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【建築】"スペース"が謎を呼ぶアルス司祭教会(アルド・ファン・アイク)
心揺さぶられる建築って何だろう?
これまでの建築探訪を振り返ると、自分にとっては教会などの宗教施設に印象的な建物が多かったように思う。今風のスタイリッシュな建築も大好きだが、心落ち着く宗教施設らしい空間が自分の好みに合っているのかもしれない。
今回もそんな建築の紹介である。
人口55万人のオランダ第三の都市デン・ハーグ。
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中心部にはキラキラの現代建築が集まるが、その郊外に小さな教会がある。
中央駅からトラムに乗ること20分。緑多き住宅街で降りる。
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停留所直ぐ近くの堀の向こうに至って地味な建物が見える。
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コンクリートブロック仕上げの正面に窓はなく、外の世界に対して閉じているかのような印象さえ受ける。これが建築業界で有名なあの建物なのか?
鐘楼もなく、外壁に掲げられた十字架がかろうじて教会であること示していた。
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教会の名前はPastoor van Arskerk。
19世紀のフランスの守護聖人 ジャン=マリー・ヴィアンネ、通称「アルスの司祭」に捧げられたカトリック系の教会である。完成は1969年。
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この教会は普段は閉まっており、礼拝の時にしか開いていない。
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その情報を得ていた私は予め見学したい旨の連絡をしていた。当日は教会のボランティアの方に案内して頂いた。
「正面の鍵を開けるのは少し手間なので、裏口からでもいい?」
もちろんどこからでも構わない。見学させてもらえるだけでありがたい。
そして裏口から入った時の衝撃は忘れられない。
照明が消えている薄暗い空間の中、天窓から光が落ちていた。
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「素晴らしい…」
思わず日本語でつぶやいたその意味を分かってくれたのか、ボランティアの方は感激に浸る私をしばらくそっとしておいてくれた。
見どころ其の一はまずこの身廊。
幅は3.5m、天井までの高さは 10.5mとその大きさは他のゴシック建築教会の半分にも満たないが、丸いシリンダーの天窓から落ちる光が、まるで大教会のような威厳も感じさせている。
加えて和の趣を感じる提灯のような照明。イサム・ノグチの「AKARI シリーズ」を思い起こさせる。(というか多分AKARI)
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身廊には小さな礼拝室や洗礼室が面している。
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この身廊を中心として、左右に礼拝堂と集会室がある。
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見どころ其の二は礼拝堂。
こちらも高さは3mと高くないが、その分横の広がりを感じさせる。まるで地下室のようで少し圧迫感がないこともないが、それを補って余りあるのが身廊と同じくシリンダーの天窓だ。この天窓が礼拝空間を緊張感のある、しかし心地良くもある雰囲気にしている。
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しばらくこの静寂に包まれた空間に身をゆだねていた。
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建築的な視点から見るとこの天窓は変わっている。というのは普通天窓は梁が無い場所に設けるものだが、ここでは天窓の真ん中を梁が貫通している。
何故だろう?
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単なるデザインなのか? あるいは高さのある梁に自然光を反射させ、間接的な柔らかい光を室内に取り入れるためなのか?
この天窓にも照明(多分AKARI)が組み込まれている。
しかし自然光が入る昼間に限っていえば、照明OFFの方が断然良い。
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比較として照明をONにしてもらったが、いかがだろうか?
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好みもあると思うが、
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私は照明OFF派だ。案内してくれた方も「照明付けない方が良いでしょう?」と照明OFF派だった。
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この教会、天井も興味深いが床も面白い。
数段の階段を付けることによって床の高さを変化させている。
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地形的な理由もあるかもしれないが、身廊や礼拝堂には間仕切り壁がないのでその境界として、あるいは機能の区分けとして段差を設けているのかもしれない。
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祭壇の配置も変わっている。ゴシック建築に限らず、一般的な教会では手前に玄関広間があり、その奥に礼拝堂となる身廊、さらに奥に祭壇がある。
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しかしここでは建物の中心に配置された身廊が玄関広間の役割をしており、礼拝堂はその横にある。礼拝堂へは、祭壇の脇を通り過ぎて着席する。
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逆に言えば、参加者は礼拝終了後に神聖な祭壇に背を向けることなく、祭壇に向かって(その横を通り過ぎて)退出することができる。
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礼拝後に参加者たちが歓談したりイベントなどに使われる集会室は、身廊を挟んだ反対側にある。ここにもシリンダーの天窓があるが、テーブルや椅子のせいか、その雰囲気はイマイチだ。(やはり家具は重要だ)
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ちなみに奥のアコーディオンカーテンを開ければ、身廊や礼拝堂と一体的につなげて広い空間として使えるようになっている。
さて、この独特の教会を設計したのはオランダの建築家アルド・ファン・アイク。コンペティションではなく教会からの依頼だったそうだが、アルド・ファン・アイクには教会を設計した経験はなかった。それどころかカトリック教徒でさえなかった。そのためアイクは教会の設計経験者に協力を仰いだ。それはハンス・ファン・デル・ラーン。そう、私が感動したあの修道院の設計者だ。
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幾何学的なデザインはファールス修道院と共通するものがある。ただしハンス・ファン・デル・ラーンが具体的にどの程度このアルス司祭教会の設計に関与したのかは分からない。おそらくアドバイザー程度の役割だろう。
そもそもアルド・ファン・アイクも幾何学的な意匠を得意としていたそうなので、雰囲気が似ているのは偶々かもしれない。
ところでこの建築で私がどうしても分からないことがあった。これまでの写真をご覧になってお気付きの方もいるかもしれない。
それはあちこちに見られる"スペース"、つまり開口や隙間だ。
例えば垂れ壁の四角い開口や、
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柱と壁と梁の細い隙間。柱と壁は上では接していないので、少なくとも構造的な意味はないだろう。
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天窓のシリンダーと梁の間にも微妙な隙間がある。
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この"スペース"は何だろう???
ボランティアの説明によれば、この建築には3つのキーワードがあるとのことだった。一つはLight、一つはSpace、もう一つはEnergy。
Lightは分かる。メチャ分かる。
残り二つについては「SpaceにEnergyが宿る」というような説明だったが、私の拙い英語力では理解出来なかった。もっとちゃんと聞いておけば良かった…。
現実的に考えると、この"スペース"があることよって柱というものをあまり意識せず、さらには建物を実際の大きさより広く高く感じさせるという効果はあるかもしれない。もちろん広く感じるかどうかは個人の主観的なものだが。
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いずれにしても外見の地味さからは想像出来ないほど内部は感性豊かだった。コンクリートブロックという一般的には建築家が敬遠しそうな素材を使い、壁には窓を設けず、天窓からの自然光を巧みに取り入れた空間はとても素晴らしかった。
朝イチでの建築探訪だったが、この日のケンチクはこれでお腹いっぱいだった。
ご馳走様でした!
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