シンムラテツヤ×西洋彦 fragments対談
2020年2月9日 東京「喫茶三月」にて
この対談は、まだ日本で新型コロナウィルス感染が広がる前、寒さの残る2月の東京、平和で穏やかな午後に行いました。
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東京、杉並区、都会から少し離れた長閑な風情の芦花公園駅。数分歩いた所にある「喫茶三月」は、窓から柔らかな光が差し込む、静かで気持ちの良い喫茶店です。ニューアルバム「fragments」のレコーディング期間中、僕達はよくここでコーヒーを飲んだり、かぼちゃプリンを食べたりして一息ついていました。
音源のマスタリングも終わり、PV撮影も終わってひと段落ついたこの日、アルバムのプロデューサー、シンムラテツヤさんと再び喫茶三月を訪れて、コーヒーを飲みながら、あらためて今回の作品について語り合いました。
自分のは、いくらでも無責任にやれるけど、西君に満足してもらいつつ、自分の中でこう、冒険するという。今までで初めての経験だね。
シンムラテツヤ(以下 シ) :とりあえずまず、アルバム完成おめでとうございます!
西洋彦(以下 西):はい、ありがとうございます。というかお世話になりました、という感じです(笑)。全部やってもらったので。
シ:そうだね。いつ話をもらったんだったっけ?
西:去年の、夏くらいですね。確か、ここ、喫茶三月でライブして。倉内太さんとシンムラさんとライブした後くらいに、レコーディングお願いしますって話をしたような。
シ:そうだったね。最初からアルバムでって話だったんだよね?
西:そうですね。
シ:その前にカセットも(一緒に)作ってたよね?(注:2018.5.27リリース 西洋彦カセットシングル「Only love can break my heart/五月の青空」)
西:はい。それが一昨年の春ですね。リリースが5月だったので、(一緒に)録音したのはたぶん春ですね。そこから1年以上経って、アルバムのレコーディング開始したって感じですね。
シ:うんうん、そうか。
西:カセットのレコーディングは、川崎市の「スタジオハピネス」でやってもらったんですが、アルバムはシンムラさん家でレコーディングしてもらいましたね。
シ:いや、不安でいっぱいでしたね。
西:そうですか?(笑)自分のレコーディングやるのとはまた違いますか?
シ:違うね。自分のは、いくらでも無責任にやれるけど、西君に満足してもらいつつ、自分の中でこう、冒険するという。今までで初めての経験だね。
西:はぁ、なるほど。その、録り方自体も、シンムラさんのソロの作品とはまた違う録り方だったんですか?
シ:いや、基本的には一緒だね。でもそのやり方がハマるのかな、っていう不安もあったし。誰かの弾き語りを家で全部録音するとかも初めてだったしね。
西:あぁ、なるほど。
シ:あの、簡易録音ブースみたいなのね(笑)
西:(笑)
シ:外から見たらメチャクチャでしょ?(笑)
西:あぁ、凄かったですね、あのマイクの、なんて言うですか囲いみたいなの。
シ:そうそう(笑)、キーボードケースと図鑑とかで立たせてね(笑)
西:傾いててね(笑)
西:でも、あのマイクがすごいやっぱ良かった気がしますね。
シ:あれ西君と相性良いよね。良い音で録れた。
西:ほんと良い音で。弾き語りの曲はほとんどあれで録ってもらいましたね。バンドの曲は時間がない部分は京都で録ってもらいましたけど。
「Sunny」も、最初はレゲエだったもんね?
西:でも録音もそうですけど、アレンジもだいぶ、ほとんどやってもらったって感じですよね。
シ:そうだね。けど、お互い、離れてるから、限られた時間で固めなきゃいけないていうのが、むしろ自分としてはやり易くて。
西:あぁ、なるほど。
シ:一回デモ聞いて、スタジオで合わせて、もうこれしかない、みたいな感じで。
西:なるほどなるほど。
シ:あんまり選択肢を増やさないって事かな。
西:なるほど。無限にやり直しが効くんじゃなくて、って事ですね。
シ:けどなんとなく、聞いて、こうやったら良いなっていうのは、今回すぐ浮かんだし。
西:うん、うん。
西:一番最初アレンジって、バンドのやつからやったんでしたっけ?ソロでしたっけ?
