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カノンとレオン3(5分間小説)

【カノンとレオンの第3弾です】
ショートショートで投稿したカノンとレオンの第3弾を書いてみました。よろしければ最初からお読みいただけると嬉しいです。
1〜2のリンクは本編の下に貼ってあります。
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【本編】
「レオン散歩に行くわよ」

会社から帰ってきて、荷物をリビングのテーブルに置いてすぐにカノンはそう言った。年が明けて少し経っていた。セイヤさんがこの間来たのにはビックリしたけど、そっと様子を覗いていたら、玄関先で一言二言交わして、カノンから小さな段ボールを一つ渡されて帰っていった。

カノンはここのところすっかり元気になった。朝晩散歩に連れて行ってくれるようにもなった。これまでは、カノンは寒いのが苦手だから冬の散歩は僕が催促しないと腰が重かった。だけどこのことには訳があることを僕は知っている。

ユウヤさんだ。ユウヤさんは、ヒマワリちゃんの飼い主だ。

数日前の土曜日のことだった。カノンが休みなのを知っていたから僕は、寝坊したカノンに散歩を催促した。少しめんどくさそうな顔をしていたカノンだったけど、外はポカポカ陽気だったから、気が変わってくれた。

カノンはパジャマをジャージに着替えて、僕にリードをつけて散歩に連れて行ってくれた。いつもの公園を歩いていた時、向こうから背の高い男の人と気の強そうな犬がやってきた。それがユウヤさんとヒマワリちゃんだった。

ヒマワリちゃんは僕を見た途端吠えてきた。僕はビックリして思わず跳ね上がってしまった。あわててカノンの後ろに隠れた。その様子にユウヤさんが申し訳なさそうに謝ってきた。カノンは「この子臆病なんですよ。気にしないでください」と右手をヒラヒラさせながら笑顔で言った。

僕は臆病じゃない。ビックリしただけだ。でもカノンの顔がなんか嬉しそうだったので反論しないでおいた。その後、カノンは積極的にユウヤさんに話しかけていた。「可愛いワンちゃんですね~ お名前は何というんですか?」いつものカノンとちょっと違う声だった。

ユウヤさんもヒマワリちゃんのことを褒められて嬉しそうだった。二人はベンチで少し話をすることにした。ヒマワリちゃんは当たり前のようにユウヤさんの膝の上に乗っていた。僕はリードをベンチの端にくくりつけられた。下から三人を見る形になった。

ユウヤさんはフリーのシステムエンジニアをしていること、運動不足にならないように朝晩ヒマワリちゃんと散歩していること、ヒマワリちゃんはいつも太陽の方向に走っていこうとするからヒマワリと名付けたことなんかを話していた。

カノンは目をキラキラさせて首を縦に振っていた。ヒマワリちゃんは、カノンと僕を交互に見ては、時々ウーと唸っていた。「レオンが散歩大好きなので、私たちも朝晩この辺りを散歩しているんですよ」カノンが聞きづてならないことを言ったので思わずカノンを二度見した。嘘つけ。

翌日から、カノンは僕を朝晩散歩に連れて行ってくれた。正確に言うとユウヤさんたちと会ったその日の夕方も連れて行ってくれた。散歩は嬉しいけど、カノンの目的は散歩じゃない。ユウヤさんと会えない時なんかは、帰り道僕がカノンを引っ張って帰ってこなきゃいけなかった。その日のリードは重かった。

僕は僕で、ヒマワリちゃんのこと少しは慣れたけどやっぱりちょっと怖い。土日なんかは時間があるからユウヤさんとカノン、そしてヒマワリちゃんはベンチで長々おしゃべりしているけど、僕は相変わらず地面で伏せて頭だけもたげてみんなの様子を見ているだけだ。

2月になった。金曜日の夜、会社からまっすぐ帰ってきていつものように散歩に行った。ユウヤさんに明日の朝も来るかカノンが確認していた。どうしたんだろう?いつもそんなこと聞かないのに。「もちろん明日の朝も来ますよ」ユウヤさんは爽やかに答えた。

その帰り、カノンはスーパーに寄った。スーパーの外でも僕は電信柱にくくりつけられて待たされた。しばらくしてカノンは両手いっぱいに袋を持って出てきた。見慣れない食べものを買い込んできた。家に帰って夕飯を済ませると、カノンは何やら色々な道具を用意してキッチンでバタバタし始めた。

2時間くらいやっていたみたいだ。僕はウトウトしてしまったけど、甘い美味しそうな匂いで目が醒めた。カノンの鼻の頭が白くなっていた。カノンはそんなことを気にもせず、満足そうに銀紙に、できたものを包んでいた。僕は急にお腹が減ってきた。

翌朝の土曜日、カノンは早起きしていた。ちょっとお化粧もしていた。昨日の銀紙の包みを綺麗な紙で包装していた。リボンまでついていた。寝起きの僕を「レオン行くわよ」と引っ張った。公園に着いたら誰もいなかった。カノンは僕をいつものベンチにつないで座ってユウヤさんが来る方向を見ていた。

少ししてユウヤさんたちが現れた。「今日は早いですね」とユウヤさんが笑顔で言った。「この子が急かすんですよ」とカノンは僕を指差した。また嘘をついた。嘘をついてからカノンはガサゴソと手提げから包装紙を出して言った。

「ちょっと早いんですけど、会社の人用に作ったのでよかったらどうですか?」会社の人のなんて作ってなかった気がする。

「え、いいんですか?」ユウヤさんが驚いて言った。
「ヒマワリちゃんも食べれるように、スイートポテトのお菓子にしました」ヒマワリちゃんがピクッと反応した。

「それは嬉しいな、よかったねヒマワリ」ヒマワリちゃんはつれない表情だった。「じゃあここでみんなで少しいただいても良いですか」「はい、もちろん!そう言ってくれるかなって思って、レオンの分も持ってきました」僕の分は銀紙が剥き出しだった。

みんなでカノンが作ったお菓子を食べた。初めての味。甘くてケーキとは違う優しい味がした。バレンタインなんて初めて知ったけど、クリスマス以外にも美味しいお菓子が食べれる日があるなら大歓迎だ。

すぐに食べ終わってしまった。またバレンタイン来ないかな、なんて思いながら三人を見たら、三人とも美味しそうに食べていた。カノンはとびっきり美味しそうに食べていた。美味しそうと言うより、嬉しそうだった。

ヒマワリちゃんも心なしか表情が和らいでいた。この表情の方が可愛いのに、と思った。


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