独立して10年が経ちました
会社を辞めた当時の私の心の内は「独立」というより「逃走」のほうがしっくりきます。
30歳が見えてきたときに、40歳も50歳も同じように編集者として働いてる自分が全然想像できませんでした。それがめちゃくちゃ怖かった。
目隠ししたまま全力で突っ込んで行ってる感じがした。
それでとりあえず会社を辞めました。
こんな後ろ向きな「独立」だったから、10年も続けられるとは思っていませんでした。
さらに、すぐに娘たちが産まれたため、朝起きるとか、ご飯食べさせるとか、まず、ちゃんとした母親になることに必死でした。
子育てや家事と編集者の仕事を両立する自信もないから自分からは営業も全然できなかったのです。
でも本心では「もしかしたら誰かがわたしを見つけてくれるかもしれない……見つけてください」と祈っていました。
育児と仕事と、自分のペースを守ってこれた幸せ
という、めちゃめちゃ後ろ向きな「独立」だったにもかかわらず、いま、編集者として生き延びることができています。
しかも、10年間、毎年、1、2冊のペースで単行本を世に送り出すことができました。
ウェブの連載やインタビュー記事の執筆など、出版社勤務時代にはあまり経験してこなかったことも、たくさん経験させてもらいました。
さらに、最近、企業ホームページのディレクションのご依頼をいただいたり、4月からは学習塾で、国語講師の仕事をすることになりました。
こそこそひっそりやってきたわたしを、ちゃんと見つけて、励まして、引っ張ってくださった人たちがいて、なんとかやってこられたのです。
一緒に仕事をしてくれた方には、感謝してもしきれません。
辞めてすぐの何にも仕事がなかったときに、「新しく始める講座の手伝いをして! 事務所使っていいよ」と言ってくださった著者もいました。
産前産後の不安定なときに、「あなたの戻ってくる場所はわたしがつくるよ」と言って、乳幼児の傍らでできそうな仕事を依頼してくださった編集者の大先輩もいました。
10年間いつも、温かい目がそばにあって、
わたしはまったく孤独ではありませんでした。
だからいま、「ありがたい」以外の感情が見つかりません。
これは「誤配」だと今さら気づいた
と、ここまで書いてやっぱり不思議でならないのです。
自分が受け取ってきたものがあまりにも大きすぎるのではないか。
10年間、マイペースに好きなことだけをやってきました。
そして、家族に囲まれて楽しく過ごしています。
たしかに、育児しながらの仕事はまあまあ大変なこともあったけど、
辞めたいとか、逃げたいとかはまったく思いませんでした。
20代のころに、わたしは鬱で休職したことがあって、
メンタルの弱さは実証済みです。
独立なんて自分には向いてないとハナから思っていました。
ストレス感じたらすぐ廃業して、近くのホームセンターでパートしようと求人チェックは欠かさずしていました。
でも、パートの仕事に応募することはなかったのです。
何かがおかしい。
のびのびと、しかも、精一杯やってる。
いつも。
ラッキーすぎやしないか、この10年。
そんな思いに駆られたのはこの本を読んだからでした。
わたしが受け取ってきたものも「誤配」だったんじゃないか……と思わずにはいられず、この一文に頭がもげるほどうなずきました。ずっと、そう思ってた!って。
「正しい持ち主」を探すことにしました
10年目の歩き方を、強烈に示されたように思いました。
誤配である以上、わたしもちゃんと返したい。返さねば。
でもどうやって、何から返せばいいのか?
そのためには、まずは、わたしという人間が、この10年で受け取ったものをちゃんと整理して、公表する必要があると思いました。
「遺失物一覧」みたいに。
岡田寛子は編集の仕事をしています、こういうことでお役に立てる人間です、というのを今まで真面目に誰にもちゃんと伝えてこなかった。
それは、恥ずかしいというか怖いというか、エネルギーを消耗する仕事だったから。今までやりませんでした。けれど、2023年はちゃんとやります。
「正しい持ち主」にちゃんと出会えるように、「目印」や「旗」を立てる仕事を。
4月から国語の講師のお仕事にチャレンジしようと思ったのも、こうした感覚の延長線上にあります。
私が編集という仕事から受け取ったものを、
次の世代に渡していくのも自分の役目だと思えたからです。
↓こちらでお世話になります。
とはいえ、自分のことというのは編集するのもPRするのもめっちゃ難しくて苦行でしかない。
この記事を書くだけでも手が何度も止まって、何日もかかっています……。
そんな折、敬愛するフォトグラファーであり、友人でもある今井美奈さんがこんなすごいポートフォリオを撮ってくれたので、
※今井美奈出張写真館のご依頼はこちらに。
https://minaimai.jp/biography/
この写真を見ていたらなんか書けそうな気がして、
心が折れないうちに、今の気持ちだけは書いておこうと、この文章を書きました。
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