読む『対談Q』 水野良樹×上田慎一郎 第4回:間で出会うために。
本当の混乱を作ってくれ。
上田:『ポプラン』の音楽は、幼稚園からの幼なじみが作っているんですよ。カメ止めのメインテーマとか主題歌を作っているやつで、今一緒に会社やっていて、社長でもあるんですけど。で、『ポプラン』のなかで不協和音がほしくて。「あんまり整ってない、混乱しているような音楽を作ってくれ」と言ったら、最初に作ってきたものが“作為ある混乱”だったんですね。
水野:わかります。混乱させてやろうっていう。
上田:そう、ひとの手が作った混乱。それで、「いや、これは混乱ではない。本当の混乱を作ってくれ」と言ったら、鍵盤に頭をランダムに打ちつけて作った音楽を上げてきたんですよ。そうしたらそれがすごくよくて。
水野:えー!おもしろい。
上田:コントロールしきれてない、破壊が入っている。これが本当の混乱だと。そういうことを試しているときがいちばん楽しいですね。『ポプラン』の前に『ユメミの半生』っていう短編映画を作ったんですよ。それに白黒のサイレント映画を再現するみたいなシーンがあるんですね。で、「当時の音楽の感じも再現してくれ」って言ったんですよ。でもエフェクトでやると、なんかたどり着かない。
水野:はいはい、わかります。
上田:現代のエフェクトでノイズを入れている感じで。何回も試行錯誤して。結局、昔って弾いているものを収録しているじゃないですか。
水野:音を単独でライン取っているわけじゃないですもんね。
上田:そうそう。パソコンだけで仕上げているわけじゃないし、その間に空気がある。収録しているほうの機械も古いし。だから最終的には、作った曲をマイクで収録し直すっていうのを何回か重ねたんです。
水野:そしたらイメージに近づいていくんですか?
上田:そう。昔のひとがやっていたのはこれなんだ!って感じ。
水野:作為を入れるけど、作為そのまんまじゃダメだってことなんですかね。作為が見えすぎるというか。
上田:答え、とも言えるんですよね。こっちが持っている答えを、さっき言ったようにぼかすというか。デザインで縁をぼかすことってあるじゃないですか。50%ぼかすみたいな。そういう感覚もちょっとありますね。伏線とかもそうかもしれない。
水野:それも構造の話ですもんね。伏線があって、こっちに行くってもう見えているというか。
上田:そうですね。伏線を張って、はっきり覚えてもらって、あとから回収されたときに、「あ!」って驚いてほしい。だけど、張ったときにはあんまり出しすぎるとバレるじゃないですか。
水野:フラグになっちゃダメなんですもんね。いちばんいい伏線は、「あれが伏線だったんだ」って。
上田:そうそうそう。最初は伏線じゃなくて、そのときのおもしろとして成立しているんだけど、「あのおもしろ、こっちの伏線やったんや」みたいなのがいちばん美しいというか。だから職業病ですけど、テレビドラマとか観ていると、「あぁ伏線張ったな」って発見しちゃう癖がありますね。「すごいインサート寄ったな」とか。
悲しさを出すな、出るんだ。
水野:ジャズに近いですよね。
上田:あー。
水野:『ルパン三世のテーマ』を作られている大野雄二先生にお話を聞いたときがあって。ちゃんと書いているんだけど、書いているように弾いちゃダメなんだと。あたかも今生まれたんだっていうのがいちばんいい演奏だと。で、いい演奏家が集まると、合わせたんじゃなくて合っちゃうんだと。
上田:めっちゃわかる!
