対談Q水野良樹×かが屋 第1回:許される世界に身を置いておきたい。
水野:対談Qです。ゲストの方とひとつのテーマについて、一緒に考えていただく、このコーナー。今回はコンビでお越しいただきました。かが屋のお二人です。よろしくお願いします。
加賀・賀屋:よろしくお願いします!
<プロフィール>
かが屋
加賀翔と賀屋壮也によるお笑いコンビ。2015年結成。「キングオブコント2018」で準決勝に進出して注目を集める。2019年1月には初の冠ラジオ番組「かが屋の鶴の間」(RCCラジオ)が放送され、4月よりレギュラー化された。同年9月に「キングオブコント2019」の決勝に進出し、「NHK新人お笑い大賞」でも本戦に進んだ。YouTube「かが屋文庫 かが屋のオフィシャルコントch」毎週水曜日、日曜日20時より更新。
水野:加賀さんは2度目のご出演となります。
加賀:これが爪痕を残せたってことなのかと。水野さんの心に残れた。
賀屋:いやあ、ありがたいですね。そのおかげで僕もここに座れた。僕は絶対に小説家Zには出られない。小説を書いてないから。
水野:加賀さんには小説家Zに出ていただきまして。僕的には意気投合したと思っているんです。
加賀:僕も。
賀屋:なるほど、なるほど。
水野:そのとき、「絶対また会いましょうね」って言って。これは三人でやってみたいなと。で、普段は一応こういうトークテーマを決めて、それについて一対一で話すんですけど、今回はちょっと…。
賀屋:このトークテーマ、おかしいですよね!? なんで僕が教える側みたいな。
水野:今回は構造を変えまして。加賀さんは水野側に来ていただいて。
賀屋:なんで!?
水野:前回、僕たちどこで意気投合したかというと、二人とも頑張りすぎてしまう。
賀屋:はいはい、そうですね。
水野:何かひとつのことにこだわりすぎてしまったり。それこそウォーキングにハマると1日1万歩、絶対に歩かなきゃいけないとか。とにかく根詰めちゃう。「そんな二人をどうしたらいいですか?」っていう。
賀屋:根詰めない側の僕がね! まぁ、うちの相方が水野さんと共通点がある時点でだいぶ誇らしいですけど。
加賀:前回の対談が終わったあと、賀屋にすぐ言いました。事務所に行って集まったんですけど、「ちょっと…連絡先を聞けばよかったわぁ」って。
賀屋:「ミスったわぁ」って言っていて。僕に答えられることがあったら全然。
加賀:賀屋は本当にシュークリームダイエットとかやっているので。シュークリームいっぱい食べて痩せたらいいなって。
水野:言葉の矛盾を感じるんですけど。
賀屋:シュークリームは完全食なので。あれを食べれば大丈夫です。
加賀:吸収が早いからカロリー消費も早いって。
水野:賀屋さんはあんまり細かいことにはこだわらないタイプなんですか。
賀屋:どっちかと言えば。目ヤニはあんまり取らないタイプです。それわかりやすいでしょ。
マセキ芸能者のオーディションを受けるとき…。
水野:そこをよくピンポイントで選びましたね! この二人が結びついたのは、どういうきっかけなんですか。全然性格が違うじゃないですか。
加賀:当時、コンビニのバイト先が一緒だったんですね。僕はお笑い芸人になろうとしていて、相方候補として誘ってくれる子がまた別でいて。でもその子が、「やっぱり(お笑いを)やめるって」言って、それを賀屋に相談していて。で、「俺、お笑いに興味あるんだけど」みたいな話から意気投合していたんですけど。そのときはもうちょっとちゃんとしていたんですよ。
水野:ちゃんとしていたってどういうことですか。
加賀:賀屋は年齢的に一個上なんですね。大学も行っていて、サークル長とかやっていて。
賀屋:そうそうそう。会長やっていて。
水野:めっちゃリーダー格だったんですね。
加賀:「何でも相談してよ」みたいな感じで言ってくれて。だから、このひとは僕と同じで、こつこつ頑張りたいタイプのひとなんだと思っていたんです。でも蓋を開けたら、外側だけ。背中がすべて張りぼてだった(笑)
賀屋:だから正直言うと、憧れています。ちゃんとやりたいですよ。こうなりたいんですけど、なれない。サボっちゃう。寝ちゃう。そういうやつです。僕は本当に。
水野:めっちゃ優しいひとじゃないですか。コンビ組む上で加賀さんのどこがよかったんですか?
賀屋:本当に最初は「お笑い芸人を目指している」というステータス。その事実が僕にとっては重要だったんですよね。僕は僕でテレビ好きだったので、放送作家さんとかに憧れていて。就活に困ってどうしようかなってときに、お笑い芸人をやっている子が入ってきたので、「これはもう声かけよう」って感じだったんです。
水野:でもだんだん話していくと、それこそお笑い好きなお二人だからこそ、「このタイプだったら自分と形にならないな」みたいなのもあるじゃないですか。漫才やコントをしていても。そこらへんの空気の読み合いはなかったんですか?
