読む『対談Q』 水野良樹×橋口洋平(wacci) 第1回:カッコいい男、書いちゃダメなんじゃないですか?
「情けない男」前提で歌詞を書いている。
水野:さぁ対談Qです。今日のゲストは、やっとHIROBAにお呼びすることができました、wacciの橋口洋平さんです。よろしくお願いします。
橋口:よろしくお願いします。ありがとうございます。
水野:プライベートで僕が一緒にご飯に行くひとって、本当に指で数えられるぐらいしかいないんですけど。そのうちの一人が橋口くんで。それも1年に1回とかですかね。
橋口:そうですね。
水野:ランチに行かせていただいたり。前は関取花さんと三人でご飯行かせていただいたり。先輩面をさせていただきました。
橋口:いや本当にその節はお世話になりました。なんか初めてあんなに深くまで。
水野:ね! 僕がなんでそんな言葉を口走ったんだろうって思ったんですけど、「もう1軒行く?」って言っちゃったんですよ。
橋口:水野さんが、「もう1軒行く?」って言ったことの感動がすごかったです。嬉しくて仕方なくて。
水野:まず、ないんですけど。
橋口:僕も水野さんも、「もう1軒行く?」ってフレーズいちばん言わない人間ですから。嬉しかったです。
水野:関取さんと橋口くんがすごく受け止めてくれる。過去最高くらいに受け止めてくれて。いい気分になっちゃって。「もう1軒行く?」って口走ってしまったこと、本当に申し訳ない。ありがとうございました。
橋口:楽しかったです、ありがとうございました。
水野:ということで、この対談Qは、ひとつのテーマをゲストの方と一緒に考えていこうというコーナーでございまして。橋口くんと何を喋ろうかなと。今までもラジオとかで喋らせてもらっているし。歌のことも結構深くまで喋っているんですけど。あえてここで聞くのは何かなと思ったときに、こちらです。「カッコいい男の歌って、果たして書けるのか?」。今ね、「恋だろ」が大変バズって。
橋口:そうですね、すごく広がってくれていて。嬉しいですね。
水野:橋口くんが書いた楽曲はやっぱり歌詞が注目されるところが多くて。「別の人の彼女になったよ」もそう。で、改めて思ったんですけど、男性をカッコよく書くって難しいかもなって。女性の場合、わりと失恋から立ち直るとか、「私は男性に頼らず生きていく」とか、カッコいい女性像を歌詞にしやすいんだけど。
橋口:なるほど。
水野:男性は、失恋を書いても未練たらしくなっちゃうし、「俺が俺が」になってもイヤな感じになるし。「恋だろ」の歌詞を読んでも、<震えながら守る>とか、どこか弱さを滲ませるようなフレーズがあったり。カッコいい男性を書くって、意外と難しいんじゃない?ってことを語り合ってみたいなと。歌詞を書かれるときは、どういう主人公像を意識しているんですか? スタートラインは自分自身なのか、それとも架空なものなのか。
橋口:もちろん自分自身に繋がるところがある主人公を書こうとは思っていますけれども。やっぱりどうしても、最初からある程度「情けない男」前提で歌詞を書いている。
水野:「情けない男」を書くのうまいよね、あなた。
橋口:自分が歌えるのはそこだって信じ切っちゃっていますね。主人公が男目線の場合、設定として「情けない男」的なところは、迷いなく選んでしまっていた。だから今日このテーマ、たしかに考えたことないと思って。
水野:でしょう?
