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カノンとレオン7(後編)【5分小説】
【カノンとレオンの第7弾です】
ショートショートで投稿したカノンとレオンの第7弾(後編)です。ぜひ第7弾(前編) 第7弾(中編)からお読みください。カノンとレオンがユウヤさんの家を下見に来ています。自分たち用の部屋に驚き興奮した後、さらなる驚きがカノンを襲います。
よろしければ最初からお読みいただけると嬉しいです。1〜6へのリンクは以下の通りです。
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【本編】
「ふ〜 レオンお疲れさま〜 これで大体片付いたかな。ちょっと休もっか」
カノンが大きな伸びを打ちながら、僕に言った。あとは引っ越し屋さんが来るのを待つだけだ。カノンはお疲れさまって言ってくれたけど、僕はカノンの周りをウロウロしていただけだった。
今日はカノンと僕が、ユウヤさんとヒマワリちゃんの屋敷に引っ越す日だ。
僕は夢を見ていた。ユウヤさんの大きな家にセイヤさんがやって来て、僕は慌てていた。カノンに会わせちゃいけないと思って僕は門のところでセイヤさんに思い切り吠えた。セイヤさんには僕の声が届かないのか、門を開けてすたすた石畳を歩いて行った。僕は一生懸命吠えてセイヤさんを止めようとしたけど、セイヤさんは玄関に着いてしまった。
屋敷の中から、カノンが僕に「レオン、一体どうしたの大きな声で」と出てこようとした。僕は更に慌てて吠えた。そうしたらカノンだけじゃなく、ユウヤさんもヒマワリちゃんも「レオン!レオン!」と呼んできた。
わ!
みんなの声で僕は目が覚めた。目を開けたら、カノンもユウヤさんもヒマワリちゃんもアイコさんも僕を上から見ていたからビックリして飛び上がった。
「レオン、大丈夫!? 気がついた? ゴメンね…」カノンが言った。
「よかった!目が覚めた」ユウヤさんが言った。
ヒマワリちゃんも心配そうに僕を見ている。
僕はどれくらい気絶していたんだろう?
セイヤさんの話はどうなったんだろう?
そんなことを考えていたら、アイコさんが冷たいおしぼりを持ってきてくれた。額にあててくれたら、冷たくて気持ちが良い。
「ちょっとたんこぶになってるみたいだけど、目が覚めたから一安心ね」アイコさんが言うと、
「本当にすみません。私のせいで、ご心配をおかけしてしまいました…」とカノンがみんなに謝った。
「レオンが無事で何よりでしたよ。すぐに目が覚めたし、よかったよかった」ユウヤさんが言った。あんな夢を見たから、てっきり随分時間が経ったのかと思っていたけど、気絶してたのはちょっとの時間だったようだ。
「レオンちゃんは身を挺して、カノンさんが落としたカップを守ってくれたのよね」アイコさんが、少しおどけて言ったらユウヤさんが笑った。
カノンは顔を赤くしながら両手を合わせて「レオンごめん!」と言った。場が少し和んだ。僕は痛かったけど、カノンの役に立ったなら良かった。
もう一つ僕は役に立っていたようだ。僕が気絶したおかげで、カノンがカップを落とした理由を誰も聞かなかった。みんな、僕のことが心配でそれどころではなかったみたいだった。
冷たいおしぼりが僕の体温で温かくなりかけた頃、カノンが言った。
「レオンも大丈夫そうですので、今日はこれで失礼させていただこうと思います。案内していただいてありがとうございました。そしてお騒がせをしてしまい本当にすみませんでした」
「そうですね。今日はおうちで休ませると良いですね」ユウヤさんがそう言ってくれて、僕たちは帰る支度をした。
「今度改めて夕日が綺麗な時間に見にきてください。どちらの部屋が良いかはその時にでも決めてください」玄関先でユウヤさんが言った。まるで僕たちはもう住むことになっているみたいだった。
「ありがとうございます。とてもありがたいです…」カノンは部屋を見せてもらった時に比べて戸惑いがあるように僕には感じられたけど、きっとユウヤさんたちには気づかれていないだろう。何せ僕が気絶したおかげでみんなそのせいだと思われているに違いない。
