高山の山中で
これは、セミが・・・・いや、あの頃はひぐらしが鳴いていたかな?いろいろな品種が増えたせいでわからないが、セミが鳴いてた頃の、旅の始まりの頃の話、最近になって、ボクが彼に自分のことを聞かれるようになった。恐らく彼もその部分は何か察して深くは話をしないようにしている。相変わらず、彼なりに気遣いをしてるのがバレバレだ。とは言え、そういう優しいところがホクがしたら彼の良い所だ。
おっと、すまない。話がそれてしまった。それで、その頃に出会った人物の話だ。
「着いた〜!!」
彼は子どものように嬉しそうに話していた。どうして嬉しそうだって?それは、彼が怖い思いをしながら運転したからさ。なんてったって、山中の細い道をゆっくり曲がりながら「あっやばい!!」とかなんとかビビり散らしながら登った道さ。それだけ怖い思いをしたわけだし、さぞ嬉しいだろう。本当に、小さい子どものような無邪気具合。まるで弟を見ているようだ。
「よしっ!とりあえずここに着た目的は、そばを食べること!そして、おみくじを引くことだ!」
彼はとても嬉しそうにワクワクしながら周りを見渡す・・・・・アイツもそうだったっけ?
☆☆☆☆☆
昔々、今からで言うと・・・・・・そうだね、日本神話というのができる前の話?いや、時間的に日本統一を行われる前、大王政権が始まる前の話だ。
「ねぇさん!!大きなお魚見つけたよ!!」
「おっ!よく見つけたな八一。」
「兄さんは、魚を見つけるのが得意ですよね!」
ボク達は三人兄弟と父の四人で暮らしてた・・・・それと、この時のボクは今よりしっかりとした大人のお姉さんだったよ。胸も有ったし。
「おや、八咫身さま、今日も兄弟で元気に川遊びでいますか?」
「はい。今日も仲良くいますよ。」
「こんにちは!」
「こんにちは。」
「こんにちは!おばさん!!」
「あら、縁ちゃん、こんにちは。」
弟に対して名前なしでの挨拶か。まぁ、そうだよな。
弟は他の人とは違う。彼は今のひろきと同じものを持ってたと思う。でも、それ故にいつも他の人を困らせたり、本人もそれで悩んだりしている。一応、今は私が村の長であるため皆何も言わないし、露骨に仲間外れをすれば村八分に有ってしまう。そうなれば、助けることもなく、野垂れ死ぬのが関の山。だからこそ、長であるボクの言葉には誰も逆らわない。そして、ボクは弟が笑っていれるように頑張ってる。
「よし、ねぇさんや縁の為にも、今日はこの魚の塩焼きを作ろう!!」
「わーい!!私お兄ちゃんの塩焼き大好き!!」
「おっ!良いねぇ〜、後で稽古が終わったらお父さんにも伝えておくよ。きっと、めちゃくちゃ喜ぶよ。」
縁も父さんも弟の異常性は知ってる。だけど、考えは同じ。僕達は家族であるし、誰かの為に一生懸命になれることも知ってる。人より不器用で、出来が悪いだけ。それだけの話だとみんな分かってる。だから、家族の中では彼を仲間外れにすることはない。例え、仕事ができなかったりしてもね。
「さて、そろそろ稽古に行くよ。縁、お兄ちゃんの手伝いよろしくね。」
「は〜い!」
ボクは長女である為、戦闘の稽古を教えられてきた。当時はまだ中国、朝鮮からの渡来人があまり来てなかった為、鉄はあまりなかったものだ。だが、僕たちの村は鉄をもらってた為木の棒で剣の代わりに練習したり、今で言うところの関節技などを教えてもらったり、演武も教えてもらった。
「おまたせしました。」
高倉式の倉庫を開けていたのは正座をして精神統一をしていた父だった。
「いや、私も精神統一を終わらせた所だ。」
「なるほど、間に合って良かった。」
父は精神統一をしなければ武器をうまく振るえないらしい。父は昔からこの村に来たものを追い払ったり、山一つ程の猪や熊も倒してる化け物だ。
「精神統一はしなくていいのか?」
ボクは地面に置いてある研がれた棒を持ち上げる。
「うん、大丈夫だよ。」
ボクは父に構える。
「そうか。」
父も相対するように置いていた棒を構える。お互い、同じように研がれた武器、と言っても一本を取る戦いではなく、お互いの力量を測る戦い。そこまで本気てやることではない。
