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文芸

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#短編小説

ぴったりの湿気

ぴったりの湿気

 また、寄り添っている。
 やめて、という言葉にも思いにも、耳を傾けてくれない。
 わたしの体はそれほど大きくないけれども、全身にぴったりしている。
 正直、いい気持ちはしない。

 さわやかではないんだ、しつこいんだ。
 ベタベタしてくるし、どこにでもいる。
 一年中ではないけれども、一生付きまとってくる。
 たぶんこの時期、体重は増えている。
 一緒に体重計に乗って、その値に驚いたり喜んだり落

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オレンジシュート

オレンジシュート

汗が弾ける。

すっぱい液体は、ぼくを憎む。

キラい、ということであれば、どうぞご自由に。

どうせこれからも、あるいは一生、何度でも再会するのだから。

ぼくに対する汗の気持ちとは違って、リングとボールはそれぞれを求め合う。

その姿に、ドキドキする。

膝のクッションと手首のスナップだけで、ボールは簡単に空を飛ぶ。

モップだったら、こんなに昇らない。Tシャツやタオルならば、明後日の方向に行

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汗の楽園

汗の楽園

 汗は、わがままだ。
 ぼくのいうことなんて、聞いてくれやしない。
 額から、首筋から、ワキから、背中から、次々と顔をのぞかせる。
 やめてくれ、よしてくれ、と注意しても無視だ。そして感情的になるほど、身振り手振りでメッセージを伝えようとするほど、一粒一粒が自己主張を強める。透明な後継者も、あとを絶たない。
 どうして出てくるんだ!
 汗は、こうしたぼくの言葉に耳を傾けないし、何も言わない。
 た

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