「聞く」は「聴く」より難しい!? 〜『聞く技術 聞いてもらう技術』
すこし前から話題になっていた『聞く技術 聞いてもらう技術』(東畑開人 著、ちくま新書)を読みました。
読了直後、東畑さんと会話していたような、心の声を聞いてもらったような、あたたかい気持ちに包まれたのを覚えています。
これまでの人生で、話を聞いてくれた人、大切な話を聞かせてくれた人、うまく聞けなかった人……、色んな人たちの顔が浮かんでくる 不思議な読書体験でした。
『聞く技術 聞いてもらう技術』
この1年、職場での1on1やストレングスコーチングのセッションなど、1対1で対話する機会が増え、「キくこと」については自分なりに工夫や改善してきたつもりです。それでも、耳が痛かったり、ハッとさせられる記述がたくさんある本でした。
キーフレーズ
以下に、企業内の人材開発・組織開発に関わる立場から、気になったフレーズをカテゴリ分けして挙げておきます。
「聴く」ではなく「聞く」
本書を読むまでは、「聞く」はただ耳に入ってくること、「聴く」はしっかり注意を向けて受け取ること。「聴く」は「聞く」より高度なことだと感じていました。
ところが、日常生活で大切なのはむしろ「聞く」ことだ、という本書の主張は、意外であるものの大きく頷けるものでした。
わが身を省みても、相手の想いの強さを推し量って受け取ることができているかを問うと、かなり怪しい気がします。
たしかに、「聞く」は「聴く」より難しいのかもしれない。
そう思いつつ、先に進みます。
「聞く」ためには…
では、その「聞く」ために必要なことは何か。
自身の状態と行動について、以下の記述が心にひっかかりました。
「聴く」つもりが「訊く」や「問い詰める」になってしまうことがたまにあります。(自分がしてしまう側、される側の両シーンで)
相手から湧き出すものを待つ、相手の心を考えて言葉を紡ぐ、ということが、本当に「聞く」ために必要なんでしょうね。
当たり前の「環境としての聞く」
「環境としての聞く」という言葉、これも新鮮でした。
うまくいっているときには気づかないけれど、うまくいっていないときに、「聞く」が問題として浮かびあがってくる。これこそが「環境としての聞く」です。
「孤独」と「孤立」との区別
現在、「聞く」が重要になってきた背景には「孤独」の存在があります。
特に、聞けていないとき、聞いてもらっていないとき、自分と相手の間には孤独が横たわっているものです。
関係が悪くなっているときは、聞く側・聞かれる側の双方が孤独だ、という表現にハッとしました。
一方、「孤独」と「孤立」のちがいについても書かれています。
孤立の場合は、心に他人(しかも、嫌い、怖い、悪い…ネガティブな印象の人)があるという記述にも、過去を振り返って あぁ……と頷けました。
そして、「聞く」に絡めてこんな記述も。
佐渡島庸平さんの著書に『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE』とありました。孤独は必ずしも悪いものじゃないが、孤立はやはり気になります。「聞く」は、孤立と孤独の違いについてのバロメーターとしても機能するのかもしれません。
時間をかけて「小さいほうの声」を
孤立から孤独へ歩を進めるときに大切なものとして、心が複数あることを意味する「小さいほうの声」という言葉が印象的でした。
この後者の声が「小さいほうの声」です。
そして、この声を聞けるようになるには、信頼関係が必要だし、そのためには時間がかかります。
第2章の最後では「連鎖」について語られており、上に挙げた「小さいほうの声」を聞けるようになるためにも、孤立ではなくつながりの連鎖が必要になる、という主張に頷けました。
「聞く」と「聞いてもらう」の循環
そんなわけで、タイトルにもある「聞く」と「聞いてもらう」について。
「なにかあった?」と「ちょっと聞いて」。
結局の所、「聞く技術」と「聞いてもらう技術」の本質は、この2つの声かけに尽きるようです。
まとめ
以上、まえがき から 第4章までの言葉をピックアップさせてもらいました。
本書では、4章までに「聞く記述 小手先編」と「聞いてもらう技術 小手先編」を挟みつつ、その概念や背後にある考え方や事例が説明されています。
一方、聞く技術 聞いてもらう技術 の本質編は、あとがきで たった1ページに要約されています。
本書が秀逸なのは、著者 東畑さんがあえて【小手先編】を先に提示していることでしょう。「こんなの小手先だ」という感想を先にセルフツッコミした上で、「小手先とはいえ大切だよね」と思わせ、その上で【本質編】を最後の最後に超シンプルに用意する構成。しびれました。
企業内でも家庭でも、1対1の関係性のなかで片方が不満を持っていたり、何かうまくいかないと感じるときはあります。こんなとき、難しく考えすぎに、純粋に「聞く」「聞いてもらう」に注意を向け、小さな声かけを行うことで、職場も家庭も社会もきっと少しずつ変わっていくはず。そんな自信をもらった一冊でした。
本書は、「聞く」に関する一冊として、今後なんども振り返ることになりそうです。
参考:筑摩書房の特設ページ
(まえがきの試し読みページもリンクされています。未読の方はぜひ読んでみてください)
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