シ:バンドじゃないかな。
西:バンドのリハーサルを一番最初にやって。それで、既に(カセットシングル制作時に)録り終えてた「Only love can break my heart」と「Sunny」以外のバンドの3曲のアレンジが、まぁだいたいそこで固まったって感じですね。「keage」と「シュークリーム」と、あと「郵便屋さんになって」と。まぁどれも、パシッとこれしかないっていう感じのアレンジになったって感じがしますね。
シ:うん。
西:ほとんど、ベースメントのアレンジはシンムラさんが作ってくれて、それを基にメンバーの皆さんに組み立ててもらうって感じでしたよね。
シ:なんか、方向性を持たせるっていうかね。
シ:「Sunny」も、最初はレゲエだったもんね?たしか。
西:そうそうそう(笑)、「Sunny」最初レゲエで。
シ:で、なんかうまくいかないってなって。
西:うん。僕がレゲエをやる意味があんまりない気がしてて。ボツになりかけてたんですよね、あの曲は。
シ:そうそう。で家で弾き語りをしてもらったんだよね、目の前で。
西:あぁ、そうでしたね。
シ:で、すごい良い曲だから、ボツはもったいないよって。
西:そうですね。それでアレンジをそこで考えてもらったんですよね。
シ:うん。
西:それでまぁ、ソウルみたいなテイストの曲に。
シ:ちょうど、なんか二人で、ジョージ・ジャクソンとかさ、ちょっとこう、ゆるいって言ったらあれだけど、何て言うんだろうな、気持ちの良いソウルを聞いてて、これ西君のフィーリングに近いね、ってなって。
西:うんうん、そうでしたね。
西:「郵便屋さんになって」も、ソウル風のアレンジですよね。あれは、何て言うんですかね、ジョージ・ジャクソンとかとまた違う感じですよね。
シ:もうちょっと違うね。やっぱこの、たぶん共通で好きなミュージシャンで、アレックス・チルトンとか。あの人のブラックミュージックの解釈の仕方っていうか。そういうの取り入れたら合うだろう、って。
西:うん、うん。
シ:もうスタジオで、一発でもう、これでイケるって感じだったよね?
西:そうですね(笑)。奇跡的にハマってましたね。
西:あとまぁ、「シュークリーム」は、スタジオでわりとなんか、フリーな感じでアレンジやったとこありましたよね?
シ:うん。そうだね。あれ、誰だっけ、ヴァン・モリソンの、タイトルちょっと出てこないけど、即興性を大事に、風を感じてやってみよう、みたいなこと言いながら。
西:そうそう(笑)。そうでした。
シ:ギターがひたすらフワフワ言ってる。
西:オオニシ君(注:今作参加ギタリスト オオニシノブヒサ)とシンムラさんのギターが。
シ:ずっとボリュームコントロールで、フワンフワンて。で後で聞きなおしたらそれが良かったよね。
西:良かったですよね。その時やった感じが。
シ:あれで、結構決まった感じあったね。
西:とんじる君(注:同ドラマー キャプテン・トンジ)のドラムも、色々試してもらって、結局ブラシで、軽い感じでやってもらうのがしっくりくるってなって。
シ:あれも固まった感じがあったね。
西:うん、あれもわりとパッと決まりましたね。
スタジオでレコーディングした時に、最初ドラムから録ってたんですよね。あれだけで、めっちゃいい曲になるやん、ていうの感じましたね。
西:バンドアレンジは、結構すんなり行ったような感じでしたよね。
西:まぁ、元々ベースメントをシンムラさんが作ってくれてたから・・。
シ:そうだね、作業し易い状態にしたって感じだよね。
シ:「keage」が一番、突っ込んでるよね?
