カノンとレオン7(中編)【5分小説】
【カノンとレオンの第7弾です】
ショートショートで投稿したカノンとレオンの第7弾(中編)です。ぜひ第7弾(前半)からお読みください。カノンとレオンがユウヤさんの家を下見に来ています。自分たち用の部屋に驚き興奮した後、さらなる驚きがカノンを襲います。
よろしければ最初からお読みいただけると嬉しいです。1〜6へのリンクは以下の通りです。
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【本編】
「ねえねえ、レオンはどっちが良いと思う?」階段を降りながらカノンが僕の耳元で囁く。ちょっと興奮気味だ。
僕たちは、ユウヤさんの案内で僕たちが住むかもしれない寝室を見せてもらった。
「まず、こっちからどうぞ」ユウヤさんはそう言って、廊下を歩いて左側の部屋の扉を開けて僕たちを招き入れてくれた。廊下は絨毯が敷かれていたので、歩きやすい。
わ!広い!って思った瞬間
「わあ 広いですね〜!」カノンが口に出していた。
カノンがそういう風に驚くことはわかっていたとばかりに、ユウヤさんは説明を始めた。
「客室はふたつとも作りは一緒なんですよ。窓からの景色が違うだけです。こっちは、丘の端にあるので、街全体が見渡せます。西側を向いていて、夕日が綺麗ですよ。今日は晴れてますし、後で夕方また見に来ましょうか」
話を聞きながらカノンは、窓から見える景色に見惚れていた。僕の背だと窓からの景色が見えない。カノンが履いているフカフカのスリッパを左前足でポンポン叩いた。
「あ、レオンごめんごめん」カノンはそう言って、僕をヒョイっと抱き上げて、窓の外を見せてくれた。
わ〜 地球ってこんなに広いんだ。こんな景色初めて見た。そんなことを思いながら、呆気に取られていると、カノンが言った。
「どう、レオン。こんな景色初めて見たでしょ。地球って広いのよ」
自分だって、初めて見たくせに。
ベッドも大きい。僕もここで寝て良いのかな?そんなことを思っていたらユウヤさんが突然言った。
「ヒマワリは僕のところで寝てるけど、レオンも僕のところに来てヒマワリと一緒に寝るかい」
ユウヤさんの足元にいたヒマワリちゃんも僕も、同時にユウヤさんの顔を見た。いたずらっぽく笑っている。
僕は顔が真っ赤になった。ヒマワリちゃんを見たら、多分ヒマワリちゃんも真っ赤だった。毛色のおかげで、ユウヤさんとカノンにはわからないと思ったのに、
「あれ、レオン恥ずかしいの?顔が真っ赤よ」とカノンにからかわれた。
「ははは 冗談冗談、レオンはカノンさんと一緒だよね」ユウヤさんが優しく言った。ユウヤさんにしては珍しい冗談だったから、そんなことを言われても、僕はまだドキドキしていた。
「もう一つのお部屋に行ってみましょうか」そう言ってユウヤさんは僕たちを案内してくれた。僕はカノンに抱かれたままだったので、今度は窓の外が見える。
庭だ!
