【建築】"作品を展示すること"に追求したブレゲンツ美術館(ピーター・ズントー)
"作品を展示すること"
そんなの美術館なら当たり前じゃんって思うよね、普通は。
オーストリア・フォアアールベルク州の街ブレゲンツ。ボーデン湖畔にある街だが、ウィーンやザルツブルクからは遠く、観光としては少々マイナーだ。
もし人々がこの街を訪れるとしたら、主な目的は二つのいずれかだろう。
ブレゲンツ音楽祭か? あるいはブレゲンツ美術館か? もちろん私は後者だ。
1997年オープンのブレゲンツ美術館は常設のコレクションを持たない小さな美術館だが、開催される企画展の評価は高く、作品を展示するアーティストからの評判も良い。そして美術館としての評価もさることならが、建築としての評価も高い。その設計は孤高の建築家 ピーター・ズントーによる。
美術館は、磨りガラスのファサードが印象的な本館と、黒いコンクリート打ち放し仕上げの管理棟に分棟されている。これは本館を美術館の本来の目的である"展示"という機能に特化させるためらしい。
本館は712枚ものガラスパネルで覆われている。凝っている。いや、凝りすぎだ。ズントー建築を見るといつも思うのだが、ここまで凝る必要があるのか?
建築家は「技術を見せるためではなく、スタディの結果、あるべき姿がこれなのだ」とおっしゃるだろう。でも私は建築の読解力がないので、その必要性があまり理解出来ないこともある。
パネル1枚の大きさは1.72 x 2.93 mもある。
そのパネルはともかく、実は磨りガラスを使っていることには大きな効果があるのだが、それは後ほど。
では館内へ。過剰な装飾やサインもなく、シンプル&ミニマルなデザインだ。
一般的な美術館では、エントランスに受付やショップなどが集約されたホールがあるが、ココではドアを開けるといきなり展示室が出迎える。"展示するという機能に特化した建物"であることが分かる。
もちろん受付はちゃんとあるけどね。
天井はコンクリート、壁はガラス。照明もあるが、ガラスを通してソフトな自然光が展示室を満たしている。美しい…。ため息しか出ない…。(「建物ではなく作品の方を見ろよ」というご意見があるのは承知しています)
各階の移動は普通に階段かエレベーターだが、これまたミニマル。私は"建築のディテール"にはあまり興味ないが、それでもそのシンプルさには見惚れてしまう。技をつくして技を消すといったところか。
こんな端正な階段やエレベーターある?
周りの壁と馴染ませる階段室のドア。
誘導灯も凝りすぎ。ここまでするか?
2〜4階までの展示室は同じ間取りのワンルームで、壁がコンクリート、天井はガラスパネルとなっている。コンクリートには丸いピーコン穴もなくシンプル。
この建物、厚さ72cmの壁が建物を支えており、設備も裏側に仕込んである。従って展示室内に柱はなく、作品をとても鑑賞し易くなっている。
床はツルッとした継ぎ目のない人造大理石で、これまた美しい。
この美術館の美しさには館内への光の取り入れ方も挙げられる。1階は壁面から、対照的に2階以上の展示室は天井から自然光を取り入れている。それが場所によって濃淡があることも興味深い。全体的には少し薄暗い気もするが、絶妙な明るさともいえる。ファサードを磨りガラスにしているのはこのためだったのだ。
天井ガラスパネルの裏には照明もあるので曇天や夜間でも問題はないが、照明が使われている時の様子も見てみたい。だが眩しい程の晴天だったこの日、自然光のみで鑑賞出来たことは良かった。
ちなみにここだけパネルが取り外されていた。何故?と思われる方は、作品をよくご覧頂ければお分かり頂けると思う。(作品は米国のインスタレーション作家・Theaster Gates氏による)
トイレやロッカーは地下にある。地下への階段もやはり隙の無い美しさ。
トイレ前の休憩スペース。壁のガラスブロックはズントー建築では珍しく、ちょっとレトロな雰囲気もある。
照明器具も薄いっ!
配線が見当たらないが、吊りボルトのような細い支柱の中を通しているのか?
この建築、素材としてはコンクリートとガラスを使って絶妙に光をコントロールした建築だった。安藤忠雄さんもコンクリートとガラスを使った建築を得意としているが、その印象は全く異なっていた。
またこの記事では「シンプル」とか「ミニマル」という言葉を何度も使ったが、それはコンセプトである"作品を展示すること"に追求した結果でもあった。プランもシンプルで、適度な広さ(約450m2)の正方形のワンルームが積み上がっているだけである。室内には装飾もなく、天井のパネルを除けば、目地や線さえない。つまりアーティストはシンプルに作品を壁に掛けたり床に置くだけで良いのだ。(だからこそ、作品はもちろんキュレーションが重要になる)
とはいえ、今までに世界の一流アーティストが展覧会を行っているが、中にはムチャクチャな展示も少なくない。ヤン・ファーブル(2008年)とかオラファー・エリアソン(2001年)とか...。アーカイブを見る限り、ズントー建築台無し。しかし作品は魅力的。そしてそれを許可する美術館もスゴイ!
さて最後に管理棟だが、今回は日射しが強くシルバーのシェードが下ろされており、建物の全容はイマイチ分かりにくかった。
この建物の前には小さな広場があり、美術館と旧市街を結ぶ役割を果たしている。この日の美術館はお客さんも少なかったが、そんな立地のお陰なのか、1階にあるカフェは地元らしき人々でそれなりに賑わっていた。
せっかくなので私もカフェで一休み。
見学のまとめとしては、「昼から屋外で飲むビールは美味しい!」である。
ピーター・ズントーの建築訪問記
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