西:あぁ(笑)、突っ込んでますね。
西:僕の中でもあの曲はわりとなんか、今まで作ってた曲に結構飽きてきてた部分があって、もうちょっと自由にというか、なんか新しい風を取り入れたいな、みたいなのがあった中で、あれが一番作った時期が遅くて、最近の曲なんですけど。それを形にできたなっていう感じが。
西:でもあのアレンジは一番、試行錯誤があったかもしれないですね。
シ:そうそう。ベースとドラムがね、けっこう。
西:ほかの曲とちょっと雰囲気が違うというか、ノリが違う感じですよね。
シ:ポストロック感が出てる。
西:あのアレンジは、ほんと、シンムラさんの引き出しめちゃめちゃフル活用というか、なんか、凄いなって思いましたね。別の曲になった感じがありましたね。
シ:あれ、変拍子だよね。
西:そうですね。
シ:そこにドラムが歌うように絡んで、ベースもそこに絡むようにして。ってやったらああいうアレンジになったと。
西:うん、うん。そうですね。
西:あと、オオニシ君のコーラスが、かなり効いてますよね。
シ:うん。支えてるよね。
西:ああいう、なんかフワ~て何かこう、層になってうっすら後ろ流れてるみたいなのが上手ですよね、オオニシ君。
シ:うん。
西:他の、シュークリームのコーラスとかも。
西:シュークリームのコーラスは、初め、僕がこんな感じでっていう原案みたいなの録ってて、それをシンムラさんとオオニシ君に聞いてもらって。けど、ちょっとなんか動き過ぎてるというか、コード感とかがあんまりスムーズじゃない感じ、って話になって。それでオオニシ君が、あんまり変に動かずに、下でピッタリくっついてるオーソドックスなやつが合うんじゃないかって。
シ:見事だよね。
西:ほんとに見事。上手ですね。
シ:ジョンヨコ(注:シンムラテツヤ&ジョンとヨーコのパブロックの略)で言うと、アダチ君(注:今作参加ベーシスト他 アダチ・ヨーゼフ・ヨウスケ)の今回の支えっぷりも凄いよね。
西:確かに、ほんとそうですね。結構いろいろやってくれてますね、PVの撮影もやってもらいましたし。ベースも結構いろいろ工夫してくれてると思います。
シ:うん。バンジョーも弾いてくれてるしね。
西:そうそうそう、バンジョーもね。「シュークリーム」で。
シ:あれ効いてるよね。
西:ほんとそうですよね。適当にというか、ちょっととりあえずやってみるわ、みたいな感じで。
シ:あれはね多分、試し録りしたやつをそのまま使ってるんだよね。
西:あ、そうなんですね。
シ:うん、そのフィーリングが良くて。とりあえず録っとくから、本番の時にまた録ろうみたいな話だったけど、それをそのまま採用して。ちょっとゆるい感じがいいよね。
西:あれ良いですよね。アクセントになって。
シ:とんちゃんも、「keage」のドラム頑張ってくれて。
西:そうですね。あのスネアの音とかすごいこだわって作ってくれて。ほんとにあの曲は特に、ドラム難しいというか、ぴったりイメージに合うのをやるのって簡単なことじゃない気がしたんですけど、わりとすぐバババっと作ってくれて。
シ:うん。それがそのままイントロになったよね。
西:あれ、スタジオでレコーディングした時に、最初ドラムから録ってたんですよね。あれだけで、めっちゃいい曲になるやん、ていうの感じましたね。
シ:うん、そうかそうか。
シ:それだけ、良いアルバムになったってことだね。
西:そうですね。あと、今回ジョンヨコの4人以外にも、「バゲットの香りだけが希望みたいな夜」にチェロで成澤美陽さんにも参加してもらいました。
シ:そう。西君のデモ曲を聴かせてもらって、チェロの響きが何曲か合いそうだなと思ったんよね。その中から選び抜いて「バゲットの香りだけが希望みたいな夜」にチェロを入れようってなって。で、成澤さんを紹介してもらったんだよね。
西:はい、そうでした。
シ:リハで音合わせしただけで音の波長が合って、もう間違いないって感じだったよね。
西:そうですね。スタジオで合わせてみて、すごく良いフィーリングでした。イメージを超える、すごく良い音で弾いてもらえました。
西:いやほんとに、皆さんのおかげで、自分だけでは見れない世界をいっぱい見せてもらったって感じがあります。ありがたいです。
なんだろ、お互い尖ってたのかな(笑)
シ:西君と知り合って何年ぐらいだっけ?
