![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/171412221/rectangle_large_type_2_35ec5fcf30c74932f1a6086f95a6e2ee.png?width=1200)
「微分可能ならば導関数が連続」となる関数の満たす十分条件
以下、実数の定数$${a}$$に対し、$${x=a}$$の近傍で定義される関数$${F(x)}$$が$${x=a}$$の近傍で連続、かつ$${x=a}$$の近傍($${x=a}$$を除く)で微分可能とします。
$${F(x)}$$が$${x=a}$$で微分可能 ならば $${F'(x)}$$が$${x=a}$$で連続 、と言えるか?
は有名な偽の命題であり、反例としては($${a=0}$$として)
$${F(x)= \begin{cases} \displaystyle x^2\sin \frac{1}{x}~ (x\neq 0) \\ ~~~~~~0~~~~~~(x=0) \end{cases}}$$
などが挙げられます。実際、$${h\neq 0}$$に対し、$${\displaystyle \frac{F(h)-F(0)}{h}=h\sin \frac{1}{h} \to 0}$$より$${F(x)}$$は$${x=0}$$で微分可能です。しかし、$${x\neq 0}$$に対し、$${\displaystyle F'(x)=2x\sin \frac{1}{x}-\cos\frac{1}{x}}$$は$${x\to 0}$$のとき振動するので$${F'(x)}$$は$${x=0}$$で連続 ではありません。
受験生の答案や高校数学の参考書などで、「$${F(x)}$$が$${x=a}$$で微分可能」と「 $${F'(x)}$$が$${x=a}$$で連続」を混同する、と言うミスをしばしば見かけます(主張が「似ている」からか?)。皆さん、くれぐれもご注意くださいませ。
さて、以下は、2025/01/23(木)実施の杏林大医学部の数学の入試問題の抜粋です(第2問(b))。
定数$${a,b}$$に対し、関数$${f(x)}$$を次の式で定義する。
$${f(x)= \begin{cases} \displaystyle~~~~ ~ \frac{ax+b}{\sqrt{x^2+9}}~~~~~ ~ (x\geqq 0 のとき)\\ \displaystyle \frac{(3-2x)\sin 2x}{6x\cos x}~ (x<0 のとき)\end{cases}}$$
(b) $${\displaystyle \lim_{x\to +0}f(x)=\frac{b}{\bf{イ}}}$$であり、$${\displaystyle \lim_{x\to -0}f(x)=\bf{ウ}}$$であるので、関数$${f(x)}$$が$${x=0}$$であることから、$${b=\bf{エ}}$$とわかる。また、$${\displaystyle \lim_{x\to +0}f'(x)=\frac{a}{\bf{オ}}}$$であり、(中略)$${\displaystyle \lim_{x\to -0}f'(x)=\frac{\bf{カキ}}{\bf{ク}}}$$となるので、関数$${f(x)}$$が$${x=0}$$で微分可能であることから、$${a=\bf{ケコ}}$$と定まる。
■解答欄を枠囲みしておらず、すみません。
問題(全文)と解答については、以下のサイトなどでご覧ください。
https://yms.ne.jp/session/kaisoku/(YMSさんのサイトです)
私がこの問題を最初に見たとき、「後半の$${a}$$を求める誘導、まずくないか?」と思いました。本問の仮定は「$${f(x)}$$が$${x=0}$$で微分可能」です。従って、$${a}$$を求める誘導としては、この仮定、つまり「$${\displaystyle \lim_{h\to 0}\frac{f(h)-f(0)}{h}}$$が収束する($${\displaystyle \lim_{h\to +0} \frac{f(h)-f(0)}{h}}$$と$${\displaystyle \lim_{h\to -0} \frac{f(h)-f(0)}{h}}$$が同じ値に収束する)」に基づいた誘導を設定すべきです。しかし、本問の誘導は上記のものではなく、$${\displaystyle \lim_{x\to +0}f'(x)}$$と$${\displaystyle \lim_{x\to -0}f'(x)}$$を求めさせ、これらをイコールで結ぶことを誘導しているように見えます。これは「$${f'(x)}$$が$${x=0}$$で連続」から導かれることであり、仮定の「$${f(x)}$$が$${x=0}$$で微分可能」とは別物です。
2025杏林大の2(2)ですが、誘導が不適切です。
— 大澤裕一 (@HirokazuOHSAWA) January 23, 2025
一般に
「F(x)がx=0で微分可能⇒F'(x)がx=0で連続」
は正しくないので、aを求める誘導は「F(x)がx=0で微分可能」に基づいて設定すべきです(この問題だと「F'(x)がx=0で連続」に基づいて設定されている)。
画像はD組さんから引用しました。 pic.twitter.com/WRGUKyubNp
「まさか、大学の入試問題でも『$${f(x)}$$が$${x=0}$$で微分可能』と『$${f'(x)}$$が$${x=0}$$で連続』を混同してしまうことがあるのか!?この誘導は不適切では?」
そう思い、杏林大にも連絡しました。
さて、この問題に対して
「次のように見れば、この問題には不備がない、と考えることができる」
という見方を椎茸さん(https://x.com/shitake_math)に教えていただきました。以下、その見方を私の解釈に基づき説明します。椎茸さんに厚く御礼を申し上げます。
まず、冒頭の
$${F(x)}$$が$${x=a}$$で微分可能 ならば $${F'(x)}$$が$${x=a}$$で連続 、と言えるか?