「行くぞ!」
「うん!」
うん、いつものようだ。お互いに均衡した状態でぶつかり、棒をはじく音が響く。そして、少しすると父はー
「最近、不作になることは無いようだな。」
饒舌になる。あの人はお酒とかより戦闘の中でしか自分を見いだせない人だ。だからこういう稽古の時はよく話し出す。
「うん。雨もほどよく降って空も綺麗だよ。」
「そうか・・・・・とはいえ、いつ不作になるかはわからん。その時は・・・・・」
「大丈夫。その時はボクが生贄になるよ。」
不作の時の儀式、それは、この村での一番の長であり、巫女であるボクが生贄になること。近くにある神の湖に木の実を鎮める。それだけのこと。
「そうか・・・・・八一の方はどうだ?」
「あの子はすごいよ、ボクの教えた技を数日で会得してる。力としては私と父さんと同じぐらいかな。」
「そうか。息子がそこまで強くなってると聞くと嬉しいものだ。」
とても嬉しそうな顔をしながらも手を抜くことはない。さっきと変わらずの均衡、本当にこの人は変態というか・・・・・すごい人だ。
「あの子と稽古してあげたら?」
「そうだな。このあと、話してみても良いかもな。」
「あの子なら今日は魚の塩焼きを作る気だ。めちゃくちゃやる気満々だよ。」
「そうか。縁もどうだ?」
「あの子もちゃんとやってる巫女としての仕事も、家事もね。」
父さんは一度打ち終え、棒を下ろす。
「数カ月あとだが・・・・・アイツを他所の村へ嫁がせようと思ってる。」
は?嫁がせる?何言ってるんだこの人!?と言うか、ボクにこの地位を渡してから何をしてたんだ?
「いや、急すぎて話が見えないんだけど。」
「最近、近くの村の方へ手伝いに行くことがあってな、その村は長男しかいなく、跡継ぎの巫女が居なくて困ってるそうだ。」
なるほど、ボク達に何も言わず何処かふらふらと妖怪のように消えてた理由はそういうことか。
「そこで、縁を嫁がせたい。」
「それは縁に言った?それに、大丈夫?巫女が居なくなったらこの村の存続とかどうなるの?」
「構わん。八一に村を引っ張らせる。」
「引っ張らせるって。」
「この話はお前がいなくなったあとの話だ。八一には多くの可能性があると思う。アイツにやらせれば村は強くなれる可能性はあるし、皆をまとめられる。アイツにはそんな力があると俺は見ている。」
村を引っ張れるかは正直知らない。だけど、あの子の心の優しさや誰かの為に一生懸命やれる所は本当だ。あとは、それを村の人にアピール出来たら良し。
「その頃に、縁がいたとしたら縁に甘える可能性があるし、村の連中も縁の方を持ち上げる可能性が高い。」
縁が長・・・・・いい話ではない。あの子は頑張りすぎてしまうところがある。だからそれを上手く支えられる人が大切だ。だけど、恐らく八一が支える側になれば無能な兄の尻拭いとか村からの怒りなど様々な要因で潰れる可能性が高い。それに、ボクの末路を知ってしまったとしたら・・・・・。
「言いたいことは分かったよ。このまま縁をここに置いとくと、ボクが死んだあとのことが大変で、八一のことを思ってのこと・・・・・そう言いたいんだろ?」
だけど、ボクだって兄弟だ。このまま父さんの言う通りに兄弟としてしたくない。なるべく仲良くいたい。
「お前の言いたいことも分かる。俺も別に他所の村だから無視することが良いことも知ってる。だが、噂程度だが他所の村の者が他の村を攻めてる行為がある。それに対する同盟にもなる。」
何処か悔しそうだが、何かを確信してる目をこちらへ向ける。なるほど・・・・・あとは、縁次第。縁が、その選択をしたら何も言わないよ。
「分かった。後は縁に任せるようにする。」
ボクは扉を開け、外へ出る。
「ありがとう」
その一言を言って頭を下げてきた。
「良いよ。気にしないで。それより、いい匂いがするよ。」
下を降りると二人がいた
「姉さん!!父さん!!できました!!」
「今行くよ!」
ボクは、満面の笑みを向ける二人に軽やかな足で、降りていく。
☆☆☆☆☆☆
アイツを見てたらなんでかこんなこと思い返してた。なんでかな?この村ののどかな空気が思い出させてくれたのかな?
