カノンとレオン1(2分間小説)
【2分で読める小説です】
ショートストーリーを書いている合間にショートショートストーリーを1作投稿させていただきます。
【本編】
コツコツコツ。
階段を上がってくる音だ。
この靴の音、この歩くリズム、カノンが帰ってきた!
今日はどこにも立ち寄らないで真っ直ぐに帰って来たようだ。
ここのところカノンは帰りがちょっと遅くて、僕の機嫌が悪いと思って気を遣ってくれたのかな。
最近は暑いし、雨も降るから外に出る気も起きない。だから誰とも会うことがない。SNSで誰かと繋ればいいんだろうけど、やり方がさっぱりわからないから誰とも繋がれない。
決して機嫌が悪いわけじゃないんだけど、結果、相手をしてくれるのはカノンだけだから甘えてしまう。
カノンの帰りが遅かったりすると、少し拗ねたりしてしまう。
昨日も一昨日も迎えに出なかった。せっかく早く帰って来てくれたのに今日も迎えに出ないとカノンに悪いから、玄関で待っていることにした。
扉の前で待っていると、ガサガサと鍵を出す小さな音がした。
僕は不必要に耳がいい、微かな音も逃さない。
玄関を開けるボタンを押して開けてあげた。
「レオンただいま。あれ、今日は迎えてくれたのね」
カノンはちょっと嬉しそうだった。
カノンは背中にパソコンなんかが入っている重そうなリュックを背負っている。
手にはエコバッグを持っていて、そこから長ネギが一本出ていた。
中から微かに肉の匂いがした。僕は不必要に鼻もいい。
今日は奮発してくれたな。給料日かな。そんなことを思いながら、カノンのエコバッグを持ってあげた。
「レオン、今日は優しいじゃない。何かいいことでもあったの?」
カノンが聞いてくる。特に何もない。いつもと同じ1日だったので、黙っていたら、
「今日はお給料出たからレオンの好きな牛肉のステーキ焼いてあげる。ちょっと待っててね」
そう言って、キッチンに消えていった。
リビングのテレビをぼんやり見ながら、出来上がるのを待つ。前は手伝おうとした時もあったけど、皿を割ってしまい、それ以来キッチンには入れてもらえない。手伝って迷惑かけるくらいなら大人しくしていようと思い、近頃は手伝う意思表明もしなくなった。
「レオン、できたよ。こっちに来て」とダイニングテーブルの方から手をひらひらとさせて僕を呼ぶ。ゆっくり起き上がって、歩いて向かおうとしたら、
「何?あんまり嬉しそうじゃないわね。あんまり食べたくないの?せっかくレオンが好きだと思って奮発したのに」
いけないいけない、嬉しそうにしないと。
仕事もしないで毎日家にいるだけの僕ができることは、カノンに自分ができることを少しでもすることだ。
そんなことないよ、と嬉しそうな顔をして、歩くスピードを上げて僕の椅子に向かった。
「じゃあ、レオン食べましょう。いただきます!」
カノンが両手を合わせながら言った。
カノンに続いて僕も言った。
「ワン!」