〜なぜ利用率が上がらない?〜 病児保育に関する保護者アンケート
はじめに 〜 病児保育の利用率 〜
病児保育は子どもが急な病気にかかった場合に一時的に保育を依頼する場所として、子育て世代の頼れる存在である。しかし、内閣府の調査によればその利用率は約30%程度であり十分に利用されているとは言えない状況である。
公費を投じて行われている事業であるので、せっかく作ったのであれば十分に利用されるべきであると思いますし、本当は使いたいというニーズがある(註1)にも関わらず利用されていない状況の背景には何があるのでしょうか。
AISASで利用者のフローを因数分解してみると、
A 病児保育を知る
I 病児保育に興味をもつ
S 病児保育を探す、使い方を調べる
A 病児保育利用する
S 病児保育を利用したことをシェアする
どの段階で利用障壁が存在するのかを今回は、実際に病児保育を利用するところまでの範囲で調査を行いました。
(註1) 病児保育のニーズに関してはこちら(別のnote投稿にリンクしています。)をご参照ください。
方法
今回の検討では子育て中の働く女性300人にインターネットアンケート調査を行ないました。
項目としては、
- 年齢、居住地域、婚姻状況、子どもの年齢、兄弟の有無・人数
子どもが病気になった場合手段に関して
- 病児保育の認知と利用状況、利用しない場合には利用しない理由
としました。
結果1 調査対象の背景
お答えいただいた方の背景は以下の通りでした。
概ね共働き世帯で、子供が1-2人程度いらっしゃるご家庭でした。
結果2 病児保育の利用経験と認知 (n=300)
病児保育の利用経験に関しては利用経験ありが12%にとどまりました。
利用経験のない265名に病児保育の認知状況を確認したところ、"全く知らない"が21%、"名前は知っているが利用方法は知らない"が54%、"利用の仕方まで知っている" が25%でした。
結果3 病児保育を知っているが利用しない理由 (n=210)
病児保育を認知はしているが利用したことがない210名のうち、利用しない理由としては、もっとも多いのは手続きの煩雑さ(41.9%)でした。
他にも、園内での二次感染の心配や利用希望時に定員に達していて利用ができない(註2)、などの理由がありました。
註2:利用率が30%とはじめに述べましたが、"利用希望時に定員に達していて"という文脈と合致しないと感じられるかもしれません。しかし、病児保育というサービスでは前日予約をしていたが当日になりお子様の病状が改善した場合などキャンセルが発生することがよくあります。そのため、利用したいというニーズと実際の利用がマッチしないという事態が起こり得るのです。
結果4 病児保育利用前後でのイメージの変化 (n=35)
では、手続きの煩雑さを乗り越え病児保育を実際に利用された皆様はどのように感じたのでしょうか。
以下に示すグラフは上段が利用前のイメージ、下段が利用後のイメージとして提示していますが、利用後にポジティブなイメージに転換されるようです。
考察
本研究により病児保育利用にあたり障壁となっているのは、「そもそも知らない」、「知っていても使わない」であることがわかりました。マーケティングファネルで考えるとSEARCHとACTIONのあたりに課題がありそうです。
「知っていても使わない」理由としては手続きの煩雑さが大半を占め、働く世代に利用しやすい手続きの仕組みを考える必要があると思われます。
手続きのステップを更に因数分解していくと、
・事前登録を自治体に申請する (見込み顧客)
・実際に利用したい施設に電話予約を入れる
・病院あるいは診療所で医師連絡票を記載してもらう
となります。
このように、紙媒体であったり電話をかけるなどアナログな部分が多く残されていることもこの業界の特徴と言えると思います。この点も面倒さを増している要因のように思います。
この事業の場合事前登録と実際に利用したいタイミングが時間の流れとして一致しない場合もあることや、利用したいタイミングが偶発的にしか発生しないという特徴もありそうです。
利用障壁となっている手続きの簡便化は一定の効果を出すと本研究の結果からは思われますが、先に述べたような当日キャンセルなどの課題もあるため必ずしも利用率の向上に直結するかというとそうでもないと思われます。
病児保育利用後のイメージは良好であることから、利用に当たっての障壁が乗り越えられればUXとしては良好なサービスかと思われます。全体設計としての良好なサービスとなっていければより子育て世代に役立つサービスに昇華していけるのではないでしょうか。
結論
病児保育利用率向上の施作の一つとして、利用手続きの簡便化が潜在顧客から見込顧客へのコンバージョンを増やすという点においては効果的である可能性が高い。
スライド - サッと確認したい方はこちらから -
この内容は2019年7月14-15日に岩手県盛岡市で開催された病児保育研究大会での発表内容を補完したものです。