タイルたちよ、蘇れ!
「工場は仕舞う、されどタイルは蘇る」のPart 2である。
窯業の街・常滑の老舗の建築陶器メーカー旧 杉江製陶所。
老朽化に伴い工場が閉鎖・解体されることになったが、戦前につくられた貴重なタイル見本室が"再発見"されたことから、有志によるタイル救出プロジェクトが動き出した。
建物の解体は2022年5月に始まり、8月にはほぼ更地となった。
しかし6月から7月にかけて行われたクラウドファンディングにより、1,001人から¥4,287,124もの支援金が集まり、解体前にタイルは無事運び出された。
タイルのみならず、タイル生産に関連する道具類も救出されている。
これらは将来的には恒久的な施設で保管・展示されるそうだが、常滑市のとこなめ陶の森資料館において、2022年8月11日から10月10日まで「95年前のタイル見本室再現」として暫定的に展示されることになった。(この期間は愛知県内で「国際芸術祭 あいち2022」が開催されており、常滑市のやきもの散歩道やINAXライブミュージアムも会場の一つとなっている)
とこなめ陶の森資料館は、常滑焼の収集・保管・研究を目的としている。
館内では猿投窯を起源とする常滑焼の歴史や、
民俗文化財としての常滑焼を、実物を見ながら知ることができる。
「95年前のタイル見本室再現」の会場はその2階にある。
ありし日の(というか数ヶ月前の)工場の様子がポスターとなっている。製陶所らしい何本もの煙突、特に八角形の煙突が杉江製陶所の象徴だった。
切り出されたタイルたちが部屋いっぱいに並べられていた。当然だが、実際の見本室とはかなり印象は異なる。
こちらはかつての見本室。
今回の展示。配置も忠実に再現されている。
見本室の床は釉薬が施されていない無釉のモザイクタイルがメインであったが、一部であるが、窯変タイル(焼成冷却工程中に釉薬が計らざる物理化学的変化をしたタイル)も置かれている。
ただし切り出した時に割れやヒビが入ってしまったらしい。やはりタイルを切るという作業は、ベテランの職人さんを以てしても難しいようだ。
こちらは同じタイルが見本室で眠っていた時の様子。左側の真ん中付近の窯変部分はよく覚えている。
ちなみに当時の窯変タイルのパンフレットも展示されているが、その文章があまりに秀逸なので紹介させて頂く。
なんと詩的だろう。私には書けない…。
その他にも耐水性や耐久性に優れたクリンカータイルとその金型が並べて展示されており、とても分かりやすい。また窯変タイルのサンプルも"発掘"されているが、これらの色合いも美しい。
マス目の板は、クラウドファンディングのリターン品にもなっていたタイルの貼板(タイルを組んでパネルにして出荷するための作業道具)。
床のモザイクタイルのフロッタージュも。実物のタイルとは違った味わいがあって、とても興味深い。
現場でのフロッタージュの様子。薄い紙を貼り、クレヨンやコンテで凹凸を浮かび上がらせる。
今回は特別展示もあった。Twitterの建築界隈で有名な17さん(@dis17jun)による杉江製陶所のスケッチだ。
普段Twitterで画面越しに拝見しているが、生原稿はさらに素晴らしい。
これらの額装は、解体された見本室の天井材を再利用したものだそうだ。
絵をしっかりと受け止め、かつ際立たせている。
また常滑市在住の画家であり、杉江製陶所に魅せられたハヤシダイスケさんによる漫画風絵もある。
以上簡単な紹介であるが、詳しい内容は現地で、あるいは救出プロジェクトのウェブサイトやTwitter(#杉江製陶所)をご覧になって頂くと分かりやすい。
余談だが、"建築"に興味のある私であるが、実はタイルへの関心はそれほどでもなかった。しかし今回のこのプロジェクトに賛同させてもらったことがキッカケとなり、今では街中でタイルを見かけると、思わず視線を向けてしまう。
例えば私が卒業した母校の講堂。国の登録文化財になっており、今でも現役で使われているが、当時も卒業後何十年も経ってからも、何の関心も思い入れもなかった。だが外装がタイル仕上げだったことを思い出し、近所なので、先日久しぶりに見に行った。
よく見れば、近代建築らしく趣のある建築ではないか!
この床のモザイクタイルなんて、運動場が前にあることもあって、砂のついたスパイクでゴリゴリ歩いた覚えがあるが、それが今でも立派に残っている。もしこのタイルが竣工時のオリジナルだとすると、90年以上になる。スゲー!
こうしたタイルの素晴らしさを教えてくれたことにも感謝したい。
そして何より、この救出プロジェクトメンバーの方々に謝意を表したい。
私は"中の人"ではないので詳細は分からないが、初めは数人で動き出した今回のプロジェクトは、見学会の開催や活動の様子をSNS等で発信したことにより、最終的には様々な職種の方々が何十人も携わったと伺っている。
調査、記録、発掘、切り出し、洗浄、運搬、保管、クラファン、リターン品準備・発送、フロッタージュ、企画展準備・運営 等々。言葉一つで表しているが、それぞれの作業量は多い。タイルを保存するだけでもこれほど大変なのだ。
そして活動はもうしばらく続くと思うが、引き続き、勝手に陰から応援させて頂きたいと思う。
ありがとうございました。
なお陶の森資料館の隣には、建築家・堀口捨己による陶芸研究所がある。モダニズムの名建築で見学もできるので、建築好きな方はコチラもどうぞ。
解体前の杉江製陶所(Part 1)
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