カノンは丁寧に挨拶をしてお暇した。僕もヒマワリちゃんに、丁寧に挨拶をした。ヒマワリちゃんは相変わらずクールに僕を見ていた。僕たちと出会ってから公園に行くのが好きになったってユウヤさんが言ってた話、ホントなのかな、って思ってしまった。
帰り道、カノンは僕をずっと抱きかかえてくれていた。
心配なのと、申し訳なかったのと、僕に話したいのと、色々な気持ちが混じっていたからに違いない。
「レオン、大丈夫?もう痛くない?ホントにゴメンね」
まだちょっと痛かったけど、首を横に振って大丈夫と答えた。
「あのカップも、イギリスのとっても高いブランドのだったから割ってたら大変だったよ。レオンありがとう」
僕にとってはカップが落ちてきただけだ。ちょっと複雑な気持ちだったけど、カノンが困らないで済んだからよしとしよう。
「・・・それにしても、よねぇ・・・」セイヤさんのことだ。
「レオン、どう思う?」来た。カノンのいつもの相談だ。
「きっと、さっきの話だと、実家には戻ってこないだろうから会うことはないと思うけど・・・、そうは言っても、ねぇ・・・」独り言ともつかない口調でカノンは帰り道、ずっとこの話をしていた。
次の日の朝、たんこぶはまだあるけど、痛みはもうない。
いつも通りにカノンと僕は散歩に出かけた。そしていつも通りに公園でユウヤさんとヒマワリちゃんに会った。
「おはようございます。レオン大丈夫?」ユウヤさんが挨拶からの開口一番で僕を心配してくれた。ユウヤさんはやっぱり良い人だ。ヒマワリちゃんも、どことなく心配してくれているような気がした。
「おはようございます!昨日はすみませんでした!ありがとうございました!」カノンは、朝の挨拶とお詫びとお礼を一気に言った。
あれ、僕のことは?と思った瞬間「あ、レオンもこの通りピンピンしてます」と付け加えた。ピンピンってこう言う時に使うんだっけ?
「それはよかったです。じゃ、また今度ゆっくり見に来てください。部屋の方も決めてもらえば、綺麗にしておきますから」ユウヤさんが優しく言ってくれた。あの部屋をもっと綺麗にするって、どうやるんだろう?
「あ、私たちは本当にどちらの部屋でも結構です。もったいないお話です」
どうもカノンは僕の前とユウヤさんの前では別の人になる。
そんな話から始まって、いつも通り3人はベンチ座ってしばらく話をしていた。僕もいつも通り地面に伏せていた。しばらく聞き耳を立てていたけど、カノンがカップを落とした理由をユウヤさんが聞くことはなかった。
翌週、天気の良い週末の夕方、散歩の帰りにユウヤさんに再び誘われた。天気も良いから夕日を見るのにちょうど良いと言うことで、その場で行くことが決まった。
ユウヤさんの家も2回目となると、だいぶ慣れたものだ。1階の大理石も滑らないで歩けた。鼻が高かった。ヒマワリちゃんを見たら、無表情のまま僕を見ていた。
2階の部屋でカノンに抱きかかえてもらって夕日を見せてもらった。今まで見たことがないくらい太陽が大きくて、空がオレンジ色だった。カノンも僕も、しばらくは声も出ずに太陽が沈む様子を見入ってしまっていた。こっちの部屋がいいな、って思わず考えていた。
日が長くなってきていて、夕日が沈むと食事の時間になっていたので、その日は夕飯をご馳走になった。急にお客が来てもアイコさんは対応できてすごい。僕もヒマワリちゃんと同じ食事を出してもらった。カノンには悪いけど、今までこんなに美味しい食事を食べたことがなかった。一瞬で食べ終わってしまった。ヒマワリちゃんを見たら、優雅にゆっくり食べていた。僕も毎日食べさせてもらえば、こうなるに違いない。僕の中では既に、この家の子になること一択になっていた。
カノンは帰り道、僕を抱きかかえてくれた。いつもの独り言みたいな相談が始まるんだな、って思っていたら案の定始まった。
「レオン、どう思う?」来た。
「あのことは気になるけど、おじさんも戻ってきちゃうし、しばらく住まわせてもらおうか?」僕はあんな美味しい食事が毎日食べれるんだったらずっとでも良いと思ってる。
カノンと僕は問題を先送りして、とりあえず引っ越すことにした。翌日朝の散歩で会った時に、住まわせてくださいとユウヤさんに言ったら、ユウヤさんはとても喜んでくれた。
「ヒマワリ、よかったな。レオンが来てくれるんだって!」
ヒマワリちゃんの方を見たら、そんなでもない表情だった。ツンデレなのかな?
こうして僕たちは引っ越しの日を迎えた。