【建築】“オリジナル”とは何かを考えてみたバルセロナ・パビリオン(ミース・ファン・デル・ローエ)
オリジナル:独創的。独自のもの。原作。原物。
国際観光都市バルセロナ。
旧市街あり、カテドラルあり、ピカソやミロの美術館あり、現代建築も多くある。また地中海に面した温暖で過ごしやすい街でもある。
もちろんFCバルセロナはマスト!
しかしやはりこの街の見どころは、アントニ・ガウディによる数々の建築だろう。特にバルセロナの象徴でもあるサグラダ・ファミリアは外せない。
でもね...
サグラダ・ファミリアはカトリックの教会である。ガウディが生涯をかけてその建設に取り組んでいたが、着工後140年経った現在も工事中だ。
最初に出来たのは生誕のファサード。コッテリした装飾はガウディらしさが溢れ出ているようで素晴らしい。
この生誕のファサードは、ガウディが亡くなる直前まで直接手がけていたので、彼の設計思想が比較的忠実に表現されている。“ガウディオリジナル”とも言える。
構造的には、ヨーロッパの伝統的な教会建築の手法に則って石を積み上げ、キリストの誕生から青年期までを細かな彫刻によって描いている。
しかし1936年、スペイン内戦が勃発して工事は中断。ガウディの設計図面や模型は散逸してしまった。その後は、わずかに残った資料や「ガウディならこうしたであろう」という推測を元に建設が進められている。
2010年には中央の聖堂が完成し、ローマ教皇からも正式に「教会」として認めらた。それがコチラなのだが、
......
巨木の森をモチーフとした天井の高い空間は素晴らしい。ステンドグラスも悪くない。教会らしい雰囲気も充分にある。
でもね、ガウディらしくないんだよね。
装飾は少なめでサッパリしている。所々に彫刻もあるが、ガウディの雰囲気はあまり感じられない。しかも構造は鉄筋コンクリート。
これじゃガウディでもガウディ風でもなく、普通の近代建築だよ。
ガウディの作品群は世界遺産に登録されているが、実際のところ、サグラダ・ファミリアで指定されているのは生誕のファサードと地下聖堂だけであり、その後に完成した受難のファサードやこの聖堂は対象外である。
工期も当初は完成まで300年かかると言われていた。それもどうかとは思うが、そのくらい規模は大きく、建設費もかかり、コツコツ積み上げる工事は手間もかかるという想定だったのだろう。それが最近では半分の150年となり、「2020年代には完成します」となった。
ちょっと待ってくれ!
個人的意見だが、私はガウディの教会が見たいんだよ。そのためなら私が生きている間は未完でも構わないので、ガウディの設計を突き詰めて研究して、建設を進めて欲しかった。
もちろん様々な議論があって今の方針に至ったのであろうが、残念である。
ふぅ。オープニングから珍しく否定的に書いてしまった。少し反省。
フォローしておくと、ガウディから離れて、教会建築としてはアリだと思う。
繰り返すが、新しい聖堂を批判しているのではなく、ガウディの建築として謳うことを批判しているのである。「生誕のファサード以外は、ガウディを愛する建築家たちによる別の作品(オマージュ)ですよ」とすれば何の問題も無いし、私も納得できるのだ。
ようやく本題である。
今回の紹介するバルセロナ・パビリオンは、サグラダ・ファミリアからも見えるモンジュイックの丘の麓にある。
モダンであるが、サグラダ・ファミリアに比べてに明らかに地味なその建物は、おそらく建築ファンやデザイン関係者以外が訪れることはないだろう。
広場から見るこの建物。私が大好きな水平が強調されている。
バルセロナ・パビリオンは、1929年のバルセロナ万国博覧会のドイツ館である。スペイン国王アルフォンソ13世とドイツ政府が主催する公式レセプションの会場として建てれらた仮設の建物だ。
設計はドイツ出身の巨匠ミース・ファン・デル・ローエによる。
トラバーチン(大理石の一種)が敷き詰めらた基壇。
建物はその基壇の上に建てられている。
パッと見、デザイン面では生誕のファサードは古く、コチラは新しくも見える。しかし実は、このパビリオンの方が生誕のファサードより先に完成している。
軒が大きく出た白い屋根とトラバーチンの床、そしてその2つの要素に挟まれた緑の大理石の壁が目を引く。屋根や床は、屋外と室内で区切られることなく連続しており、それぞれが大きな1枚の板のようにも見える。
仮設のパビリオンということもあってか(というよりはミースの設計思想であるが)、装飾はほとんどなく、メタル(柱)、大理石、ガラスといった素材でシンプルに構成されており、その素材がそのままデザインにもなっている。特に茶色の大理石の存在感はすごい!
