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読む『対談Q』 水野良樹×大塚愛 第1回:「違うじゃんママ。あの曲はどんだけ可愛く歌えるかじゃん」

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストはシンガーソングライターの大塚愛さんです。

自分の歌声が全然よくないところが問題だった。


水野:さぁ、対談Qのコーナーです。ゲストの方とひとつのテーマについて一緒に考えていこうというこのコーナー。今日のゲストはシンガーソングライターの大塚愛さんです。よろしくお願いします。

大塚:よろしくお願いします。


大塚愛(おおつか あい)
1982年9月9日生まれ、大阪府出身。O型。
4歳からピアノを始め、15歳で作詞・作曲を行う。
2003年9月にシングル「桃ノ花ビラ」でメジャーデビュー。同年12月に発売した2ndシングル「さくらんぼ」が大ヒットしブレイク。2004年には日本レコード大賞最優秀新人賞受賞、「NHK紅白歌合戦」初出場。
シンガーソングライターとしての活動のほか、イラストレーター、絵本作家、楽曲提供などクリエイターとしてマルチな才能を発揮し活動中。
また2019年から本格的に油絵を描き始める。
2021年12月に9thアルバム「LOVE POP」をリリース。

水野:やっとお会いできました。まず、大塚愛さんがこの度、『大塚愛歌詞集 I』という歌詞集を出されました。光栄なことに、わたくしこちらに寄稿をさせていただきまして…。

大塚:本当にありがとうございました。



水野:僕はずっと一方的に片思いというか。大塚さんはデビューされたのが2003年ですよね。

大塚:はい、2003年です。

水野:そのぐらいに僕らいきものがかりは、神奈川のライブハウスで演奏していて。同い年のすごい子が現れたことをテレビで観ていたんですよ。で、「いつかこのひとと肩を並べて、会ったり、何かできたりする機会があればいいな」って思って。その夢が今日、叶いました。ありがとうございます。

大塚:あはは。でも、もっと前、テレビで一緒に出ていますよね。私、「SAKURA」のとき一緒だったんですよ。

水野:え?マジっすか? 僕らが初めてMステに出たとき?

大塚:そう、私スタジオにいましたよ。

水野:うそ。なんで俺、覚えてないんだろう。

大塚:それで、「とんでもないひと出てきた!」と思って。「3人いるうちの誰が曲を作っているんだろう?」って。めちゃくちゃ名曲を持ってきたなって。すごかったです、あの衝撃。

水野:ちょっと今、15年越しぐらいに喜んでいます(笑)

大塚:はは。

水野:僕は多分、『エキサイト』のイベントでご一緒していて。その打ち上げ会場みたいなところでご挨拶したのが初めてで。そのとき、「あぁー、大塚愛だ!」って。緊張してCDを渡したのを覚えているんですよ。

大塚:それはまったく覚えてない(笑)。

水野:今日は一応テーマがありまして。「ポップソングって、何?」という非常に抽象的な話なんですけど。


水野:大塚さんがデビューされたとき、「なんでこんな巧みな曲を同じ年のひとが書けるんだろう。しかもパフォーマンスも完成されている。これぐらいできないと音楽で食っていけないんだ」って、僕は二十歳なりに思ったんですよ。なので、大塚さんがポップソングをどう捉えていらっしゃるのかなという堅い話を…。

大塚:最近なんとなく思うのは、やっぱりこう…「すごいね」ってずっと言われている、いろんな方の素晴らしい曲たちは、つい歌っちゃう。好き嫌い関係なく、ポロッと歌っちゃうっていうのは、ポップソングとして素晴らしいというか。いちばんそれがポップってことなんじゃないのかなって。

水野:大塚さん、めちゃくちゃ体現してきたじゃないですか。

大塚:いやー。結構もう、「生活を頑張ろう」みたいな感じでずっとやっていたので、あんまり音楽がどーたらこーたらとか考えてなくて。

水野:デビュー当時と今と、感覚はどう変わっていきましたか?

大塚:ジャッジはなにも変わってないですね。もうパッと来て、いいか悪いかで判断しているところもあって。途中で悩んじゃったり、「もうちょっとこういうアレンジのほうがいいかな」ってあざとくやったりすると、失敗する。だから結果、パッと聴いての判断のほうがいいのかなぁ。

水野:初期の頃って、ご自身を俯瞰で見えたりしました? 僕は、「めっちゃ自己プロデュースしているひとだ」って、勝手に思っちゃっていたんですけど。


大塚
:もともとデビュー前から、自分の歌声が全然よくないと思っていたところが問題だったんですよ。仕事をする上で、いちばん大事にしなきゃいけないところがどうも劣っているなって思ってた。じゃあどこで勝負していけるのか。そう考えたとき、「もう作家でしかない」と思って。

水野:うんうん。

大塚いろんなひとに提供することを頭に入れた上で、作曲をしていて。本当は、自分が思い描いたひとが歌ったほうが、絶対に曲は活きたはずなんです。でも、たまたまレコード会社の社長さんが、「いいじゃん、自分でいこうよ!」って。それでなんとかするしかなくなって。もう売れることだけを考えて(笑)。

水野:かっこいい!



