【建築】建築復活!! 京都市京セラ美術館(青木淳・西澤徹夫)
爽やかな秋晴れの中、突然思い立ってフラッと京都まで遊びに来た。市内を流れる白川の水は澄み、川に張り出してたわわに実った柿が美味しそうだった。
そんな街をしばらく歩いていると、見えて来たのは平安神宮の大鳥居。しかし今回の目的地は平安神宮ではなく、その傍にある京都市京セラ美術館だ。
京都市美術館は、京都の景観を損なわないよう帝冠様式で建てられ、1933年に開館した。以前から平安神宮周辺には何度も来ているが、失礼ながら、こんな建物(美術館)があったことには気付いていなかった。
その美術館が大幅にリニューアルされ、2020年に再オープンした。それに伴い命名権も募集され、名称も京都市京セラ美術館となる。
リニューアルと言っても、外観はほぼそのままである。
帝冠様式とは洋風建築に和風の屋根をかけたデザインだが、皆さんどう思うのだろう? 愛知県民の私は県庁や市役所で馴染んでいるのであまり違和感はないのだが、一般的にはダサいと思われる人が多いかもしれない。
ある意味お固い、そしてデザインの制限も厳しいであろう建築の、どこがどうリニューアルされたのか?
まずは建物前の広場。
緩やかなスロープ状の広場は「京セラスクエア」と呼ばれ、元の地面から地下1階レベルまで掘り込まれたものだそうだ。これによって人が溜まるスペースが出来て、イベントも開催も可能になった。
「ガラス・リボン」と名付けられたメインエントランスには、受付やカフェ、ミュージアムショップなどがある。重厚な外観に対して、ガラスを使った軽やかなファサードは、気軽に入りやすくもある。
今回この建物を見学して最も印象的だったのは、動線の分かりやすさだ。美術館の中を貫くように、メインの軸が明確にされていた。それは神宮道と東山を結ぶ東西の軸でもある。
館内に入ると直ぐ正面にチケットカウンターのロビーがあり、
その先には中央ホールにつながる階段が見える。
ロビーから中央ホールへの階段は今回新たに設けられたものだが、まるで以前からあるかのように、違和感なく納まっている。そして同時に、この先にある空間への期待を高めてくれる。
リニューアルされた美術館の象徴ともなったのは中央ホール。かつては「大陳列室」と呼ばれた展示室だった。
2階には新たに通路もつくられた。
内装はシンプル。余計な装飾は取り除き、元からのデザインを出来るだけ活かしている。高い位置にある採光窓と丸型の照明、その光が白い漆喰の壁に反射して、柔らかく明るい空間をつくっている。
ただしこのらせん階段だけは現代建築っぽい。
この階段、オンタリオ美術館を思い出す。この美術館もフランク・ゲーリーの設計により魅力的にリニューアルされていた。
閑話休題。
この美術館には主に3つの展示エリアがある。
中央ホールをハブとして、左右に広がる北回廊、南回廊、そして正面を進んだ場所に増築された新館 東山キューブである。
回廊は後程少し紹介するとして、まずはそのまま正面に進む。
それは個人的にこの美術館の白眉だと思う場所だ。
!!!!!!
コレを見た時は言葉を失い、しばらく立ち止まっていた。
以前は閉ざされていた東玄関が開け放たれ、奥に広がる日本庭園がドアの枠によって額縁のように切り取られて、まるで大きな絵画のように見えた。
京都・東山を借景とした日本庭園。紅葉の時期だったこともラッキーだった。
元の本館のデザインと新しい東山キューブの現代的なデザインが混ざり合う。
東山キューブの回廊。ココからも庭園がよく見える。
ここから庭園に出られるので、一旦外に出てみよう。
左手が本館、右手が東山キューブであるが、外観的にはほとんど違和感はない。
庭園は以前からあったそうだが、あまりその存在を知られていなかったらしい。
紅葉には少し早いが、この紅葉だけが色付いていた。
東山キューブの上は階段ベンチのある屋上庭園になっている。
京都・東山を眺めながらしばし休憩。
それにしてもこの日は素晴らしく良い天気だった。
さて中に入るにはまたメインエントランスに戻らなければならない。と言っても今まで通ってきたのはパブリックエリアなので、実は無料だったのだ。
再びガラス・リボンにから中に入る。
南回廊の企画展を見学する。当たり前だが、この先は有料となる。
北回廊、南回廊はそれぞれ中庭を囲むように展示室が配置されている。こちらは南回廊にある「天の中庭」。かつては空調室外機が置かれていたが(何ともったいない!)、それらを撤去して屋外展示室としている。
中庭から見える半円形の建物は階段室。あまり手を加えていない。
なお展示室は撮影NGなので写真はない。ただし作品としては、私には馴染みの薄い画家さんたちが多く、イマイチ入り込めなかった。
再び(無料の)パブリックエリア。こちらは西広間の大階段。天井のガラスパネルが美しい。
重厚な雰囲気は劇場のようでもある。大階段では「Masquerade」を踊れそうだ。(分かる人には分かる)
三度メインエントランス。隣にミュージアムショップがある。外のスロープが印象的に見える。
ちなみに私はミュージアムショップで書籍なんかを手に取るけど、実際に買うことは少ないんだよね。荷物になるし...。
ショップの先に小さな企画展示コーナーがあり、ここからも外に出られる。
三角形のガラスの箱が出口。入場はできない。
(以前は知らないが)リニューアルによってこの美術館はスゴく魅力的になった。少なくとも建築としては申し分ない。でもそれは元々この建物が持っていた力なのだ。そこに気付き、再生させた建築家たちも素晴らしい。あとは作品や企画力だ。是非期待したい!
なお設計者の一人である青木淳氏は2019年よりこの美術館の館長にも就任している。建築家が美術館の館長になるなんて中々ないことである。
秋の鴨川も散策。
少し早い秋の京都の紅葉もどうぞ。