そしてシンプルながらも、いやだからこそかもしれないが、外観も含めて1929年の建設とは思えない普遍的なデザインでもある。
ここで重要なモノがある。それはバルセロナチェアと呼ばれるモダニズム家具の名作とされる椅子だ。今では市販もされているが、これはミースがスペイン国王のためにデザインした椅子なのだ。(そんな有名な椅子だが、椅子のアップの写真を撮り忘れてしまった💦)
室内は全面ガラスからの太陽光と床からの反射した光で、充分な明るさがある。
そもそもセレモニーという一時的な滞在のための部屋なので、照明も空調も電気もトイレもない。東屋みたいなものだ。
室内から入口方向を振り返る。どこかの建築の項でも書いたが、真っ直ぐのビシッとしたラインが気持ち良い!
部屋の奥には、緑の大理石に囲まれた小さな池とドイツの彫刻家ゲオルク・コルベによる彫像が置かれていた。
彫像から出口方向を見る。やはりラインが美しい!(しつこいっ)
今度は出口から彫像を振り返る。
さらに離れてトラバーチンの壁と彫像。
こうして見ると、彫像の見え方もこの建築のポイントになっている。
実はこのパビリオンは万博終了後に解体されてしまった。
しかし建築的な評価が高かったこともり、1986年に元の場所に再建され、ミース・ファン・デル・ローエ記念館としてオープンした。
ということで現在のこの建物はオリジナルではない。
再建は建築家が亡くなってからのものである。もちろん図面が残っていたので、ほぼ同じ材質を使いながら忠実に再現された。ただし恒久的な建物とするため、オリジナルからは若干の仕様変更があった。ドアも新たに付け加えられた。(え? 元は無かったの?)
したがって見た目にはほとんど変わらないが、完全コピーとも言えない。
そしてもう一つ大きな変更が一つある。それは順路だ。
建築の楽しみ方の一つに意外性がある。
例えば外観の印象に対して、室内に入った時に意外性があると、驚きがあって楽しい。現在の建物は広場の方からアクセスするので、その前にガラスを通して室内が見えてしまい、意外性はあまりない。
しかし万博時の順路は逆だった。
当時の入口は広場の反対側に設定されており、アプローチする時には室内はまだ見えない状態であった。そこから進むと彫像と緑の大理石に囲まれた池が見えてきて、さらに進むとようやくバルセロナチェアが置かれた部屋に入るという流れになっていたそうだ。確かにその方が意外性があって面白い。(少し分かりにくい説明になったが、写真を下からの順で見てもらうとイメージし易いかも)
さて、今回の2つの建築。
ガウディオリジナルである生誕のファサードとガウディの設計思想から外れた聖堂(←個人的見解)で構成されるサグラダ・ファミリア、それはガウディ建築と言えるのか?
オリジナルではなくほぼコピーであるが、ミースの設計思想は比較的忠実に再現されたバルセロナ・パビリオン、これをミース建築と言えるのか?
これをどう評価したら良いのだろう?
そんなことを考えるのも建築の面白さだと思う。