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Hiroki Mochigi / 持木宏樹
2021年12月1日 21:17
師走。師たちは、我々の前を走っています。でも、ときどき転ぶかもしれない。師たちだって、おんなじ人間ですわ。あるいは、ずっと走り続けられるのかもしれない。ちょっと前まで「読書の秋」でしたが、「冬も読書するよね」ということで、先人や先輩の言葉、というか作品を紹介してみます。私個人がパッと思いついたやつを。テーマは、冬です。冬の言葉、ウィンターソング。【三好達治選『萩原朔
2021年6月5日 18:59
また、寄り添っている。 やめて、という言葉にも思いにも、耳を傾けてくれない。 わたしの体はそれほど大きくないけれども、全身にぴったりしている。 正直、いい気持ちはしない。 さわやかではないんだ、しつこいんだ。 ベタベタしてくるし、どこにでもいる。 一年中ではないけれども、一生付きまとってくる。 たぶんこの時期、体重は増えている。 一緒に体重計に乗って、その値に驚いたり喜んだり落
2021年5月14日 17:40
最初は、鼻がなくなってしまった、と思った。朝起きて、洗面所にてすぐにそれに気づいた。歯磨き粉にも石鹸にも、まったく香りがない。湯気の立つコーヒーやカリカリのトーストも同じ。整髪剤も制汗剤も、本来の役目が損なわれている。だからわたしの鼻は、どこかに消えた、と思った。匂いがしない、という現実はものすごく怖い。5月を彩るラベンダーも、肉汁がジュージューと歌うBBQも、ぽかぽか陽気にくる
2021年4月5日 10:30
小さな薄桃色の座席は、しっとりとしていた。 うっすらと、甘い春の香りもする。 シートのふちは、せっかちなエイのように、バタバタと揺れている。 指先でつっつけば簡単に破れそうな耐久性にもかかわらず、まさか、本当に乗れるなんて―― 桃色の絨毯は、風に身を任せて、ぼくをどこかに運んでいる。 きもちいい。と同時に、怖い。 ここは、地上数十メートルぐらいの高さ、だと思う。 学校の屋上にある