西:たぶん、僕がファーストアルバムを出した前後ぐらいですよね。
シ:あれは200・・。
西:あれは2016年です。
シ:じゃまだ、5年?あれ、全然違うか(笑)
西:4年経ったか経ってないかくらいですかね。
シ:そうだっけ。あれ、今何年だっけ?
西:今2020年ですね(笑)。
シ:じゃあそうか。
西:アルバム出した後に、一緒にあの、ミックスナッツハウスの林良太さんと三人で、三羽ガラスツアーをやったんですよね。
シ:やったね。
西:あれが、夏、7月くらいですね。その前にもたぶん拾得(注:京都の老舗ライブハウス)で一緒にやりましたね。
シ:そうだね、けどあんまり喋ってないよね、その時。
西:そうですね。ちょっとだけ・・・。シンムラさん確かミックスナッツハウスと一緒に来て。
シ:そうだ、サポートで・・・。なんだろ、お互い尖ってたのかな(笑)。お互い警戒してたのかな(笑)
西:(笑)
西:あれ?あの時って、シンムラさん、「PLAYBOY」(注:シンムラテツヤ ソロ名義ファーストアルバム)出してたんでしたっけ?
シ:えっとね。出してなくて。覚えてるのは、出る前に西君に聴いてもらったんよね、車で。
西:そうですね。それが三羽ガラスツアーの時ですね。
シ:で、車で「PLAYBOY」かけて、すごい気に入ってくれて。今でも覚えてるけど、「トンネルを抜けた気がしました」って言われたんよね。
西:(笑)
シ:当時から詩的な言い方を(笑)
西:へぇー、そんな言い方をしてたんですね。でもあれは、車で聴かせてもらって、凄い面白かったなというか、新鮮でしたね。ちょっと外国の感じがして。確か、林さんも「これ、外国でリリースしたら良いやん」って言ってて、確かに!って思えるくらい、面白い感じがありましたね。
西:「PLAYBOY」くらいからですか?そういう、色んなジャンルを積極的に取り入れて、という感じは。もうずっと前から、バンドの頃からですか?
シ:ソロになってから、より好きなのやれるから、趣味が全開に出ちゃうかな。
西:なるほど。それが、まぁどんどん、シンムラさん自身の音楽もかなり進化してってるって感じですよね。「PLAYBOY」、「FAKE FLIGHT」(注:シンムラテツヤ ソロ名義セカンドアルバム)、その収穫したものをちょっと、応用していただいたみたいな、僕のアルバムに。
シ:まぁ確かに、やってきた事が、出てるかもしれないね。
西:いろんな音楽の要素というか、引き出しを使ってもらったなっていう感じですね。
まぁ簡単に言うとフォークソングとかに飽きてきた部分があって。
シ:ファーストの「ふるえるパンセ」、僕はすごいファンで。もうほんとに、よく聞いてるCDなんだけど。
西:あぁ、ありがとうございます。
シ:だから責任重大というか。その次を・・。
西:プロデュースするにあたって・・。
シ:うん。で、あらためて何回も聞き直したりとかして。いやけど、やっぱあらためて良いなと思って。
西:ありがとうございます。
シ:やっぱり、作風というか。歌詞もそうだし、変拍子の曲があったりとか。西君の中での心情の変化というか、そういうの大きかったのかな?