「こっちは、さっき来た道に面しているので、庭が見えます。東側に面しているので、朝日が入ってきて朝は気持ちいいですよ」ユウヤさんがそう説明してくれた時、カノンと僕はすでに窓に張り付いて広い庭を見渡していた。
こうしてみると、本当に広い庭だ。
「歩いている時にも感じましたけど、こうしてみると本当にお庭広いんですねえ」カノンはいつも僕と同じ感想しか言わない。
「レオンも今度はヒマワリと庭の中、思い切り駆け回ってみてね」ユウヤさんがそう言ってくれたので、想像してみた。きっと広すぎて僕はきっとすぐに疲れてしまうに違いない。僕はヒマワリちゃんに比べたら体も小さいし、足もちょっと短い。
「ユウヤさん、みなさん、紅茶の準備ができましたよ」アイコさんが僕たちを迎えに来た。
「アイコさん、ありがとう。じゃ、カノンさん、レオン、下にいきましょうか」
「はい! ユウヤさん、ご案内ありがとうございました。とても素敵な部屋で、私たちにはもったいないです・・」カノンは頬を紅潮させながらしおらしく言った。
そして、階段を降りる時に、僕に「ねえねえ、レオンはどっちが良いと思う?」って抱きかかえた僕の耳元で囁いた。もう住む気満々だ。ユウヤさんの前にいるカノンとは違う人みたいだった。
僕は早起きだから朝日が入ってくる部屋の方が好きだけど、夕日が綺麗な部屋も憧れる。後で見てみたい。カノンに抱きかかえられながら、そんなことを思った。
僕たちはアイコさんの後に着いて、リビングに入った。テーブルの下には絨毯が敷かれているけど、それ以外のところはさっき僕が転んだ大理石だった。カノンが僕を下ろそうとしたけど、まだ大理石を歩く自信がなかったから、カノンにしがみついた。
リビングも広い。大きな絵も壁にかかっている。その下に、お酒やグラスが入ったキャビネットがあった。キャビネットの上に、写真立てが一つあった。カノンが近づいて行ったので、僕も一緒に覗き込んだ。ユウヤさんの家族の写真のようだ。
「あ、その写真ですか」アイコさんが僕たちが写真を見ているのに気づいて言った。「その写真は、旦那様がお亡くなりになる前、みんなで写真を撮ろうと仰って、庭で撮ることになった時のものですね。7〜8年前のものですね」
アイコさんはどこか感慨深そうだった。
ユウヤさんが繋ぐ「そうだね。親父も忙しかったし、兄貴は早々に家を出ていったから、こういう写真これくらいしかないね」と、アイコさんと話しているような口調で言った。
カノンがジーッと写真を見ている。何をそんなに見るところがあるんだろう?
ユウヤさんも同じことを思ったのか、カノンに聞いた。
「カノンさん、どうしましたか? 僕、若いですか?」ちょっとおどけていた。そしたらカノンが意外と硬い表情で
「いえいえ、そんなことないです」とピントのボケた返事をした。
「ちょっと、知り合いに似ているな、って思ったもので」
「ははは そうなんですか。僕の若い時、誰かに似てましたか?」ユウヤさんはカノンの硬い表情をほぐそうとしているのか、いつになくおどけたままだった。
「すみません、私の勘違いでした。写真見せていただき、ありがとうございました!」カノンは僕を抱いたまま、ユウヤさんが座っているテーブルの方に向かった。ヒマワリちゃんは当たり前のようにユウヤさんの膝の上だ。僕は公園と同じように床におろされた。
「紅茶冷めないうちにどうぞ」アイコさんが言うと
「カノンさん、どうぞどうぞ」とユウヤさんも言った。
僕には、犬用のミルクを用意してくれていた。初めて飲んだけど、とても美味しい。すぐに飲み終わってしまった。お皿も舐めてしまったくらい美味しかった。こんなのが毎日飲めたらいいな、と思ってしまった。
飲み終わってしまったので、伏せた。頭だけもたげてみんなの会話を聞くことにした。アイコさんが色々とユウヤさんの家のことを教えてくれている。時々カノンにも家族のこととか聞いていた。カノンがもうすぐ家を出ないといけないことも話に出ていた。アイコさんはにこやかに聞いていた。どうやらカノンはアイコさんに気に入られたようだ。僕たち、ここに住むのかな。だんだん現実感が出てきた。
アイコさんはお話が好きで、ずっと話している。ユウヤさんも時々合いの手を入れるけど、大体はアイコさんが話している。僕は、お腹が満たされたこともあってだんだん眠くなってきた。目がトロンとしてきた。
そんな時だった。アイコさんが、ユウヤさんと歳の離れたお兄さんの話をし始めた。
「セイヤさんも、このところは旦那様の法事以外顔を見せてくれなくなってしまって・・」
え?
眠気が飛んだ。カノンの方を見ようと頭をもたげた瞬間、カップが降ってきた。
「え!?」
と、カノンは息を呑むような声を出して、カップを指から滑らせた。
カップがゴツンと頭に当たった。僕は気絶した。
(つづく)