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冬のホント、贈りもの。

冬のホント、贈りもの。

師走。

師たちは、我々の前を走っています。

でも、ときどき転ぶかもしれない。

師たちだって、おんなじ人間ですわ。

あるいは、ずっと走り続けられるのかもしれない。

ちょっと前まで「読書の秋」でしたが、「冬も読書するよね」ということで、先人や先輩の言葉、というか作品を紹介してみます。私個人がパッと思いついたやつを。

テーマは、冬です。

冬の言葉、ウィンターソング。

【三好達治選『萩原朔

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ぴったりの湿気

ぴったりの湿気

 また、寄り添っている。
 やめて、という言葉にも思いにも、耳を傾けてくれない。
 わたしの体はそれほど大きくないけれども、全身にぴったりしている。
 正直、いい気持ちはしない。

 さわやかではないんだ、しつこいんだ。
 ベタベタしてくるし、どこにでもいる。
 一年中ではないけれども、一生付きまとってくる。
 たぶんこの時期、体重は増えている。
 一緒に体重計に乗って、その値に驚いたり喜んだり落

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デザイン基礎教育

デザイン基礎教育

最初は、鼻がなくなってしまった、と思った。
朝起きて、洗面所にてすぐにそれに気づいた。
歯磨き粉にも石鹸にも、まったく香りがない。

湯気の立つコーヒーやカリカリのトーストも同じ。
整髪剤も制汗剤も、本来の役目が損なわれている。
だからわたしの鼻は、どこかに消えた、と思った。

匂いがしない、という現実はものすごく怖い。
5月を彩るラベンダーも、肉汁がジュージューと歌うBBQも、ぽかぽか陽気にくる

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サクラを忘れる。

サクラを忘れる。

 小さな薄桃色の座席は、しっとりとしていた。
 うっすらと、甘い春の香りもする。
 シートのふちは、せっかちなエイのように、バタバタと揺れている。
 指先でつっつけば簡単に破れそうな耐久性にもかかわらず、まさか、本当に乗れるなんて――

 桃色の絨毯は、風に身を任せて、ぼくをどこかに運んでいる。
 きもちいい。と同時に、怖い。
 ここは、地上数十メートルぐらいの高さ、だと思う。
 学校の屋上にある

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