橋口:すごいテーマ来たなと思いました。
「カッコいい男」ってドラマない。
水野:書けないなぁと思って。男性シンガーの方の楽曲提供も何度かやらせていただいていて。いわゆる、見るからにカッコいいひとたちの曲も書かせていただいているんですけど。
橋口:それこそ鈴木雅之さんとかもそうですし。
水野:ラブソングの王様に書いているから。で、やっぱりマーチンさんだから成立する言葉ってあると思うんですよ。ちょっとセクシーな言葉とか、「俺は最高だぜ」みたいなセリフが入っていても、全然イヤな感じがしなかったりする。でもなかなかその域に達するのは難しいなって。
橋口:難しいですね。
水野:とくに僕らぐらいの年代で、「俺が俺が」ってちょっと憚られるなって。
橋口:わかります。
水野:曲調もあると思うんだけど。
橋口:書いたことないです。でもやっぱり情けない男だからこそ、言える強さとか。
水野:そっちに行くよね。
橋口:それがいちばん伝わると思っちゃっている自分がいるので。最初からカッコいい男の状態で、誰かの背中を押したり、誰かに想いを伝えたりって、難しく感じちゃう。
水野:情けない男のほうがドラマになるんだよね。コンプレックスを持っていたり、うまく踏み出せなかったりするやつのほうが、ドラマがあるから歌詞を書きやすい。「カッコいい男」ってドラマないんだよね。
橋口:ないですよね。もうカッコいいんだから。
水野:出来上がっているから。
橋口:情けない男だと、ポジティブな言葉だったり、強い愛や恋の気持ちだったりを伝える時点で、ひとつハードルを乗り越えているから。
水野:そうなのよ。
橋口:伝わりやすいですよね。でも元から自信もあってカッコいいと、もうサラッと言えちゃっている。全然ハードルを越えてなく、頑張ってなく見えちゃう。
水野:女性にフラれる歌詞があるとするじゃないですか。男性が主人公だとすると、フラれることが切なさ悲しさ弱さを滲み出しながら、情けない。だけど、彼女の未来を祈っている。これって歌詞にしやすいドラマがあるじゃないですか。
橋口:はい。
水野:それがカッコいい男の場合、「君はもう前に進んでいけばいいんだ」って、これカッコいいじゃない。未練を断ち切って。でも歌にする必要がないんですよね。何も書くところがないのよ。
橋口:みんな円満に別れたっていうことになりますし。そもそもこの話を聞かれたときに思ったんですけど、「カッコいい」の定義が大事になってきますよね。
それ、別カノの新しい彼氏じゃん。
水野:そう、そこそこ。「カッコいい男」って何ですか? 「恋だろ」をバズらせている橋口洋平が考える。
橋口:いやぁ…どうなんですかね。今ここでお話する「カッコいい男」と、世の中の言う「カッコいい男」って多分、違うから。どこの「カッコいい」を…。
水野:そんな世の中のこといいんだよ(笑)あなたが考えているカッコいいを。
橋口:「カッコいい男」は、誰に対してもフラットに接せられて、裏表がなくて、自然にさりげない優しさとかも女性に行えて。
水野:それ、別カノの新しい彼氏じゃん(笑)主人公の子が今付き合っている。
橋口:そうですね! だから思い切り歌のなかで悪者にしてやりましたけどね(笑)
水野:悪いやつにしてるじゃん! あの歌詞のなかでいちばん可哀そうなの、新しい彼だからね。
橋口:まさにそうだと思います。逆にどうですか?
水野:まったく同じなんだよ。ひとに対してあんまり嫉妬心を持たず、分け隔てなく付き合えて、グチグチしてない。未練たらしいところもなければ、かといってドライすぎない。何もドラマ起きないよね? 執念深いとか、やっぱりマイナスだもんね。カッコいいひとはシレっとしているというか。
橋口:そういうカッコよさでいいです? もっとあるじゃないですか、寅さん的な。
水野:あぁー!
橋口:とか、男同士のみたいな。沢田研二さんとか。
水野:そう、沢田研二さんの「勝手にしやがれ」をこないだ久しぶりにちゃんと聴いてね。主人公の男、カッコ悪いのよ。壁ぎわに寝がえりうって、女性が出て行くのをきいているって相当カッコ悪いじゃん。歌詞だけだと。
橋口:はい、はい。
水野:しかも、勝手にしやがれと、笑ってくれて構わないと、ちょっと強がっているじゃない。めっちゃカッコ悪いじゃん。でもそれをあの絶世の美男子、トップアイドルの沢田研二が歌うと、カッコいいんだよね。
橋口:カッコいいんですよね。
水野:あれは、あのひとじゃないとカッコよくならない。
橋口:でもなんか、情けない自分を断ち切って強がるカッコよさみたいなのがありますよね。
水野:それが好きなんじゃない?
橋口:それが好きなんですかね。「カッコいい男」っていうフレーズから想像できる像って、歌のなかだとああいう感じになるなぁと思って。でも、実は情けないってことになると、もうカッコいい男、書いちゃダメなんじゃないですか?
水野:書いちゃダメなのかな。
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