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【建築】水と光と影がつくるセレモニーホール Hofheide(RCRアルキテクタス)

人生の最後の場、家族や友人が集まり大切な人を偲ぶ場である葬礼。かつてはお寺や個人宅、現在はセレモニーホールで行われることが多い。
そのセレモニーホール、不特定の人が短時間利用するだけなので、装飾は控えめな建物が多い。実用的と言えるが、凡庸とも言える。

しかし近年は、日本でも海外でも建築家が設計した洗練されたデザインのセレモニーホールもある。伊東豊雄さん設計の「瞑想の森 市営斎場」は有名だ。


そして建築ファンは罰当たりにも、セレモニーホールだろうが霊園だろうが建物見学に行く。私もその一人。

こうした施設は普段は葬礼が行われているので、特別に設けられた見学日か、予め施設に問い合わせてアポイントを取った上での見学となる。
今回訪れたセレモニーホールも、事前にアポイントを取って訪れた。




ベルギーの首都ブリュッセルから電車で40分。ルーヴェン市の郊外にあるHofheide。周辺の自治体とフラームス=ブラバント州によって設立されたセレモニーホールである。

駅からは30分ほど歩くのだが、当日は生憎の雨。歩道はあるものの、傍らの幹線道路をスピードを出した車やトラックが通り過ぎていく。


しかし到着する頃には雨も上がり、青空も広がりつつあった。


アプローチに歩道はない。そりゃそうだろう。多くの人は車で訪れるだろうから。


少し早めに着いたので、まずは外観を見学することにした。
建物は右側にあるが、この場所からは木々に隠されて見えない。


しかし反対側に回り込むと、現代建築らしいユニークな建物が姿を現す。


この施設、オープンは2013年9月と比較的まだ新しい。
設計はカタルーニャの建築家集団 RCRアルキテクタス。「誰?」と思われる方もいるだろう。私も数年前まで知らなかったが、2017年に建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞して、日本でもその名が知られるようになった。

建築家は「弔問客に信仰や文化を押し付けることなく、出来るだけ自然に近い、自然の一部であるという感覚を高める空間を作りたかった」と述べている。そうした意図を反映してか、池と湿地帯という自然と一体となるように整備されている。


コンクリートの建物を不規則な短冊状のパネルが覆う。どこか素朴さも感じさせるパネルは木のようにも見えるが、これはコールテン鋼(保護を目的として表面を錆びさせた鋼)で、後で紹介する内部でもあちこちに使われている。
とてもセレモニーホールには見えないね。


パネルが歪んでいるのは、ペラペラにならないよう剛性を持たせるためでもある。
また地元の鉄鉱石からインスピレーションを受けて、コンクリートには酸化鉄の顔料も使っているので、少し茶色っぽく染まっている。


短冊がコンクリートに映す影が美しい。この短冊は外観の意匠だけでなく、それらが作り出す影も考慮して設置されている。この建築は水と光と影をテーマとしているのだが、この通路からはそのことがよく分かる。


影は消えたり現れたり、またその形も時の経過と共に変化していくが、それもまた趣がある。(実際は見学することに忙しく、そんな情緒を感じる余裕もないが)


短冊は直射日光が当たらない場所でも効果的だ。池や木々が短冊により切り取られたこの光景など、湿気の高い熱帯地方のように見えないこともない。


さて、アポイントの時間になったので館内へ。
コールテン鋼の大きなドアを開けて中に入る。


インターホンを鳴らすとスタッフの方が気さくに対応してくれた。
今日はセレモニーはないのでゆっくり自由に見て下さいとのこと。感謝。教会を見学する時のように敬虔な気持ちで見学させて頂こう。


このセレモニーホールは特定の宗教とは関係なく、「大切な人とのお別れを自分らしく、安らかに、シンプルに行える場所を提供する」ということをコンセプトとしている。内部では"光"と"影"を効果的に使うことによって、神聖な、しかし落ち着きのある空間がつくられている。

例えばエントランス横のスペース。

小さな待合室といった用途だが、部屋の奥には天窓から自然光が注ぐ。

天窓の見上げ。ガラスは付いているので、雨が降ることはない。


廊下も同様。スリットから、デザイン的にもアクセントとなる自然光が入る。


この施設には、手前に大ホール、奥に小ホールの2つのホールがある。


部屋のサインはプロジェクタで表示。


こちらは大ホールの前室。奥には天窓からの自然光。


そしてドアの向こうには、

300名収容のホールがある。装飾もないシンプルでミニマルなコンクリート仕上げの空間だが、ここも光の取り入れ方が素晴らしい。

特に光と影が描く壁際のパターンはどうよ。


設備としては最新のマルチメディア、ディスプレイ、ネット環境を備えており、生前の写真や映像を見ながら故人を偲ぶ。親族に式の様子をライブで配信することも可能だそうだ。日本でも今時の葬礼はこんなふうなのだろうか?


こちらは奥にある小ホール。


廊下との境界と、

前室の奥にはやはり自然光が落とされている。


ところで、先ほどの大ホール前室もそうだが、コールテン鋼パネルを縦に並べただけの、仕切られているとも仕切られていないとも言えるこのパーティション、ちょっと良くないですか?


重厚感のあるドアも良き。


小ホールは100名収容。光の取り入れ方は大ホールとは異なる。

棺にスポットライトが当たるように、自然光を取り入れている。


googleマップで見ると、天窓がいかに多く設けられているということが分かる。


このセレモニーホールは前述のように自然の一部となるような空間作りを心掛けたそうだが、"ガラス張りにして、外部の風景を内部から見せる"という手法は取らず、あくまでも外部とは明確に切り離したクローズな、しかし巧みに自然光を取り入れることによって閉塞感を感じさせない空間となっていた。


ちなみに地下には火葬場も備えている。


改めて外へ。庭園や墓地も整備されている。


また隣接した別棟にはレストランもある。

このレストランは一般にも開放され、弔問客以外でも利用することができる。


過去に何度か弔問客として、時には親族としてお葬式には出てるが、「セレモニーホールがどんな建物だったか」ということはあまり覚えいていない。その余裕がなかったのか、あるいは建物が凡庸だから印象に残らなかったのか?
実際、機能優先の施設なのだから、凡庸なデザインでも困ることはない。
その観点からすると、著名な建築家にわざわざセレモニーホールの設計を依頼することには「そこまでする必要があるのか?」という意見もあるかもしれない。
とは言え、素晴らしく美しい環境で、ゆっくり落ち着いて静かにお見送りできるに越したことはないよね。



余談だが、雨に濡れたこの壁、自然が作ったアート作品のようにも見えた。数時間も経てば消えてしまう儚い作品ではあるけど。

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