かんたんビジュアル法律用語「不動産と動産」 #6
今回は、法の世界における「物」の二類型である「不動産」と「動産」をみていきます。
物や不動産という言葉は日常用語としても使いますので、法的概念としてどのように把握されているか、という点を確認していきましょう。
1 基本的意味
(1)前提
民法においては、私権の対象となる物の定義をしています。
民法上、物は有体物でないといけません。どんなに素晴らしいことを思いついても、人の頭の中にあるアイデアや思想は、いくら「私の知的創作物だ」と言い張っても、有体物ではないので民法上の物としてその人が所有できるわけではありません。
また、物は、私権の対象となるものを規定するための法的概念ですので、人が支配することができるものでなければなりません。したがって、太陽なんかは、とても人の支配できるようなものではありませんから、権利の客体たる物ではありません(そもそも太陽は核融合反応という現象そのものだとすれば、有体物ですらないのかもしれませんが)。
物は、必ず不動産か動産か、どちらかに入ります。また、不動産であれば動産ではなく、動産であれば不動産ではありません。排斥しあう概念であり、物である以上は、どちらか一方だけに位置付けられます。
(2)不動産
不動産とは、土地及びその定着物です。
土地とは何でしょうか。民法上の土地の概念はたいへん面白いです。土地とは、地表面及びその上下の空間である、という定義です。上下に及ぶというのが興味深いですよね。例えば、土地の「上」は、大気の存在する高度のところまで、その「土地」の構成部分と理解されています。考えてみるとこうした理解は合理的で、土地を所有しているけれども、その上の空間を所有権者として使えないということでは、その土地に入れませんし、建物を建てたりもできません。そのため、上空もその「土地」概念に含まれているとされるわけです。
土地の定義の「地表面」についてはどうでしょうか。土地は、後述する動産と異なり、外観上、1つ1つ個別に分離独立しているようには見えません。日本の本州は日本を構成する最大の島ですが、この本州の地表面はずっとつながっていると見ることもできます。では本州というのは、「一つ」の土地なのか。実はそうではなく、日本の法律では土地は、「筆」という単位で区切られ、数え上げることになっています。「一筆」「二筆」という数え方で土地を数えるのですが、これは一定範囲の地表面を区切って、それを一単位としている、ということを意味しています。
土地の定着物も、不動産です。定着物の典型が「建物」です。
建物を定義的に表現すると、土地に定着していて、外気との分断性があり、用途に従った利用ができる内部空間を有する物のことです。普通の家やビルなどはもちろん建物です。
建物の数え方の単位は、「個」が正式です(不動産登記法2条5号)。「建物一個」「建物二個」と表現します。ただ、日常的には「棟」で数えあげているように思います。「建物一棟」「建物二棟」という言い方が実際には一般的ですね。
(3)動産
不動産以外の物が「動産」です。前述したとおり、不動産ではない物は全部、動産です。ノートパソコンやスマホ、本やペン、自動車や航空機や船舶などは動産です。ちなみに、民法上、動物(ペット、家畜、野生のもの全て)も動産になります。
法律上、動産は全部が一様に扱われるわけではありません。さまざまな特別法による特別な取り扱いの定めがあります。例えば、動物は確かに「物」たる動産なのですが、「命あるもの」として特別な保護が与えられています(動物の愛護及び管理に関する法律)。
2 コメント
法律はどうして、物を不動産と動産に二分しているのか。もちろん、不動産と動産で、その法的扱いを異にするという考え方で組み立てられているからです。典型的には、権利が変動する場面における扱い方が、不動産と動産では大きく異なります。
さて、「物」概念は、単純なようで実はかなり奥深い世界です。この記事で触れなかった数多くの興味深い議論があります。学んでいくと、法的概念の世界観がすこしずつ鮮明になっていくような気がします。
【参考文献】
・山野目章夫『民法概論1 民法総則 第2版』(有斐閣、2022)
・山野目章夫編『新注釈民法(1)総則(1)』(有斐閣、2018)
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