読む『対談Q』崎山蒼志さん(シンガーソングライター)後編②
読む『対談Q』崎山蒼志さん
水野:ライブとレコーディングを比べたとき、レコーディングの声のほうが正確性はもちろんある。何度も歌うし、テイク数を録るし。
崎山:そうですね。
水野:何が違うかっていうと、聴いてくださる方々の状態が違うんですよね。
崎山:ああ、なるほど。
水野:レコーディングされたものは、こういう静かなところで冷静に聴くじゃないですか。聴き直したりもするし。細かいところも見えちゃう。だけどライブのときのお客さんって、その場の熱を感じながら、ご自身も熱くなっているから。熱さを共有している。そのときに音楽的に合っているかっていうよりも、この“熱”に合っているかってことが大事になる。とくに歌い手さんはそこを敏感に感じているのかなって。どうですか?
崎山:熱があるときは、いろんなことが気にならないですよね。あとから音源で聴くと、「めっちゃズレてるな」とかありますけど、その場では、熱があって気にならない。
水野:わかる。ライブやって、ホテルに帰ってね。
崎山:「結構良かったんじゃないか」って思って本番の録音を聴いて、思っていた印象と違う、みたいなのはすごくありますね。
水野:でも、その場の空気には絶対に合っていたんでしょうね。
崎山:そうなんだと思います。
水野:聴くひとの存在はどれぐらい意識するんですか?
崎山:声をひとつの音として出している時期は、歌がひとに“聴かれている”という印象はなかったというか。ギターと声が混ざったようなものが出ていて、それを見ていただいているという感じで。
水野:なるほどね。全部一緒だった。
崎山:だから歌が「あ…」とかあんまり思わなかったんですけど。やっぱりそうじゃなくなったとき。今年に入ってライブをしたときとかは「歌、聴かれているのかなぁ」って、歌を意識するようになった気がしますね。
水野:歌を意識していなかった頃と、意識するようになった頃、どっちが良い声だと思います?
崎山:どうなんですかね。でも中学校ぐらいのときとか、何も意識してないのに、意外と悠々と歌えていて。
水野:難しいねえ。進歩したと思ったのに。
崎山:あれれ、みたいな。なんか忘れちゃったか?って感じもありました。
水野:でも、また戻っていくんですかね。
崎山:理想の理想は、歌が上手になって、また戻っていきたいですね。意識しないで滑らかさとか、歌の上手さが出るようになっていくように
水野:自然にスーパーサイヤ人になれるみたいな。
崎山:それは、理想中の理想ですね。すごい難しい。でも本当に歌がお上手な方がめっちゃ多いので。
水野:みんな悩んでいるじゃないですか。歌の形みたいなものに。
崎山:でもそれこそ僕は、いきものがかりさんの吉岡さんを見て…。
水野:めっちゃ、悩んでますよ、あいつなんて。試行錯誤して。
崎山:えー。でもライブ、むちゃくちゃ歌が素晴らしくて。感動しました。
水野:彼女も多分、崎山さんが言ったことと近くて。突き詰めていく方向に一旦なったんですね。デビューしてから。CDで聴いていただいた歌を、ちゃんとライブでも再現できるようにって突き詰めた時代もあって。
崎山:ああ…そうなんですね。
水野:だけどそこから、また変わって。その瞬間瞬間のライブの空気をつかむ、自分でダイナミクスをつけていくかたち。一概に、どっちが良いとも言えないんですよね。どっちも良い。答えはないよなぁって。崎山さんが言っていることと近いのかな。上手くなったうえで、自然を目指すような。
崎山:それが本当に理想ですね。
水野:ちょっと違う話かもしれないけど、ベテランの漫才コンビの方がYouTubeとかで雑談をしているのを観たときに、その雑談が歌みたいに聴こえてすごいなって思ったことがあって。芸人のみなさんってリズムがあるから抑揚の付け方が自然で。これってすげーなって。
崎山:なるほど。流れるように。
水野:だけど、それは簡単には絶対できないじゃないですか。そういう訓練をずっとされて、自然にできるようになっているから、普通に雑談していても飽きずに聴こえる。それはすごい。練習して、考えずともそれができる。
崎山:それはサイヤ人だ。
水野:最終的に答えは、サイヤ人の声になろうって(笑)。まぁ、そう考えると楽しくないですか?
崎山:楽しいですね。課題がいっぱいあって大変なんですけど、楽しみでもありますね。
水野:19歳です。彼、19歳です。ちなみにわたくし38歳です。いいなぁ。また、見つけられたらいいですね、お互いね。違うものが見つかって、また話し合って。「あのとき言ってたこと、ああでしたよ」ってなったらおもしろいですよね。
崎山:おもしろいですね。
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