家族 〜その2「母娘」〜(2分間小説)
【2分で読める小説です】
家族をテーマに、3篇ショートショートをアップさせていただきます。その2です。
【本編】
2023年冬、そして夜
あれ、母の部屋が明るい。いつでも気づけるように扉はうっすら開いている。
その隙間から灯りが漏れている。
いつもなら、21時に床に入って消灯したら朝まで点くことはない。
トイレにでも起きたのだろうか?
奈実は少し心配になって、そっと中を覗いてみた。
母はベッドに腰掛け、窓の方をぼうっとみていた。
気配に気づいたのか、こっちを振り向いた。
「あら奈実ちゃん、どうしたの?」おや、今日は私の名前を覚えている、調子良いのかな?そう思ったが、奈実はそのことには触れず母の質問に答えた。
「灯りが点いていたからどうしたのかなって思ってね」
「ほら、初雪よ」母は窓の方を指差した。
「奈実ちゃん、もうすぐ受験ね。頑張ってね」調子いいかと思ったけれど、やっぱりそんなにうまくはいかないか…。
奈実は少し落胆した。そして母に言った。
「風邪引くと悪いから早く寝た方がいいわよ」
そう言った瞬間、30年前のことを思い出した。
1993年冬、そして夜
いよいよセンター試験まで1ヶ月を切った。奈実も毎晩最後の追い込みに精を出していた。
過去問チャレンジがちょうど切れ目になったところで、フーッと大きく息をついた。
ウーンっ、と上半身だけ伸びをした。
少し疲れたな、と思いながら窓の方に目をやった。
「雪だ」思わず声が出ていた。その年の初雪だった。
初雪かぁ、試験の日は降らないといいな、と思っていた時、コンコンと音がした。
「いい?夜食作ったけど」母だった。
「あ、ありがとうママ。ね、ほら雪が降ってるのよ」母に言った。
「あら何、勉強してたんじゃなかったの?」
「ちょうどひと段落したところ。もうちょっとやって寝る」
「こん詰めすぎてもダメよ。無理は禁物。風邪引くと悪いから早く寝なさいね」微笑みながらそう言って、母は夜食を置いて出ていった。
あの時母が言ってくれた言葉、今は自分が母に言っている…
あの時母は、とても優しく自分に言ってくれた…
奈実は、さっきより少し優しい気持ちでもう一度言った。
「ママ、風邪引くと悪いから早く寝た方がいいわよ」
微笑みながらそう言って、母を横にして布団をかけて部屋を出ていった。