は正しいとは限らないわけですが、実は$${\displaystyle \lim_{x\to a+0}F'(x)}$$と$${\displaystyle \lim_{x\to a-0}F'(x)}$$が収束するときは正しくなるのです。
[定理]
実数の定数$${a}$$に対し、$${x=a}$$の近傍で定義される関数$${F(x)}$$が$${x=a}$$の近傍で連続、かつ$${x=a}$$の近傍($${x=a}$$を除く)で微分可能とする。また、$${\displaystyle \lim_{x\to a+0}F'(x)}$$と$${\displaystyle \lim_{x\to a-0}F'(x)}$$が収束し、そのときの極限値をそれぞれ$${p,q}$$とする。このとき、以下が成立する。
(1) $${F(x)}$$が$${x=a}$$で微分可能 ならば $${p=q}$$
(2) $${p=q}$$ ならば $${F(x)}$$は$${x=a}$$で微分可能
■つまり、上記の仮定の下で、$${F(x)}$$が$${x=a}$$で微分可能であることと$${p=q}$$は同値、ということです。
■(1)において、$${p,q}$$の値は$${F'(a)}$$に一致します。
■(2)において、$${F'(a)}$$の値は$${p(=q)}$$に一致します。
[証明](→平均値の定理を用いる)
仮定より、$${x\neq a}$$なる$${x}$$に対し、平均値の定理より
$${\displaystyle \frac{F(x)-F(a)}{x-a}=F'(c)}$$…☆
となる$${c}$$が$${x}$$と$${a}$$の間に存在する。
(1) ☆の両辺で$${x \to a+0}$$とすると$${F'(a)=p}$$、$${x \to a-0}$$とすると$${F'(a)=q}$$となるので、$${p=q~(=F'(a))}$$//
(2) $${p=q}$$より、この値は$${\displaystyle \lim_{x\to a}F'(x)}$$に等しい。☆の両辺で$${x \to a}$$とすると$${F'(a)=p(=q)}$$なので、$${F(x)}$$は$${x=a}$$で微分可能//
(1)より、[定理]の仮定の下で、
$${F(x)}$$の$${x=a}$$での微分可能 ならば $${F'(x)}$$が$${x=a}$$で連続
が成立すると分かります。
冒頭の偽の命題は、仮定に「$${\displaystyle \lim_{x\to a+0}F'(x)}$$と$${\displaystyle \lim_{x\to a-0}F'(x)}$$が収束する」を追加することで、真の命題になってしまうわけですね。
この[定理]を用いれば、杏林大の問題の「$${a}$$を求める誘導」が正当化できます。$${\displaystyle \lim_{x\to +0}f'(x)}$$と$${\displaystyle \lim_{x\to -0}f'(x)}$$がそれぞれ$${\displaystyle \frac{a}{3},-\frac{2}{3}}$$に収束するので、$${f(x)}$$の$${x=0}$$での微分可能性を仮定すれば、さっきの[定理](1)により$${\displaystyle \frac{a}{3}=-\frac{2}{3}}$$(つまり$${a=-2}$$)を必要条件として得ることができます。逆に、$${\displaystyle \frac{a}{3}=-\frac{2}{3}}$$のときは、[定理](2)により$${f(x)}$$が$${x=0}$$で微分可能と分かり、十分性もOKです。
ということで、この[定理]を用いることで、杏林大の問題は「不備ではない」と言えるわけです。どうでしょう?
私は、上記の説明は理解できるものの、やはり
「問題文の書き方から判断すると、作問者がこの[定理]を前提として本問を作ったとは思えない。作問者が『$${f(x)}$$が$${x=0}$$で微分可能』と『$${f'(x)}$$が$${x=0}$$で連続』を混同した、と考える方が自然では?」
と思っています。
皆さんはこの問題、不備だと思われますか?それとも「問題無い」と思われますか?ぜひ、ご意見をお寄せください!
@HirokazuOHSAWA さん,@shitake_math さんとの杏林大学の導関数の問題のやりとりを見て,何か作ったような気がして,自分の作成したプリントを探してみました。その当時(2020/10),下記のサイトを参考にしました。https://t.co/nNIN6r6PXu pic.twitter.com/rF4eiU3hgz
— 清水 団 Dan Shimizu (@dannchu) January 24, 2025
[追記(2025/01/26(日))]
この件について、2025/01/23(木)に杏林大に問い合わせをしていましたが、2025/01/25(土)に杏林大学入学センターよりお返事を戴きました。早い!(この手の問い合わせには、返答がないこともしばしばあります)
引用の件について、杏林大に問い合わせをしていましたが、杏林大学入学センター よりお返事を戴きました。 https://t.co/Iywxqt5G8g pic.twitter.com/GZd0BCkWfB
— 大澤裕一 (@HirokazuOHSAWA) January 25, 2025