ACCUTON製ドライバーを使用した3WAYスピーカーの製作
ACCUTON製ドライバー(TW, Mid, WF)を使用した3WAYスピーカーを製作した。システムとしてはSub-WFを組み合わせた4WAYシステムである。クロスオーバーはデジタルチャンネルデバイダーを利用する。今回のスピーカーの狙いは、フルオーケストラの交響曲や協奏曲を気持ちよく再生できることである。スピーカーが完成し測定と試聴の結果、当初の目的は達成できた。
設計のポイント
フルオーケストラの交響曲や協奏曲を気持ちよく再生するには、全帯域において低歪が必要であると考える。ハード系のドライバーを余裕のある帯域で使用することで実現する。システム構成は3WAY+Sub WFとする。
自然な低音を目指し、空気バネは緩めの密閉箱とする(Qtcの目標値は0.5)。MidとTW(Tweeter)はWF(Woofer)の影響を受けないようにサブボックスに収める。バッフルステップによる中低音域のレベルダウンは通常アナログネットワークで補正(高音域を6dBレベルダウン)するが、今回はバッフル幅を広くし、バッフルステップが発生する周波数をWFとMidのクロスオーバー周波数とすることでその影響を回避する。バッフル幅を広げることで点音源からははずれるが、それに関しては妥協する。TWとMidドライバーはフラッシュマウント(バッフル面とツライチにすること)することでエッジディフラクションを避ける。バッフルの角におけるエッジディフラクションは、後付けのパーツで対策する予定である。
ドライバーの選定
振動板にセラミックを使用するAccutonのTWとMidを採用した。AccutonのWFには、振動板にセラミックを使用したモデルとサンドイッチ構造(ハニカムコアをケブラー素材で挟み込んだもの)のモデルがある。セラミック振動板のモデルはMid-Bass用なので、サンドイッチ構造の振動板を使用したWFを採用した。Sub- WFに関してはAccutonに製品が無いため、口径25cmで硬いコーン紙を採用し密閉で使いやすいものを探し、DAYTON AUDIOのドライバーを採用した。
TW: Accuton C25-6-158 (2.5cm CERAMIC TWEETER)
Mid: Accuton C90-6-724 (9cm CERAMIC MIDRANGE)
WF: Accuton S220-6-222 (20cm SANDWICH BASS)
Sub-WF: DAYTON Audio Rss265hf-4 (25cm Subwoofer)
箱の設計
箱の寸法:W:400, H:490, D:272
WFの容量:27.6L、Qtc:0.54(仕様書では、容量が25.0LでQtcが0.50)
α=Vas/Vb=89.68L/27.6L=3.25,
Qtc=Qts*root(α+1)=0.26*2.06=0.54
Fc=Fs*root(α+1)=25*2.06=51.5HzMidの容量:6.9L
バッフル幅400mmの場合、バッフルステップ周波数:425Hz(340000/(400x2)=425Hz)
18mmロシアンバーチ合板(4x8)を使用する
メンテナンス用としてリアバッフルにWFとMidにそれぞれ10cm穴を用意する
製作
板材はTetsuya Japanのロシアンバーチ4x6サイズを使用した。カットと丸穴あけも依頼した。塗装はOSMO COLORのEXTRA CLEAR。箱の重量は11.4kg、ドライバーも含めたスピーカーの重量は25kg。
スピーカー端子はPAで標準的に使用されているノイトリックス製スピコン(NL4MPR)を採用した。通常のネジ式スピーカー端子はケーブルの振動ですぐに緩んでしまう。バナナ端子はしっかり固定できるが、そのため抜き差しが大変である。スピコンはロック機能があり、力をかけずに確実に接続できる。また2回路(4接点)対応なので、TW, MidとWF, Sub-WFは異なる回路を利用することで、誤接続時のTW, Midの保護となる。
クロスオーバー
各ドライバーのメーカースペックは以下のとおりである。
TW: Accuton C25-6-158, 2000Hz~
Mid: Accuton C90-6-724, 150Hz~6000Hz
WF: Accuton S220-6-222, 30~1,000Hz
Sub-WF: DAYTON Audio Rss265hf-4, 22Hz~1,000Hz
歪率やSPL(Sound Pressure Level)の特性を参考にし、ヒアリングでの確認も含めてクロスオーバー周波数は以下の通りに決定した。WFのlow cutはサブソニックフィルターである。TW-Mid-WF間のslopeは現在-96dBであるが、今後-24dBや -48dBも試してみたい。
TW - Mid間: 3200Hz -96dB
Mid - WF間: 400Hz -96dB
WFのlow cut: 20Hz -12dB
Sub-WFのhigh cut: 60Hz -96dB
ドライバーの位相合わせはデジタルチャンネルデバイダー(Accuphase DF-75)のdelay機能を利用した。Midを逆相接続し、クロスオーバー周波数(400Hz, 3200Hz)でのSPLのディップ(reverse null)が最大になるようdelay値を設定した。Sub-WFのdelayは今後調整が必要である。
level値は、TW, Mid用アンプ(Soulenote A-0)のゲインが8dB、WF, Sub-WF用アンプ(McAUDI M1002)のゲインが22dBにおける設定である。以下、DF-75の設定を示す。
TW: 3200Hz~, -96dB, delay: -4.5, level: -8.0
Mid: 400~3200Hz, -96dB, delay: 0.0, level: -4.0
WF: 20~400, -12dB/-96dB, delay: -17.5, level: +6.0
Sub-WF: ~60Hz, -96dB, delay: -25.0, level: 0.0
測定と考察
測定はREWを使用した。Lchのインピーダンス特性は以下のとおり。Rchの特性はほぼ同じである。WFのFcが49.6Hzで計算値51.5Hzとほぼ一致した。MidのFcは105Hz程度であり、WFとのクロスオーバー周波数の400Hzより十分に低い。
次に1mでのSPL特性を見る。これは床や壁の反射を含めた特性である。400Hz以上はなだらかな右肩下がり。WFのレベルは少し高めである。
次のグラフは、Midの1mと近接(スピーカー直前)でのSPL測定結果である。近接での測定値(レベルが高い方)は、反射の影響がない場合の特性である。ただしバッフルステップの影響は現れない。1mでの測定値(レベルが低い方)において500Hzから400Hzにかけて6dB下がっているは、バッフルステップの影響かもしれない。
次のグラフは、WFの1mと近接でのSPL測定結果である。近接での測定値(レベルが高い方)は、ドライバーの特性ほぼそのままである。1mでの測定値(レベルが低い方)の55Hz, 110Hz, 205Hzのdipは壁の間の反射の影響だと考えられる。
最後に、delay測定時のreverse nullを確認する。次のグラフはMidの前方1mにマイクをセッティングし、Midを正相と逆相接続時のSPLを測定したものである。400Hzと3200Hzできれいにreverse nullが現れている。
ルームチューニングと試聴結果
リスニング時には床と壁にソノーライズのグラスウールの吸音パネルを配置している。次のグラフはリスニングポイントにおけるSPLの測定値で、太線は吸音パネルあり、細線は吸音パネル無しの測定値である。peakやdipがかなり抑えられていることがわかる。吸音パネルの効果は音楽再生時に明らかにわかるレベルである。ルームチューニングに関しては別途考察したい。
フルオーケストラの交響曲や協奏曲だけでなく、幅広い音楽で試聴を行なった。当初の目的通り。音楽を楽しめるスピーカーに仕上がった。
今後の課題は、バッフルの角によるエッジディフラクション対策、クロスオーバーの調整やレベル調整、そしてルームチューニングなどである。