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【建築】上野東照宮の2つの対照的な建物/社殿と静心所(中村拓志)

年が明けて間もないある日、久しぶりに上野公園まで出掛けた。この日の東京は冬らしい綺麗な青空が広がり、寒さも控えめで、散策には絶好の天気であった。

公園内には多くの美術館や博物館、動物園などがあるが、来園目的は国立西洋美術館での企画展である。しかし予約した入場時間までまだ1時間ほどあるので、以前から気になっている上野東照宮に立ち寄ってみることにした。


東照宮と言えば、陽明門で有名な日光東照宮がイメージされるが、

東照宮とは徳川家康を祀る神社のことであり、日光の他にも全国各地にある。上野東照宮もその一つで、寛永寺の伽藍として1627年に創建された。


ただし今回のお目当ては社殿ではなく、その隣にある神符授与所/静心所だ。設計は建築家・中村拓志さんによる。


屋根の垂木が印象的な建物が神符授与所。

神符授与所とは御朱印やお守りを受け取るところ。また静心所と社殿の拝観受付でもある。今のお守りって種類も多いし、オシャレなデザインや限定モノもあって、中々面白い。まあ結局買わなかったが…。

神符授与所を振り返る。

屋根の構造には社殿を囲む透塀のデザインをモチーフとして取り入れている。交差する垂木の向きは、一本は社殿と日光東照宮を結ぶラインと並行に、もう一本は静岡の久能山東照宮に向けられている。どちらも家康の墓所がある重要な東照宮だ。


神符授与所から御神木のある庭に出ると、高い塀に囲まれたコの字型の参道が配置されている。周りの喧騒や都会の風景を遮断することで、東照宮への参拝に集中することが出来る。


こちらが静心所。静心所とは"参拝の前に御神木と対面して心を静め落ち着かせるための場所"なのだが、正直に言えば、久しぶりの建築探訪を楽しみ過ぎて、"心を静める"ことは出来なかった。


御神木は高さ約25mの大楠。幹周囲約8m、樹齢は約600年で、東照宮の創建以前からこの地を見守り続けている。ただしクスノキは樹齢が長く、樹齢1,000年以上のクスノキも少なくない。600年というのはまだ中堅といったところか?
周りには三重県の朝明川で取れる花崗岩の玉石「伊勢五郎太」が敷き詰められ、神聖な空間であることが強調されている。


この地にはもう一本、高さ30mの御銀杏(イチョウ)もあった。イチョウの木は燃えにくいので防火的な役割もあり、御神木と共に東照宮を見守っていたきたが、倒木の可能性があることが分かり、残念ながら2020年に伐採された。

静心所の後ろのスリットからは伐採された御銀杏の切り株が見える。

次の世代に語り継ぐかのように、既に新しい芽が青空に向かって伸び始めていた。生命のたくましさを感じるね。


静心所の屋根には、この御銀杏の木が使われている。

カーブした屋根の形状は銀杏の葉が重なり合う姿をイメージしているそうだ。


ちなみにこの屋根、真ん中の板状の柱を支点としてヤジロベーのように屋根を乗せ、塀に付けられた細い柱で固定するという構造になっている。


ヤジロベー構造により柱などで視界が遮られることなく、御神木や社殿を拝むことができる。せっかくなので、しばらく座って"心を静めて"みた。



さてココまで厳かに参拝してきたが、後半は一転した世界に入る。そう、いよいよ社殿に参拝するのだ。


まず目に入ったのがこの台。どうやら「ここから写真を撮れ」ということらしい。


ということで撮った写真がコチラ。なんと豪華絢爛だろう!

この華麗な社殿は1651年に造営され、その名の通り金色殿とも呼ばれている。関東大震災や第二次世界大戦の戦果も免れ、国の重要文化財にも指定されている。2009年から2013年にかけては大修復が行われ、創建当時の姿が甦った。
鷹・鳳凰・阿吽の形の獅子・菊・牡丹などの動植物の彫刻により力強く、そして美しく装飾されている。彫刻には金箔が貼られ、その上から岩絵具で彩色するという手法がとられた。随所に配置された三つ葉葵の家紋も眩しい。


こちらは唐門。社殿と同じく1651年の造営で同じく重要文化財。正式名称は唐破風造り四脚門(からはふづくりよつあしもん)。

やはり細部まで精巧な彫刻で装飾されている。


門の左右には左甚五郎作の昇り龍・降り龍の彫刻がある。その出来栄えがあまりに素晴らしいので、毎夜不忍池の水を飲みに行くという伝説もある。

偉大な人ほど頭を垂れるということから、頭が下を向いている方が昇り龍と呼ばれている。見習おう。


社殿を囲む塀も装飾が素晴らしい。真ん中の緑の格子部分は、先ほどの神符授与所の屋根の垂木のモチーフになっている。1651年造営の重要文化財。


江戸時代の華やかなりし頃の華麗な装飾が施された社殿。その直ぐ隣に建物をつくるということは難題だったに違いない。どうしても比較されてしまうからね。
それに対して中村拓志さんは、和や寺社建築の要素を取り入れながらも、"静寂で落ち着きのある"対照的な空間をつくった。つまり静心所にはデザイン面のみならず、気持ちの上でも社殿を際立たせるという効果もあるのだ。静と動、緊張と緩和とでも言おうか?
どちらも見応えのある建築だった。


参道には旧寛永寺の五重塔が残っている。こちらも1639年と古く、重要文化財に指定されている。実は上野東照宮(旧寛永寺)は伽藍としても見所満載なのだ。


ちなみに本来の目的である国立西洋美術館の企画展はピカソ展。ピカソだけでなく、マティスやパウル・クレー、ジャコメッティなど私の好きな芸術家の作品ばかりで、こちらも充実した展示であった。

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