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「棕櫚を燃やす」 野々井透

「これからの1年を余さず過ごそう」
「まるごと感じながら、みんなでそこに身を置く」

父が余命1年と宣告され、娘2人を併せた3人が残された時間を大切に過ごそうと決め、その1年が本書では描かれる。

「今って瞬間は、言った瞬間に終わっちゃうけれど、その今を捕まえて、貼り付けて止めておきたい」「貼り付けて永遠にしたいようなことを、きれいだなとか、美しいって呼びたくなるのかな」

回顧出来る様に、“今”は鮮明で言語化できている方が良い。


昨年に2人目の祖父を亡くし、その後に祖母が施設に入った。年末に会いに行くと、覚えていない事は疎か、目の前の状況や何もかもが空虚で、寂しいというか不憫にすら思えてしまった。

目の前で明るくする祖母を、俯瞰して憐れに思った。会いに行かねばと思う義務感は、祖母の為ではなく、自身に芽生える惜別の念を癒す為であろうかと思う。

今年の初め、能登半島を襲う地震があった。
小生は、石川県に実家があり、帰省の最中であった。震源地からは距離があったが、未曾有とは正にこの事であり、揺れている時間は長く長く感じた。

帰省中の中学生が亡くなったと報道で見た。
人の死を以て、自分の生を感じる。

今を与えられた人である以上、貼り付けられる様な“今”を全うしなければならない。機会はある。
そう決めた自分の今を貼り付けておきたい。

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