【建築】木漏れ日で満たされる新島チャペル(手塚建築研究所)
"光の〇〇"
あちこちで目にするフレーズだし、私も"光"とかそれを連想させる言葉をよく使っている。耳に心地良く使いやすいということもあるが、実際に"光"を体験すると美しいと感じるし、感銘を受けることも多いのでやむを得ない。
今回はどんな"光"だろう?
新島学園短期大学。同志社の創立者である新島襄の教育理念を受け継いだ新島学園を母体とする大学である。設立は1983年とまだ新しく、キャンパスは群馬県高崎市にある。
2020年3月、そのキャンパスに新しい校舎が完成した。設計は手塚貴晴さんと手塚由比さんのご夫婦が主宰する手塚建築研究所が手がけた。
メディアで紹介された写真を見ると"光"がとても印象的だったのでぜひ見学したいと思っていたが、大学施設なので普段は見学することが難しい。しかし2023年春に見学会が企画されたので、これはチャンス!とばかりに高崎を訪れた。
早速だが、こちらが新校舎。1階が教室、2階が講堂となっている。
現代建築らしいガラス仕上げ。しかし内部に見えているのは木の柱。
そう、この建物は木造なのだ。
1階にはいくつかの教室が並ぶが、今回は割愛。真っ直ぐ2階に向かう。
階段からして既にこの雰囲気。いやが上にも期待が高まる。
そして…、
おお!
これは正に"光"の空間ではないか! そう呼ばずして何と言おう?!(単に私の語彙力が乏しいということもあるが)
まるで森の中で木漏れ日を浴びているようだ。
見学会当日、自らご案内されていた設計者の手塚貴晴さんによれば、これは旧約聖書の創世記に登場する「エデンの園」を描いているとのこと。知恵の実を食べてしまった故に追放されたアダムとイプが辿った道筋、深い森から明るい光が立ち込める野原へと向かう情景をイメージしている。
なぜエデンの園?
エデンからの追放は悲劇であると同時に人間社会という文明の始まりでもある。学生たちは優しく守られた大学という学びの国から、数年後には厳しくも自由な社会へと旅立ってゆく。ココはそうした学生を育む森なのだそうだ。
抽象的ながらもエデンの園の木々や動物が描かれているが、想像力の乏しい私にはイマイチ分からなかった。いや、木は何となく分かるか。
ここは街中の住宅街にあるため森や林はなく、植栽も少なくて少々殺風景なキャンパスだ。だからこそ、この空間がさらに印象的に感じる。
太陽の動きと共に明るさや影の位置も変化する。それもまた趣がある。
この情景は、木製合板に6 mm単位の小さな角穴を開けることで描かれている。さすがに手作業ではないだろうが、だとしても大変な作業に違いない。
ちなみに外からはこんな風に見える。夜、室内からの光で建物が発光する様子も見てみたい。
この講堂は教会のような雰囲気もある。新島学園の教育理念はキリスト教を基礎としているので、タイトルにもあるようにチャペル(礼拝堂)として使われることもある。椅子、テーブル、演台などの家具はほとんど教会用のそれだ。
長椅子も同様。聖書等を置くスペースもある。
壁際の2列の柱は構造的必要性から設置されたものだが、その空間はゴシック教会の側廊のようでもある。
天井を見上げれば、この建物が純然たる木造であることが分かる。小さなブレースがランダムに配置された構造グリッドは美しくもあり、地震の振動を吸収・分散する役割も果たしている。
建築家曰く、今回の建築は「失われた建築の方法論を復活させようとする試み」であるそうだ。
でも私の正直な感想は、この点は微妙かな?
最近の建築は構造と構成と素材でいかに空間を快適にするかということに重点が置かれ、建物本体の装飾は控えめである。対してこの建築は確かに装飾的ではあるが、外装にガラスが使われていることもあり、やはり現代建築にも見える。
でもその試みが何であっても、"光"が美しい建築であることに変わりはない。
最後に少し残念というか、やり過ぎというか…。
トイレのサインである。
どちらが男性用で、どちらが女性用かお分かりになるだろうか?
私は分からなかった。一緒に見学に行った人も分からなかった。
正解は…、