西:そうですね・・。ファーストは、それまでに書きためた曲を出したって感じで・・。シンプルで素朴な歌というか、あんまり音楽的にあれこれ、何も考えずに素直に作ったというか、自分の気持ち良いように作ったって感じですね。
シ:うん、うん。
西:あれはあれで、すごく気に入ってはいて。京都や大阪の素晴らしい人達と作れたし、ファーストアルバム特有の瑞々しさもあるし。音楽的には、元々好きなフォークソングとか、まあそれ以外も色々聞いてきた、好きな要素は入ってるとは思うんですけど。
シ:うん。
西:最近というか、ファースト出してしばらく経って、だんだん自分が作ってきた曲とか聴いてきた曲とかに、あんまり感動しなくなってきたというか。まぁ簡単に言うとフォークソングとかに飽きてきた部分があって。
シ:ほう。
西:高田渡とか友部正人とか、すごい好きで、ライブでカバーとかもしょっちゅうしたりして、自分で歌ってるだけで気持ちよくてやってたんですけど、単純なスリーコードとかで、良い詩できれいなメロディーでっていうの、それだけで気持ちよかったんですけど。
シ:うん。
西:そういうのに飽きてきたのかなぁというか、自分の好みが変わってきたというか、そういうのがちょっとあって・・。
シ:うん。
西:だからセカンド作るにあたって、ファーストとはやっぱ違うものを作りたいという思いが、だんだん出てきたとこありますね。
シ:なるほど。
西:そういう意味で、今回シンムラさんにプロデュースしてもらう事で、違うところ、違う要素が入るんじゃないか、というのがひとつ大きなテーマとしてありましたね。
シ:うん、なるほど。そうかそうか。
西:曲自体も、「keage」とかは、一番最近の曲ですけど、そういう所で作ったというか・・。
シ:うん。
西:なんか、変化があって面白い、とか。自分の中で新しい事をしようっていう・・。知ってる組み合わせじゃなくってっていう、そういうのはありますね。
シ:あぁ、ほんと。なんかこう、ファーストを聞いてた時からの印象として、あんまり、フォークシンガー、まさにもろ、フォークシンガーっていう印象ではなくて、すごい良いメロディーを書く人っていう印象があったから。
だから、「Only love can break my heart」とかはすごい、納得がいく曲だったし。その後の「Sunny」とか、「keage」もだし、「郵便屋さんになって」とかも。ギターポップというか、メロディーメイカーとしての西君が、前からうっすら顔を出してたのがこう、今回はっきり出てきたというか。
西:あぁ、なるほど。
シ:ハーモニーとかも、よりこう、マッチするようになったと思うし・・。個人的な変化の感じ方としてはそういう所があるかな。
西:なるほど。よりメロディー路線になったっていう感じですかね。
シ:うん。・・・かといって、ファーストの感じを捨てたわけでもないし。西君の成長を感じるというか、偉そうな言い方になるけど。
西:はは(笑)
シ:一枚目を出してからの、今に至る西君の感じてきた事がちゃんと上積みされてる印象を受けたかな。
西:うんうん、そうですね。それは思いますね、僕も。結構違うものになったなと。まあ延長線上にはもちろんあるというか、本質的な部分は変わってないんですけど。表現の仕方とか、外側というか、は結構変わったのかなっていう。
なんか、吐き気を覚えるような、パワーワードがね、出てくるんだよね。
シ:今本質って言ったけど、西君の本質がこう、1曲、なんか絶対残ってしまう歌詞があるっていうか。よくオオニシ君とも言ってたけど、なんか、吐き気を覚えるような、パワーワードがね、出てくるんだよね。
西:吐き気を覚える?(笑)
シ:よく言ってるんだけどさ、ライブで曲を聴いてて、気付いたら、プールにいるんだけど、そこが足がつかない深いプールって事に気付かずに、気付いたら溺れてるみたいな・・。そういう感じ。
西:ははははは(笑)
シ:なんかこう、一瞬でその場に行ってしまうような歌詞だったり。
西:ああ・・。
シ:「五月の青空」の歌詞とかも・・、ナイフみたいだもんね(笑)
西:ははは(笑)それは嬉しいですね。
シ:急にナイフが飛び出てくる(笑)。そこに持ってたのか、みたいな。
西:あぁ、なるほど。歌詞は、確かにそうですね、大切にしてる部分で。まぁメロディーもそうですけど。
シ:うん。
西:メロディーだけできて、歌詞ができなかったらやっぱり、曲として成立しないから。それで歌詞ができなくてボツになった曲も結構あります。
シ:西君、歌詞苦労する人?
