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読む『対談Q』 水野良樹×ジェーン・スー 第1回: 「矜持」っていう言葉と「品」が近くなってきた。

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストはコラムニストのジェーン・スーさんです。

嘘が漏れるのがすごく嫌。

水野:さぁ対談Qです。ゲストの方とひとつのテーマについて、一緒に考えて頂きます。今日のゲストは、コラムニストでラジオパーソナリティーのジェーン・スーさんです。よろしくお願いします。

スー:よろしくお願いします。ご無沙汰しています。

ジェーン・スー
コラムニスト。1973年東京生まれの日本人。
TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』(毎週月~木曜 午前11時~)のパーソナリティを担当。また、話題のポッドキャスト「ジェーン・スーと堀井美香のOVER THE SUN」 を毎週金曜17:00に配信中。
『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)、『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)、『これでもいいのだ』(中央公論新社)、『女のお悩み動物園』(小学館)。
2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』がテレビ東京系列でドラマ化され話題に。2021年12月に『新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない:愛と教養のラブコメ映画講座』(ポプラ社)、『ひとまず上出来』(文藝春秋)を2冊同時に刊行。
新著『きれいになりたい気がしてきた』(光文社)が現在発売中。

水野:1年半ぐらい前、いきものがかりのアルバム特典DVDのインタビュアーをジェーン・スーさんにやっていただきまして。そのときさりげなく、「HIROBAっていうのやっていまして、いつかいらしてください」って言ったんですけど。それがやっと叶って僕はすごく嬉しいです。

スー:いつお声かけていただけるかなと思いながら、待っていました。


水野
:ジェーン・スーさんの最新刊が発売になりまして。『美ST』という雑誌の連載がまとめられた、『きれいになりたい気がしてきた』という本が出ました。


『きれいになりたい気がしてきた』


水野:本を読みながら、ジェーン・スーさんとどのようなお話をしようかと考えて。で、今日は『「品」とは?』というテーマを。ジェーン・スーさんがお書きになられる文章に、みなさん共感したり、もしくはちょっと耳が痛いなって思ったり。ユーモラスに書かれているんだけど「この、漂う品はなんなんだろう」って思うんですよ。

スー:(笑)。

水野:ご自身で「私はちょっと下品なこともあって」みたいなことを書かれたり、おっしゃられたりしているけど、なぜか品があるのはなんだろうって。この「品」って言葉は危険だったりもして。誰かが決めた健全さ、「品」の形を、押しつけられちゃったりもするから。でも、ジェーン・スーさんはそれを受け止めるだけじゃなくて、自分で出していくというか。なんでそんなに品があるんですか?

スー:品があるかないかで、「ある」って言ってもらえるのは、嬉しいです。けど、ないほうだと思う。ていうか、下品なところは多分にありますね。若い頃とかはまさに、決まった形とかマナーに囚われていました。そういうものを敵対視したり、抗ってみたり、そこが軸にあったと思うんですけれど。でも年を重ねていくにつれて、「矜持」っていう言葉と「品」が近くなってきたなっていうのもあるんですよ。

水野:はい、はい。

スー:だから、下品なところをちゃんと自分で見て、受け止めてから、品を考える。つじつまの合わない欲望だとか、倫理や道徳から反するような思いだとか、いっぱいあるじゃないですか。そういうものがないひとが世の中的には、「品があるひと」ってことですよね。

水野:そうですね。

スーだけどそんなわけないと思っていて。そんなひとはどこにもいないし、もしそうだと言っているひとがいたら、多分、嘘。その嘘が漏れるんですよね。漏れるのがすごく嫌。だから自分のつじつまの合わなさとかを、露悪的に出す作業をしているんですけれど。それを、品があると取ってもらえるんだとしたら嬉しい。

水野:露悪的に出している、っておっしゃるんだけど、なぜ他のひとと違うように見えるのか。

スー:あぁー。

水野:あと、ジェーン・スーさんの言葉は、誰かからジャッジされることに対しての距離感みたいなものを常に持っている気がしていて露悪的なんだけれど、「そうだよね、そうだよね」ってこっちが言うと、スッって引かれるような

スーそうなんです。神輿が来たら逃げるっていう(笑)

水野:その近すぎず遠すぎずなところに、常にいらっしゃるのが、他の方と違うのかなって思ったり。


本名の私がジェーン・スーのアーティスト宣伝担当。


スー:それこそいきものがかりも、品があるないでいったら、品があるチームですよね。

水野:本当ですか。 品を押しつけられているとは思いますけどね。健全さみたいな。

スー:なるほど。世の中からね。でも多分それなんですよ。自分ではわからないけど、「いいひとたちなんだろう」って思われるものが作品から滲み出ている。だからそう取られる。それが誤解だったり、神髄だったり、あると思うんですけど。ひとが自分に対して持つ印象って、本当コントロールできないですよね。それは最近思う。

水野:でも、すごくそれを意識されていません? ひとから見られる自分が、どういうものかっていうことに対して、いつも行動を起こしていらっしゃるというか。

スー:そうですね。それこそたまたま入れ違いだったんですけど、私エピックにいたので。

水野:いきものがかりの所属レーベルです。

スー:レコード会社で宣伝をやっていたのは、かなり大きくて。ひとがどのタイミングで、どう見ていくって結構、見ていたんですよね。だから、本名の私がジェーン・スーのアーティスト宣伝担当みたいな感じ。

水野:ジェーン・スーっていう名前の存在と、本当の素のご自身の存在って、どれぐらい距離があります?