賀屋:どうなんだろうなぁ。「なるようになる」とか思う。そうやって考えて楽をするタイプなので。言い方は悪いですけど、ずーっとなんとなくやってきた。
加賀:非常におおらかではあるんですけど、それは自分が責められないためみたいなところがあって。ひとが忘れものしたり、遅刻してきたりしても絶対に、「全然気にしなくていいよ。もうそんなの誰にだってあることだからさ」って言うんですけど、これは「(俺のときもよろしくね)」って言っているんですよ。
賀屋:それは最近気づきました。僕そうだったんだって。
水野:遅刻するタイプですか?
賀屋:遅刻するタイプではないんですけど、忘れものとか多くて。抜けているところがある。でも多分、処世術のような感じで「ミスされたときに優しくしておけば、僕がミスったとき大丈夫だぞ」っていう小ズルい考え方があるんですよね。
水野:加賀さんからしたら、そういうのはイラっと来ることはないんですか?
加賀:結構あります。それこそマセキ芸能社のオーディションを受けるとき、事務所ライブのチケットの半券を取っておいて、それを持って会場に行かなきゃいけないんですね。でも当日、賀屋が失くして。「うわー!ごめん!もう本当に最悪だ―」って。しょうがないから「1か月経ったらまたあるから、いいネタを考えて、もう1回行こう」って言ったんです。そして翌月、ちゃんとまたライブを観に行って保管していたのに、来るなり、「あ…!」って。「家に忘れた!くそー!」って、まったく同じ悔しがり方をしていて。
水野:今の表情も完全に“神妙なフリ”ですもんね。
加賀:神妙なフリしています。それでまた次の月に、「絶対になくさないで。お財布のなかに入れとくようにしておいて」って言って。本番前にファミレスで待ち合わせて、先に外で確認したんです。「持ってる? よし!」ってなかに入って。で、しばらく打ち合わせして、ファミレスを出たら、今度は財布を盗まれていて(笑)。自転車のカゴに財布を入れっぱなしにしていたんですよ。
水野:すごい!
加賀:「は? もう何してるの?」ってなったんですけど、このときも、「俺だって悔しいよ!」って。
賀屋:マジでしょうがない。財布を盗んだやつが悪い。マジでそれはしょうがない。
加賀:そこでちょっとパワーバランスが。「あれ? このひと、もしかしてだらしないひとか?」ってなってきて。
水野:なるほどね。
加賀:ちょっとずつ目につくようになってきましたね。本当にちっちゃいことで言うと、たとえばクロマキー撮影。背景を緑で合成する撮影です。「緑色の入った服は避けてください」って言われるんですけど、賀屋は「わかりましたー」って言って、翌日に上下、緑で来る。
水野:消えちゃう!消えちゃう!(笑)
加賀:さすがにマネージャーさんも「え? おかしいことしているってわかってます?」みたいな。
賀屋:そうねー。
みんなから許されると思って生きている。
水野:そのダメ出しのパンチは効いているんですか?
賀屋:効いてます!
加賀:いやいやいやいや。
水野:目が怖い。
賀屋:効くけれども、1回寝たら、忘れちゃうかもしれないです。
水野:反省はしないタイプなんですか? そんなに引きずらない?
賀屋:そうですね。いいように言えば、嫌なことも忘れられる。1回寝れば。でもそれと同時に、覚えなきゃいけないこともパッて忘れちゃう。しょうがないところかなって。
水野:そのバランスが取れているんですかね、やっぱり。
加賀:僕がどっちかというと気にしいというか、心配性なので。まぁ二人とも心配性だったら、止まらなくなっちゃうと思うし、ストップしてくれている気はしますね。もちろんイライラすることもあるんですけど。
水野:逆に賀屋さんが怒ったりはしないんですか?
賀屋:怒ると怒られるじゃないですか。怒ったら、自分が怒ったことをちゃんとやらなきゃいけないじゃないですか。
水野:はいはいはいはい。
賀屋:だから怒れない。ミスるから。
水野:責任のパイを作るのが嫌なんですか。
賀屋:そうです。
水野:緩い世界にしておきたいみたいな。
賀屋:基本的には許される世界に身を置いておきたい。みんなから許されると思って生きているし。
加賀:え?
賀屋:いろいろ考えたんですよ。なんでこんなに忘れちゃったりするのかなって。そう思ったとき、「かわいい、かわいい」で大事に育てられたから、「基本的にみんな俺のこと好きだろう」っていう気持ちもあるんですよ。
水野:すごい。
賀屋:でも、「そう思うのは恥ずかしいことだ」みたいなのもあるんですよ。だから今までカッコいいのを演じていた。ドラマとか漫画で見た、「このひとカッコいいな」を一生懸命に繕っていたんです。でもどうやら僕は本当に、「まわりからしたら、僕は好かれている」と思っている。だから忘れものとかしちゃう。
加賀:根っからのアイドルなんです。
水野:いや、素晴らしい。そういうタイプのひとってそう。
加賀:よかった。わかってくれて嬉しいです。
賀屋:多分、普通に生活しているとイラつかれるので、ちょっと緊張はしているんですけど。でも今年30歳になるんですけど、こうやって言ってもらったりすることで、だんだんわかってきている気がするんです。自分はそういう人間なのかもしれないって。
次回は8月23日公開です。