「え?神社何処!?」
で?コイツはどうして小さな集落を彷徨う程度のことで迷子になってるんだ?
「どうしたんだい?」
「神社が・・・・ない。」
「マップは?」
「何処で貰えばいいんだろう?」
いや、道行く人に聞けよ。なんではじめてお買い物に行く子どもみたいになってるんだ。
「マジで、どうしよう。」
やれやれ、ここは自分で探させるべきか。
「どうかしましたか?」
「え?」
ボクは目を見開いてしまった。だって、この声は聞き覚えがある。
「とても、迷ってる様子ですが・・・・いかがなさいましたか?」
「あの~、神社って何処にありますか?」
その顔、間違いない!別の村に嫁いで以来会ってはないが、変わってない!!
「この先真っすぐ行ったら有りますよ。」
「本当ですか!!ありがとうございます!よし、おみくじ引いてみるか!!」
「あの~、おみくじは4月だけしかでません。甘酒とともに振るわれますので・・・・・はい。」
「あっ、そうですか。」
「そう落ち込まないでください。きっと貴方なら神社でご利益が貰えますよ。」
「本当ですか!?」
「えぇ。この神社はご縁を結ぶ神社です。行ってみてください。」
「ありがとうございます!!」
彼は走り去る。まるで子どものように楽しそうにね。
「お久しぶりです。八咫身姉さん。」
そう、縁は気付いていた。ボクのことに
「縁!!」
「まさか、姉さんが彼と一緒にいて驚きましたよ。子孫ですか?」
「いや、神社に来た子だ。日本一週をしていて、面白そうだからついてきたんだ。」
ボクの話を彼女は少し固まったように聞いていた。
「姉さん、変わりましたね?昔から何処かに行くことなんてないのに。」
そうだったね。昔のボクは長として全うすることを優先してたからね。
「まぁ、時代の流れかな。所で、ここはキミが生きてきた村?」
「えぇ。私が老衰するまでいた村です。」
「大丈夫だったかい?嫌なこととかされなかった?」
「無いですよ。そんなこと。」
縁は今まで見たこと無いほど幸せな顔を向け少しお腹をさする。
「愛する人ができて、その人と一緒に生活をして、いっぱいの子どもたちに囲まれて老いて死ねました。日本統一の際も私達はすぐに従いながら気に入らなければ戦いもしました。それでも、死んで幸せだと思える人生でしたよ。」
そっか、そうなんだ。良かった。この子だけでもそんな思いが出来て。
「どうしたんですか?泣きそうですよ?」
「いや、何でもない。」
「そうですか・・・・・姉さんも今は幸せそうですけど。」
幸せか・・・・どうだろうな。楽しいとは思ってるけど。
「そうかな?ボクには少し分からないかな。」
「いつか、それが幸せと呼べる日が来ると思いますよ。」
「そっか。そうだよね。」
妹からそんな事を言われれるなんて・・・・まぁ、この旅がボクに何をもたらすのか、彼が何を見つけるのか。ボクはそれを知りたいからついてきたんだ。
「さて、そろそろ彼のもとに行くよ。」
少し彼女の前へ出る。
「いってらっしゃい、姉さん!」
彼女はボクに昔と変わらない笑顔と手を降ってくれた。
「行ってくる。」
ボクは一言伝えて彼のもとに行く。