ある"梁"のお話 — Every Beam Tells a Story of Growth & Survival —
以前、仕事でアメリカの病院を見学させてもらう機会が何度かあった。その中でとても印象に残っている、ある病院のエピソードを紹介させて頂く。
Dana-Farber Cancer Institute(ダナ・ファーバー癌研究所)
がんの研究と臨床において知られる世界的な病院であり、あのハーバード大学の関連病院の一つでもある。
子どもから大人まで、がん治療のために通院する施設だ。院内には診察・検査・化学療法部はもちろん、体力や免疫力が落ちた患者さんがリラックスできるヒーリングガーデンもある。冬のボストンは寒さが厳しいので、屋内庭園はありがたい。
そんな病院の片隅にある階段室。そこの梁には"落書き"のようなものがあった。
VICTOR、ISABELLA、SUSAN、JIM、DANNY、JOJO …
どうやら名前のようである。
実はこれらは、この建物の建設当時、小児がんの治療で通院していた子どもたちの名前なのだ。
話は1996年、本館が建設された時に遡る。
本館の建設中、躯体を組み上げる鉄骨職人たちは、向かいの病院に治療に通う子どもたちが、自分の名前をボードに書いて掲げているのを見た。
その様子に感動した職人たちは、子どもたちの名前とスマイルマーク、そして「IRONWORKERS THINK YOUR GREAT(俺たち鉄骨職人は、君たちのことをスゴいと思ってるぜ!)」などのメッセージを梁に描いたのだ。
普段であれば交わることはないであろう彼らの交流は多くの人々の共感を呼び、15年後の2010年、新館の建設中にも再び同じ運動が起こった。しかもより大きな広がり持って。新館の鉄骨に書かれたのは子どもたちの名前のみならず、その家族や大人のがん患者さん、病院スタッフの名前にまで及んだ。
この運動はEvery Beam Tells a Story of Growth & Survivalと名付けられた。
以下、関係者の声である。(Dana-Farber Cancer Instituteより引用)
工事が進むにつれ、サインが書かれた鉄骨も仕上げ材で覆われて見えなくなったものもあるが、もちろん彼らの"想い"は今後も残るものであるし、現在でも階段室等の一部では見ることが出来る。
いかにもアメリカらしいこのエピソード。こういう話をシニカルに捉える人もいるかもしれないが、私は素直に感動したのであった。
ちなみにアメリカの大学や病院の運営費用には、企業や財団、OB、一般人からの寄付金が占める割合も多い。Dana-Farberもがん治療研究促進のために10億ドル(←書き間違いではない)の寄付金を目標に「MISSION POSSIBLE」というキャンペーンを展開した。結果的に11億8千万ドルの寄付金が集まったそうだ。凄い!
Every Beam Tells a Storyの運動も、これら寄付金の募集に対して役立ったとのことである。
なお今回の記事は自分の写真だけでは不足していたので、Dana-Farber Cancer Instituteの公式サイトからも引用させてもらった。