西:けっこう苦労しますね。
シ:苦労するんだ。どうやって書くの?ノートに書き貯めるタイプ?
西:いや、ノートに・・、まぁそういうことやったこともあるんですけど・・。まぁでも、iPhoneのメモとかに、ちょっとその、歌になりそうな詩みたいなのを書き貯めたりとかはしますね。そっからちょっと引っ張ってきて歌にしてみたり、っていうのはありますけど・・、でもそれもあんまり高い確率では採用されないですね。
シ:あぁ、そうなんだ。歌詞を先に曲を書くっていうのはあんまない?
西:あんまないですね。同時がやっぱ一番しっくりくるんですよね。歌いながら。
シ:コードも同時?
西:同時ですね。メロディーと歌詞とコードを同時にすると結構スムーズにいくっていう・・。ファーストはわりと先にメロディーができて、それに歌詞を乗っけるっていうパターンが多かったような気がするんですけど、セカンドはもう多分、全部同時ですね。
シ:セカンドの歌詞は、またこう、大人になった印象を受けるね。
西:あぁ、そうですね、確かに。
シ:けっこう、こう生々しい表現があったり。“母親の背中”とか、あれは「十二月」か。
西:「十二月」ですね。
シ:なんかあれとかもこう、あれもナイフだったね(笑)
西:ふふ(笑)。嬉しいですね。
西:歌詞・・、メロディーも歌詞もそうですけど、自分の中で曲作ってる時に、これっていうなんかやっぱり一個決まると、なんかスムーズに出来上がるし、逆にそれがないと曲にならないっていうのはありますね。
シ:“ドブ川のウィスキー。”
西:ははは(笑)そうですね。まぁ、中心になるワードみたいなのがあって、それから作っていくんですけど、中心が決まってて、あとは流れで作ればいいやって気楽に作ったときに、すらすらっと面白い言葉が出てきたりとか。“ドブ川のようなウィスキー”とかも、勢いで書いたそういう感じですね。
たまに、自分はなんて天才なんだみたいな、瞬間があるんだけど・・。
シ:西君はお酒は飲みがら書く派ですか?
西:そういうのをやろうとした事もあるんですけど、結局良いの出来ないって思って、作るときはお酒飲まないですね。
シ:そうか。お酒飲んでる時の西君おもしろいよね(笑)
西:はは・・(笑)そうですね、いろいろユルイですからね。
シ:まず目が開かなくなるよね(笑)
西:(笑)シンムラさんは、お酒飲んで書くんですか?詩とか。
シ:いや、絶対無理だね(笑)、たぶん。
西:そうなんですね。シンムラさん結構すぐ酔いますもんね。
シ:酔うね。
西:メロディーとかも、酔っ払って作ることはない?
シ:たぶん一曲もないと思う。それで作ったのは。なんか、飲むとそういうモチベーションが一切湧かないと思う。なんか作ろうっていう。
西:ああ。なんか激しい気持ちが増幅されて、激しい曲ができるとか、そういうのもないですか?
シ:ないね。気持ちよくなって寝るからね(笑)
西:(笑)
シ:でも一時憧れるよね。
西:そういう人もいるじゃないですか。
シ:いるいる。
西:そういう、激しいのとかは、酔っ払って気分が高揚した時とかに、作ってみようとか思ってやったりもするんですけど。後から冷静に聞くとなんかしょうもない、みたいな(笑)ことが多いですね。
シ:そうだね(笑)
西:だから、お酒は飲むとやっぱり、なんかこう、冴えた感じがなくなっちゃうっていうか。集中力がなくなるっていうか。
シ:後で冷静になるって大事だね(笑)
西:ははは(笑)
シ:たまに、自分はなんて天才なんだみたいな、瞬間があるんだけど・・。
西:あ、やっぱそういうのありますか?