スー:自分自身ではそんなに距離がなかったつもりだったんですけど、それこそ他者が持つイメージが、どんどん自分の想定から外れてきたので。結果的に乖離してきています。ビックリするのが、たとえばインスタとかに「イェーイ!」とか写真を載せると見たひとから、「そのジャケットどちらのですか?」みたいな。私にも聞くんだ!? と思って(笑)

水野:そりゃそうですよ!

スー:結構ビックリしません? 着ているものとかを、「それどこのですか?」って言われるひとと、そうじゃないひとって世の中わかれるじゃないですか。でも、聞かれるひとたちはモデルさんとか、俳優さんとかで、こっち側は聞かれないと思っていたんですよ。ってなっていくと、「ジェーン・スー、船出したな」って。

水野:それって、どうですか?

スー:えーっと…警戒しています、すごく。

水野多分、期待されている文章もあるんじゃないかなって思うんですよ。「これを代弁してほしい」とか。そことの距離感も保とうとされている感じがするんですけど。


スー
:それこそいきものがかりだって、「この作品で主題歌をお願いします」って言われたときに、「元気な感じで」とか「前向きな感じで」とか、またかよ!ガシャン!みたいなの絶対あるでしょ?

水野:ガシャンはないけど(笑)。「ですよね」みたいなのはありますね。

スー:どうしています? その気持ちの処理って。

水野それこそ、「ですよね」って受けるの、品がないと思うんですよ。期待していただくことはありがたい。でも、そこにただ従順になることは、よくない意味での「お仕事」になってしまう気がするから。

スー:わかる。

水野そこに対話がないと、本当の意味での成功にはならない。なので、抗うというより、いったん止まって考えるようにしています。

スー同じですね。「ジェーン・スーってこんな感じでしょ? だからこんな感じのちょうだい」って、仕事ではある。まぁ向こうも忙しいからわかるんだけど。でもそこに乗っかるとすり減るのはこっちというか。肩書きとタブみたいなのがどんどん増えてきたり、ついていっちゃったりして、身動き取れなくなるのは自分で。

水野:はい。

スー:だから、発注者にどういう意図があるのかは気になります。期待されていることが、果たして私のやりたいことや伝えたいことと一致しているのかとか。そこをまるっと、「ですよね、こういうのですよね」ってやると、品がないと私も思います。


私たちはあくまで草履を作っている。


スー:あと、”状態”と”プロダクツ”を私はわけていて。自分の作りたいものを作っていく、考えていく、喋っていくってことが自分の”状態”。作家なのか、コラムニストなのか、ラジオパーソナリティーなのか。あくまでこれは作ったものがあっての、結果としての”状態”じゃないですか。

水野:はい。

スーでも、やっぱり世の中には”状態”のほうを“側”として憧れたり、そういう役割を求めてきたりというところもある。そこで私が”状態”のほうに重きを置いてしまうと、なかが空っぽになって、それも品がないんですよ。

水野:難しいなぁ。でもよくわかります。

スー:老舗の草履屋って言いながら、草履を作ってなきゃダメじゃんみたいな。草履を作った結果、なんとなく続けられて老舗になるとか、たくさんのひとに愛される。私たちはあくまで草履を作っている。

水野でも何かを成し遂げたとか、形がいったんできたひとが、陥りやすいことですよね。本質的な部分が溶けていくような事態というか。そういう意味で、品を保つのは本当に難しい。

スー:水野さんといきものがかり、完全にイコールではないじゃないですか。で、いきものがかりってある種の公器じゃないですか。だから、ほしいものがあるひとたちにほしいものを供給するのも、草履職人としては仕事としてある。ただ、それが自分の矜持と離れることは絶対にダメ。

水野:うん。

スー:で、この奥の細道を通っていくわけですけど…。そのとき私も気をつけなきゃと思っているのが、誰かがほしいものをスーンと裏切っていくのも、それはそれでまた品がないんですよ。そこに向き合っていきながらも、上澄みだけじゃないところにも届く表現力を自分は身につけなきゃいけないなと。

水野「ほしいものじゃないものを」っていうアクションって、要は逆張りなんですよね。

スー:そう!だから簡単なんですよ。

水野:結果的に、ほしいものに応えているのと同じことをやっている。

スー:わかる。超わかる。

水野:その緊張感を保つというか。やっぱりいったん立ち止まって考える。対話する。それをジェーン・スーさんはずっとやられているんだなぁと思います。


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