【建築】氷山のようなオスロ・オペラハウス(スノヘッタ)
以前のことだが、海外に行くと、何故だかオペラを観ていた。ミラノ・スカラ座では天井桟敷を求め(売切だったが)、ウィーン国立歌劇場では「ユダヤの女」を、シドニー・オペラハウスでは「フィガロの結婚」を観劇した。しかし特にオペラに興味があった訳ではなく、日本ではオペラ鑑賞をしたこともなかった。
やがて”建築”に興味を持つと、その対象は建物に向かい、海外でオペラハウスに行っても「観劇しよう」などとは思わなくなった。
ホントあれは何だったんだろう?
さて今回の建築探訪はオスロ・オペラハウスである。そのユニークさから、建築巡礼者以外の人にとっても観光スポットになっている。
ノルウェーの首都オスロの人口は約70万人。この規模の多くの街がそうであるように、オスロも観光名所はコンパクトにまとまり、徒歩で巡ることができる。
例えばノルウェー王室の居城である王宮。
そこから真っ直ぐカール・ヨハン通りが伸びる。
途中にはオスロ市庁舎や、
オスロ大聖堂があり、
約1kmの程よい散歩は、中央駅に突き当たって終わる。
オペラハウスは、その中央駅から徒歩5分の港にある。
このフォルムは「氷山」をモチーフとしているそうだ。(北欧とは言え、もちろんオスロにまでは本物の氷山は流れて来ない)
材質は白い大理石と花崗岩。晴れた日には特に白さが際立って眩しい!
その特徴はご覧の通り。建物全体がスロープ状になっていることだ。
このスロープは24時間解放された広場となっており、誰でも歩いたりくつろいだりすることが出来る。
注目すべきは、スロープには手すりがないこと。
滑ってしまうのでは?という懸念もあるが、表面は凸凹になっているので、普通に歩く限りでは滑ることはない。
ただし自転車やスケボーは禁止だ。また雪の日は滑りやすい。
こんな注意書きがある。そう、何事も自己責任!
スロープはそのまま海まで続いている。
この広場は展望台としての役割もある。
高所恐怖症の人にはチョット怖い高さであるが、
オスロの街を素晴らしく一望できるのだ!
そう言えばこの広場は、クリストファー・ノーラン監督の「TENET テネット」(2020)にも登場していた。(少々難解な映画だった)
ところでこのオペラハウスには、アーティストによる作品も組み込まれている。
海の中に浮かぶガラスとステンレスのオブジェは、イタリアの芸術家モニカ・ボンヴィチーニによるガラスの彫刻「She Lies」。
ドイツの画家 カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの「氷の海」という作品をモチーフとしているが、”地球温暖化によりオスロにまで氷山が流れ着いてしまった”ということを表現しているらしい。
他にも、フライタワー(舞台上の緞帳、吊り物や照明を収納するスペース)はアルミパネルによる仕上げだが、
その模様はノルウェーの芸術家ユニットLøvaas & Wagleによるデザイン。
しばしカモメと一休み...。
ここから館内へ。エントランスは氷山のクレバスを表しているのか?
北欧建築はインテリアも注目されることが多いが、ここも明るい”北欧らしい”ホールが来場者を出迎えてくれる。高い天井に加えて、ガラスとオークを使った仕上げが印象的だ。
ちなみにこのホールも公共空間として開放されている。
仕上げ部分のアップ。短くカットしたオークを貼っているのだが、どこか日本の某建築家の作品を思い出してしまう。
あえて斜めにした細い柱が意匠的にもアクセントになっている。個人的には格好良いと思うし、好みのデザインだ。
トイレへの通路にあるこの壁は、デンマークの芸術家 オラファー・エリアソンによる作品。溶けていく氷をイメージしているらしい。それにしてもオラファー、何でもやるなあ。
劇場やオペラハウスでは重要な機能となるホワイエ(幕間の休憩や、社交の場として使われる空間)もオークによる仕上げだ。
階段も。
ホワイエからも、ガラス越しにオスロの風景を見渡せる。
このnoteでは北欧の建築として、これまでにアアルト大学図書館(フィンランド)やオーフス市庁舎(デンマーク)を紹介させてもらった。
これらにも共通することであるが、”北欧の建築”は、内装・家具にはデザイン的にもテクスチャーとしても人にやさしい「木」を使い、外に対しては窓やガラスを効果的に使って、特に日照時間の短い冬にも「自然光」を多く取り入れることを特徴としている。このオペラハウスでも、それらが当てはまっている。
再び外に出て、今度は裏側にまわってみよう。
こちらにはバックヤード的な機能の部屋が配置されているようだ。こうした観客や来場者の目には触れない、言わば劇場の裏方機能を持つエリアは、仕上げがフライタワーと同じアルミパネルとなっている。
実は、来場者が歩くエリアは石、劇場は木、バックヤードはアルミというように、仕上げの素材が使い分けされていたのだ。
1階には衣装工房があり、その様子がチラリと見えるのが面白い。
さて、あちこち歩き回っての見学が終われば当然疲れて喉も乾く。
外のテラスでオシャレに気持ち良くコーヒーなどを飲むのも良いが、
ここはマニアックにオークの内装を眺めながらビールを飲もう。
銘柄はノルウェーのブランド Ringnesのピルスナー。
夕方、また来てみた。散歩したり、夕陽を眺める人も多い。
空がブルーに染まる中、オークの内装が浮かび上がる。美しい!
このプロジェクトの設計は、コンペを勝ち上がったノルウェーの設計事務所スノヘッタによる。設計要件にはオペラハウスとしての機能以外に、オスロのランドマークとなることも含まれていたそうだ。結果として、実際その通りになった。
それは単にモニュメンタリティのある建築ということだけではなく、屋根を公共広場として活用するというランドマークと建物が一体となった建築であるということを示している。
その意味では、建築家のみならずランドスケープ・アーキテクトもパートナーとなっている組織スノヘッタだからこそ出来た建築とも言える。