シ:ある。もうすんごい湧いてきて。もう止まんなくなって。で、iPhoneのボイスメモとかに入れて。うわ、これでもう一枚名作作れるって・・。
西:ははは(笑)
シ:ちょっと落ち着いて聞くと全部どうしようもないっていう(笑)
西:はははは(笑)
西:ありますねぇ、たしかにそれ僕もあります。
シ:ははは(笑)
西:例えば仕事とかしてる時に、めっちゃ良いメロディーとか歌詞が浮かんできて、ちょっと廊下とか出て、隠れてこう、ボイスメモとかに録音したりして・・。これ帰って膨らませたらもう完成やん、みたいな。で帰って聞いてみたらしょうもない(笑)
シ:やっぱおんなじだね(笑)
西:そんな、廊下出て録るほどのもんじゃなかったなって(笑)
シ:(笑)あと、興奮し過ぎて歌ってるからさ、後で聞くと音程が全然取れてないんだよね(笑)
西:ははは(笑)それありますね。やっぱあるあるなんですね。
シ:あるあるだね。
西:・・・なんか、まぁ確かにファーストからセカンドに、単純に曲作るのに慣れてきたというか、コツ掴んできたみたいなのはあるのかもしれないですね。
西:余分な回り道をしなくても作れるようになって来たというか・・。
シ:うん。ちゃんと成長してるってことだね。
西:そうですね。
シ:西君はまた今度いつか、めちゃくちゃバンド物の音源を作ってほしい。
西:あぁ、全編バンドみたいな。
シ:もうがっつりバンドの。
西:あぁ、そうですね。そういうのも面白いかもしれないですね。
シ:今回は、西君の歌中心でバンドアレンジ組み立てたけど。もういちから。
西:最初からバンドありきで?
シ:うん。それも面白いかなって。
西:そうか・・・。シンムラさんはそういう作り方なんですか?
シ:けど、ソロになってからは、バンドありきじゃないね。曲ありきで作ってるかな。そういう意味では西君と一緒だよ。
西:あぁ・・。バンドでって想像するとなんか、難しいというか、あんまバンドをやってないから想像ができないっていうのはありますね。想像しても、しょうもないアイデアしか出てこないっていうか。現実に形にならないみたいな。
シ:バンドはそれが面白いからね。限られてるっていうかさ。レコーディングはだって、いくらでもストリングスとかさ、鍵盤とか、ホーンとか入れれるけど。
西:うんうん。
シ:バンドは、スタジオでさ、限られてくるでしょ。困ったらディストーション踏むしかないとか(笑)
西:ははは(笑)
シ:そういう面白さはあると思うね。
西:うん、なるほど。いつかバンドのアルバムも、作ってみたいですね。
西:お話は尽きませんが、そろそろ、今日はこの辺でということで・・。
シ:うん、そうだね。
西:レコ発も、どうぞよろしくお願いします。今日はありがとうございました。
シ:ありがとうございました。
***
この対談を行った頃は、今のこんな状況、ライブを行う事すら困難になるなんて・・・、全く想像すらできませんでした。
3月1日の東京・下北沢440でのレコ発ライブはなんとか開催できました。しかし、3月21日京都・西院ネガポジでのレコ発ライブは延期となりました。こればかりはどうしようもありません。
今は、人々の命を守るため、日夜頑張ってくれている医療関係者の皆様に心からお礼を申し上げたいです。そしてこの苦境を乗り越えていこうとしている音楽家・ライブハウスと連帯して、音楽が再び気持ち良く響く状況を作っていきたいと思っています。
また元気に皆様にお会いできる日を楽しみにしています。
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