良い感じに出来ても、それを憶えてもう一度再現するのが難しいんすよねぇ〜」と優しく同調してくれた。

それから「会社で働いていて急にふとコレだ!っていうのが降りてきた瞬間にトイレ行って、録音したりもするんですけど。後で聴くと、だいたいなんか違うんですよね〜」と笑いながら話してくれた。

僕はこの話がとっても好きだ。

僕もアルバイトや授業の合間に降ってきた詞を書いたり、文章の一部を書いたり、アイディアをメモしたりする。

絶対に会社や人に迷惑をかけることはしないと決めていてもこの衝動だけは抑えられない。

なんだろう、体が勝手にそう動くのだ。

働いていても、歩いていても、
シャワーを浴びていても、夢の中でも。

いつも何かを考え、常に企んでいる。

藤澤さんもきっと働きながらも
頭のどこかでずーっと芝居のことを
考えている。

そして、
舞台ではその抑制を取っ払って
思う存分に暴れまわっている。

藤澤さんの魅力は、
いかなる逆境をもはねのける
その生命力にあると思う。

歳下の僕が偉そうに
言える話じゃないけれど。

二足の草鞋を履き、
舞台に立つ藤澤さんは
僕の一つの憧れだ。

ひとりの芸術家であり、
ひとりの生活家である。

僕はそんな人が好きだ。

四条大橋を渡る手前、マツキヨ前の信号で
「とりあえず面白いもの作りたいっすね」と
つぶやく藤澤さんの瞳は燦然と輝いていた。

中川裕喜

画像1

安住の地 第4回本公演
音楽劇『Qu’est-ce que c’est que moi?(ケスクセクモア)』

構成・演出:岡本昌也
音楽:バカがミタカッタ世界。

【公演日時】
2019年9月
13日(金)19:30
14日(土)14:00 / 19:30
15日(日)13:00 / 18:30
16日(月・祝)11:00 / 15:30

【会場】
THEATRE E9 KYOTO
住所:京都府京都市南区東九条南河原町9‐1

【チケット料金】
一般 3,000円 / U-25(25歳以下) 2,500円  ※当日料金+500円
高校生以下1,000円(前売・当日料金一律)
※受付にて学生証か年齢のわかるものをご提示ください。

https://ticket.corich.jp/apply/99747/
ご予約はこちらから。

#文章 #エッセイ #読み物 #コラム #小説 #舞台 #演劇 #芝居 #アート #京都 #音楽 #写真 #趣味 #日記 #エッセイ #雑記 #日常 #人生 #ライフスタイル #note #広告 #ケスクセ #安住の地

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?