ずーっと挫折。


大塚:最初はすごく怯えていたんですよ。勝手なイメージで、「1曲売れなかったら、契約を切られる」って思っていたから。その怯えのもと、なんとかして、まず1曲売れないと!みたいな。

水野:もう完全に”できるひと”の考え方ですね。できるひとは多分、自己評価が厳しいんですよ。冷淡に自分を見ていて、そのなかでやれることをやってらっしゃったんでしょうね。

大塚:いやぁ…。最初のほうは足を踏み入れただけなのでわからなかったんですけど、実際にテレビとかで他のアーティストさんと一緒になったときに、自分の持っているいろんなものとはレベルが違いすぎるって思って。最初の数年間はずーっと怯えていました。

水野:その大塚さんの不安とか怯えとか、コンプレックスみたいなものとか、外側には見えてなかったと思います。ということは、それだけ完璧にやり通せていたというか。どうやって乗り越えていったんですか? まだ乗り越えてないですか?

大塚:ずーっと挫折。ボキボキに折れています(笑)。

水野:はは。

大塚:最近はテレビに出ても、「あー、よくなかったなぁ」ってずっと落ち込んじゃうんですよ。でも娘がそれを聞いていて、「まあよかったよ」って。それに対して私が、「でも可愛かったとか、そういうことじゃないんだよね」って言ったら、「違うじゃんママ。あの曲はどんだけ可愛く歌えるかじゃん」って。

水野:うんうんうん。

大塚:そっか、あの曲のいいところは、「歌をうまく歌うこと」じゃなかったって。すぐ視野が狭くなっちゃうところを、娘の視点によって、「あぁそうだった」って気づかされるみたいな。

水野:難しいですよね。大塚さんがやられてきたこととかポップスって、音楽だけで見られているわけじゃないところもあるから。華やかさだったり、ルックスだったり、パフォーマンスの身振り手振りだったり。違う視野のエンタメが混ざり込んで届いていくから、どこにポイントを合わせるかによって、全然見え方が違うというか。

大塚:うん

水野:どこを覚悟してやっていくかみたいなことになってくるんでしょうね。


大塚愛というひとは修羅の道を行っている。


大塚多分、作るほうが主で、パフォーマンスはそんなに得意じゃないんですよ。だけど楽曲のことを考えたら、「この楽曲はこういうビジュアルのほうが似合うし、じゃないと説得力がない」とか、いろいろ考えてやる。ただ、それがうまくいくと、逆にそのイメージに引っ張られちゃって、「(大塚愛に)そうであってほしい」みたいな。

水野:うんうんうん。

大塚:みなさんの夢というか。「そういう存在でいてほしい」みたいなものに引っ張られることもありました。「それはその楽曲のイメージで、別の曲はまた違うんですよね」っていうのがなかなか伝わらない。私の場合、楽曲の方向性があんまり一定ではないから、そこがちょっとやりにくかったり。


水野
:外側にはわかりづらいと思うんですけど、大塚愛というひとは修羅の道を行っていますよ。

大塚:(笑)。

水野ソングライターとしての自分と、パフォーマーとしての自分を、どっちも俯瞰で見ていて。本音を言えば、作り手としての自分のほうが強いし、その視線でパフォーマーを見るとすごく厳しい視線になる。でも自分でやらなきゃいけない。そんな矛盾がずーっと続いているなか、それを高いレベルで実現させてきた。……急にファンの熱い語りみたいになっちゃった(笑)

大塚:ヒット作=いい曲、ではないと思っているんですけど、でも水野さんのヒット曲は、すごくいい曲だなって。そういうものをどんどん作っていくときに、聴き手からの「こうあってほしい」みたいなものを取り入れるのか、無視するのか、どうですか?

水野:多分、そういう意味では、いきものがかりは背負いましたよ。ある時期から。

大塚:うん、うん。

水野:「ありがとう」って曲がいちばん僕ら売れたんですけど、そのあたりから、“「ありがとう」さん”を背負うようになりました。

大塚:あー(笑)。

水野優等生っぽいというか。ぼんやりとした健全、良識みたいなものをグループで背負っちゃったところがあって。それは歌う吉岡もそうだし、僕も言葉がどんどん大きくなるっていうか。説教臭いとも違うけど、標語みたいな感じに近づいちゃった。でもやっぱり内面は違うじゃないですか。そのバランスはすごく難しかったです。

大塚:うん。

水野:ただ僕の場合、パフォーマーではないから。よくも悪くも、そのバランスをコントロールできないところに諦めもあったし、逆に言うと、葛藤しなくていい利点もあった。でも大塚さんは、ご自身でやられているから。

大塚:そうですね。提供曲のほうが気が楽なんですよ。

水野:提供曲のときはやっぱり純粋に作品に向かう感じになるんですか?

大塚:たとえば、「こういう感じでください」って言われたものに対して、「私のカラーじゃないな」とか「思ってないな」ってことでも多分、書けるんですよ。究極を言えば。

水野:はい、はい。

大塚:だけど自分で歌うってなったら、思ってもないことは歌えない。嘘が好きじゃないので。胡散臭い綺麗な言葉だけ並べるとかが、あんまり好きじゃないですね。

水野:正直すぎる(笑)。偏見もあるかもしれないし、いいか悪いかは一旦置いておくんですけど。めちゃくちゃプロフェッショナルなひとって、自分の感情が間に合わなくても、技術として書いて、技術としてパフォーマンスしていくということも、ひとつのスタイルとしてあるじゃないですか。

大塚:うんうん。

水野:でも、大塚さんは多分、そこに逃げてない。感情を切り捨てちゃわないというか。自分の口で、自分の体で表現するんだったら、嘘があってはいけないって誠実に向き合って。でもプロとしても、「ここ足りない」って冷静に判断して。……すごい大変な道を歩んでいると思います。

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