【建築】内か? 外か? それが問題だ/ジェフリー・バワの建築
建築の手法の一つに「内(ウチ)と外(ソト)を曖昧にする」というものがある。色々な考え方があるが、屋内に居ながら、周りの景観とか光、風、空気といった屋外の要素をいかに取り入れるか?ということだと思う。
そもそも伝統的な日本建築は、内と外の境界は曖昧であった。
ただし夏は暑く冬は寒く、また雨も多い日本においては、断熱性の乏しい従来の日本建築は快適性に欠ける部分もある。
ところで以前、リゾートホテルの設計に大きな影響を与えたスリランカの建築家ジェフリー・バワのリゾートホテルを見て回った時に驚いたことがある。客室を除けば、多くのレストラン、レセプション、ラウンジなどの共用部は内と外が曖昧、いやほとんど屋外だったのだ。
スリランカは熱帯雨林気候なので寒さの問題は無いとしても、地域にもよるが、年間降水量は東京よりも多い。雨の時はどうするのだろう? 台風は? クーラーはいらないの?
ヘリタンス・カンダラマ
バワ建築として、またダンブッラやシーギリヤなどの観光地からも近いリゾートホテルとして有名である。そして自然環境を活かした建築でもある。
まずはレセプション。元からある岩盤を利用したデザインも凄いが、エントランスにはドアもなければ、壁や仕切りもない!
廊下は森を散策している感覚となる。内か?外か?で言えば、ほぼ外だ。
木漏れ日という自然が作り出した模様が美しい!
そもそもホテルの建物が森に埋もれているようにも見える。
Number 11(33rd Lane )
首都コロンボ市内にあるのバワの自邸兼事務所である。住所が33rd Lane(通り)の11番地であることからそう名付けられた。バワは平日はここで仕事をし、週末はルヌガンガで過ごしていた。
玄関から真っ直ぐ伸びる廊下には、
所々に坪庭があり、窓がなくても外の様子を感じることができる。
セキュリティ用に藤棚のようなパーゴラがあるが、屋根はない。雨が降った時の様子も見てみたい。
屋上には簡易ではないちゃんとした屋根あり、スリランカの強い日射しを遮って、屋外でも屋内のように快適に過ごせる工夫がされていた。つまり外に内の要素を取り入れているのである。
ジェットウィング・ラグーン
コロンボ北の町ニゴンボのリゾートホテルである。1966年にBlue Lagoon Hotelとしてオープンしたが、現在はスリランカのホテルチェーンJetwing Hotelsの系列となっている。
ここのレセプションは大きな東屋だ。四方に壁はない。雨はともかく、強い風が吹いたらどうするのだろう?(ただしこの棟はバワ建築のオリジナルではなく、後に増築されたものだ)
レストランも半屋外。
やはり壁や仕切りはなく、鳥が入らないようにするための網と雨除け?のスクリーンがあるだけだ。確かにココで朝食をしていると、とても心地良かった。
客室は普通に壁・屋根に囲まれているが、バス・トイレはこの通り。雨が強い時には濡れてしまうかも...。それもまた"をかし"。
シーマ・マラカヤ寺院
コロンボ市内のベイラ湖の上に建つ寺院である。何度か改修されており、竣工時の写真を見ると、仏像の位置などは当時とは少し異なるようだが、本堂の構造は変わらない。
本堂の壁はルーバー。風が吹けば、堂内にも風が吹く。
さすがに仏様はガラスで囲まれ守られていた。
パラダイス・ロード・ザ・ヴィラ・ベントータ
リゾート地ベントータにあるブティックホテルである。元からあった邸宅を改修してThe Villa Mohottiとしてオープンしたが、現在はパラダイス・ロードが運営している。
宿泊していないので客室は不明だが、共用のラウンジであるテラスには本格的な家具が置かれ、快適にリッチな気分で過ごすことができる。
オリジナルのインテリアはあまり残っていないが、基本的な構造はバワ建築のままである。オーナー自らデザインしたという現在のインテリアはそのバワ建築と調和しており、今時のスタイリッシュな空間となっている。
ザ・ブルーウォーター
1998年にオープンした海岸沿いに建つリゾートホテル。
レセプション前のラウンジの時点から開放的だ。
視界良好な廊下の先にはプールと椰子の木が広がっているのが見える。屋内にも水路が引き込まれており、屋外的な空間を演出している。
内と外が連続していることが分かるだろう。
レストランに壁はなく、ルーバーで日射しを和らげていた。屋外に出ずとも快適。ちなみに壁で囲まれたレストランもある。
客室廊下もこの通り。
このホテルは2004年のスマトラ島沖地震で津波の被害を受け、1階エリアが床上浸水したそうだ。犠牲者は出なかったとのことで、不幸中の幸いである。
訪問した時期は乾季だったこともあり、一週間のスリランカ滞在では雨に降られたことはなかった。また暑かったが、猛暑というほどでもなかったので、内と外を曖昧にした半屋外の空間は快適以外の何ものでもなかった。
従って「雨が降ったらどうするのか?」「風が強い時にはどうするのか?」という疑問に対する答えは見付からなかった。
それにしても人は何故わざわざ建物内に屋外を取り込もうとするのだろう?
それは人間も自然の産物の一つであり、いかなる環境においても、無意識に自然に帰ろうとする本能があるからではないだろうか?
もちろん日本でも内と外を曖昧にしている建築は、寺社建築や日本の伝統家屋、現代建築や住宅まで含めてたくさんある。
私のお気に入りは伊東豊雄建築ミュージアムのシルバーハット。
そして先日見学したKAIT広場である。
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