【建築】捻ってねじってターニング・トルソ(サンティアゴ・カラトラバ)
デンマーク・コペンハーゲン。
当初は「コペンハーゲン? ケンチクは何があるの? 人魚姫以外の観光名所は?」とほぼ期待感ゼロであったが、調べてみると楽しめるところがたくさんあった。既に紹介している記事を挙げれば、ルイジアナ近代美術館、オードロップゴー美術館、オーフス市庁舎、Dragør、市内散策などなど。
もちろん現代建築を楽しむこともできる。特にコペンハーゲンを地元とするビャルケ・インゲルスの建築は数多くある。
そして建築ファンであれば、きっとその写真を見たことがあるだろうターニング・トルソもあるのだ。いや、正しくはコペンハーゲンでもデンマークでもなく、隣国スウェーデンのマルメにある。マルメはコペンハーゲンからエーレスンド海峡を挟んだ反対側にある街だが、国境を超える電車でわずか40分程で行ける。
この日も素晴らしく気持ち良い青空が広がり、建築探訪以外に観光に行かないことがもったいなくらいだ。(そう思うのだったら行けよ!という話だが…)
中央駅から歩くこと20分。現代的な街並みの向こうに、"そびえる"という表現が相応しい高いビルが見えてきた。
まるで背骨のようなゴツい鉄骨。イメージと違う...
「あれ? こんなビルだったっけ? 違う建築を見に来てしまったのか?」と思わず立ち止まり、ググって確認してしまったが、これは裏側であった。
かつてこのエリアは造船所であったが、韓国企業などの進出により造船業が衰退すると工場も閉鎖され、跡地は再開発の対象となった。
ターニング・トルソはその地区に建てられた高層マンションである。
それにしても高い。高さ193mは日本ではランキング50位にも入らないが、スカンディナヴィアでは一番高い建物となる。また周りは低層の建物ばかりなので、なおさら際立つ。
以前の造船所には138mのクレーンが立っていたが、この建築はそれに変わるマルメのランドマークとしての機能も果たしている。
水路に映るビルの姿が美しい。
このビルの特徴は、名称にもなっているツイストした構造である。設計は美しい建築をつくることでは世界でもトップクラスのサンティアゴ・カラトラバだ。
このねじれ具合が絶妙!
5つのフロアを1ブロックで構成して、それが上に向かって少しずつねじれて、最上階では1階に対して90度ねじれている。
各ブロックの間のスペースはメンテナンスのためのものだそうだが、それがデザイン的にもアクセントになっていた。
この造形はTwisting Torsoと呼ばれるカラトラバ自身の彫刻が元になっているが、その彫刻もHalliday Avray-Wilsonという彫刻家によるねじれた人間の形をモチーフにした作品からインスパイアされている。
ファサードは曲面のアルミパネルで構成されている。こういうパネル、メーカーは絶対に大変だったと思う。
大きなビルであるが、意外にも正面エントランスにはそれほどの重量感はない。外壁面より少し引っ込んで、かつガラス仕上げとなっているためなのか、「これでこの建物を支えられるのだろうか?」と不安になるくらいの軽やかさだ。
しかし裏ではガッチリとした鉄骨がビルを支えていた。
この鉄骨のねじれ具合も美しい。こうした構造を隠すことなく、意匠の一部として見せていることもカラトラバ建築の特徴だろう。
ところでこの構造、やむを得ないとはいえ、大きな鉄骨が窓を潰してしまうのはどうなんだろう? 内部の間取りは分からないが、部屋からのせっかくの眺望がもったいない気がする。
ちなみに、美しい建築をつくるカラトラバであるが、予算オーバーの建築家としても知られている。この建築もご多分に洩れず、建設費は見積のほぼ2倍だったそうだ。OMG…
周辺は居住エリアとしてサスティナブル・シティを目指した集合住宅が整備され、公園や水路もあって心地良く散歩することができる。また一般的に再開発地区の建築というのは画一的になりがちだけど、そうではなく、それぞれの建物のデザインや大きさがバラバラなのも良い。
海岸沿いの斜めの照明はかつてのクレーンへのオマージュなのだろうか?
カラトラバ建築:鉄骨の森のようなアトリウム
カラトラバ建築:翼を広げる美術館