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家族 〜その1「二人家族」〜(3分間小説)

【3分で読める小説です】
家族をテーマに、3篇ショートショートをアップさせていただきます。その1です。

【本編】
ピンポーン。
「あら、この時間に誰かしら?」仲井奈緒子は独りごちた。

奈緒子が勤めている会社は今日が創業記念日で公休だった。久しぶりに家の中の掃除や普段できない家事をまとめてしていた。ようやくひと段落して夕飯の買い物にでも出かけようかな、と思っていた、そんな夕方のことだった。

玄関に出て、ドアスコープを覗いた。あれ、誰もいない。インターホンが鳴ってすぐに来たはずななのに。そっと鍵を開けて扉を開けてみる。

「わ!」奈緒子は思わず声を上げた。
雄太がしゃがんでいた。こっちをニヤニヤしながら見ている。
「ビックリしたぁ、何子供じみたことしてるの!帰ってくるなら連絡くらいしてよね」雄太を睨みながら奈緒子が言った。
「驚いた?早く帰れそうだったから、せっかくなんでまっすぐ帰って来ちゃった」
雄太がおどけて言った。雄太のこういういたずらっぽいところ、奈緒子は嫌いではない。

「今日の夕飯は何?」
「あなたがこんなに早く帰ってくると思ってなかったから、まだスーパーも行ってないわよ」
「じゃあ、僕も一緒に行こうかな」

二人で夕飯の買い物なんていつ以来だろう。奈緒子は道すがら思った。雄太の帰りはいつも7時か8時。仕事帰りに奈緒子がスーパーで買い物をして帰って来て作るのがいつもの仲井家の日常だった。

「何にしようかしら。あなたは今日何か食べたいものある?」
「簡単で良いよ。久しぶりにカレーとか?」
「じゃあ、カレーにしよっか」
ちょうど歩いてくる道すがら、どこかの家の前からカレーの匂いがしてきていた。きっとその影響だ、奈緒子はそう思った。雄太のそういう単純なところが好きだったりする。

「これも買っていい?」0カロリーの炭酸ジュースを手にしながら雄太が言った。
「あら、今日はヘルシーなのね」
「明日、健康診断あるから気持ちだけダイエット」言ってから雄太は舌を出した。雄太のこう言う仕草に奈緒子は弱い。

スーパーで、お隣の吉田さんに会った。「あら、今日はお二人とも早いのね」
吉田さんはおしゃべりなので、ちゃんと言っておかないといけない。
「そうなんですよ、たまたま今日は二人とも早く上がれて久しぶりに一緒に買い物でした」
自分が休みだったことは言わないでおいた。
店を出たら雄太が手を差し出してきたので手をつないで帰ってきた。

カレーなので準備は簡単だった。珍しく雄太も手伝ってくれた。なんかこんな日もいいな、と奈緒子は思った。1時間ほどで支度ができた。二人揃ってテーブルについた。
「じゃあ、いただきましょう」
「スーパーに行く時にカレーの匂いがどっかからして来て食べたくなったんだよね。お腹ぺこぺこだよ、いただきまーす」やはりそうだったか。

「おかわり!」雄太はあっという間に一杯目のカレーを食べ切って、空になった皿を奈緒子に差し出した。

雄太は小学六年生。やはり育ち盛りで食べ盛りだ。見ていて気持ちのいい食べっぷりだ。今日休講になった分、明日の塾は遅くなるそうだから、しっかり食べてパワーをつけて臨んでほしい。

二人ぼっちだが、奈緒子はこんな幸せな生活がいつまでも続くといいな、とふと思った。

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