水野:でもそうなるためには練習量がなきゃいけないし、相手の演奏に対応できなきゃいけない。4番バッターだけじゃなく、繋ぐのがうまいひともいないとダメだと。そういうひとたちが集まってないとできないって熱弁されて。全部ひっくるめると映画の撮影と同じだなって。脚本があって、流れがあって、監督の意図があって。俳優のみなさんはそれを踏まえながらやっているんだけど、本番でバン!ってこう…。
上田:『カメラを止めるな!』のワンカットの最初のほうに、イカれた監督が「お前は恐怖を出そうとしている。出すんじゃない、出るんだ」と言うシーンがあって。僕、あれ結構思っていることなんですよ。
水野:なるほど。
上田:悲しさを出すな、出るんだと。だから演技でも同じですね。やっぱり出していると嘘くさいし、素晴らしい役者さん同士が演じていると、本当の悲しさ、本当の喜びが出てくる。テーマとかも一緒です。テーマを出すんじゃなくて、書いているうちに出る。
水野:これ最後にこじつけるわけじゃないけど、Qの「観客のなかに答えがある?」っていうのは、最終的に答えを出すとしたら、僕ら作る側にもないし、観客側にもなくて、ふたつが出会ったときの間に何か生まれる。
上田:いやもう、それが大正解ですね。「映画はお客さんに観てもらって、語られて初めて映画になるんだ」ともよく言われるんですね。お客さんが「こう思った」っていうのがあって、初めて映画が生まれるというか。答えが生まれるってことだと思います。だから、こっちが出しすぎても…、うーん。
水野:出そうとはしているんですよね。出そうとしないと嘘になるから。頑張って答えに近づこうとはしている。ただ、矛盾しているけど、出してない(笑)。
上田:出ちゃったもの。映画を撮るときも、いいセッションになればいいなと思いながら撮っているときあります。書いているときも、いいセッション、いいグルーヴが生まれてきたなって。これ言うと嘘くさくなっちゃうんですけど、乗ってくると登場人物が勝手に喋り出す…。
水野:出た!でもそうなんでしょうね。
上田:本当に。血が通ってくると、彼らが勝手に動き始めて、「あー、そっちにいっちゃうと、このあと予定していたこっちにどう戻ればいいんやろ」とか。「もう勝手なことせんといてー、やんちゃな子やなー」みたいな。そういうときがいちばん楽しい。
水野:おもしろい。
上田:それこそカメ止めとかは、セッションする映画でもあると思って撮っていました。これ多分ミュージシャンの方の言葉だと思うんですけど、「ライブの演奏中に弦が1本切れたら、残りの5本で続けるんだよ」って。まさにそういう映画でもある。
水野:いいなぁ。すぐ「替えて」って言っちゃう(笑)でもそういうことですよね。コケようが、何しようが。
上田:トラブルが起ころうが、残りの5本で最後まで弾き続けるみたいな映画ではあるんですね。5本になったからこそ、みんな影響し合うじゃないですか。ドラムもボーカルも。で、もしかしたら二度と作れない曲が生まれちゃうのかもしれないし。こういう話めっちゃ好きです。
いつか音楽にまつわる映画も作りたい。
水野:まさに答えがない。この会話のようなことが、多分ものづくりだと思うんですよね。自分ひとりのなかで曲を作るときも、映画を作られるときも、答えのない逡巡を繰り返しながらやっているんだろうなって。
上田:いつか音楽にまつわる映画も作りたいんですよ。
水野:いいじゃないですか!
上田:ものづくりをするひとたちがすごく好きなので、今までお笑い芸人とか小説を書くひとの作品も作っていて。やっぱり音楽を作るひとの映画も作りたい。音楽が生まれる瞬間を撮っている映画が好きなんですよね。
水野:曲が生まれる瞬間ですか。
上田:だべりながら適当に弾いているのに、誰かが適当に合わせ始めて、誰かが適当に歌い始めて、音楽が生まれていく瞬間。それを撮りたいなと思って。テーマとかメッセージはないんですよ。まず撮りたいものがある。
水野:その起きている状況を。
上田:音楽が素晴らしいとか言いたいわけでもないし、「音楽が生まれていくこの感覚、最高だろ!」って俺が思っているから撮っているだけっていうか。それがどう受け止められるか。
水野:Qの答えはまだ見つかりません。なんとなく近づいた気はしますけど。
上田:まぁでも水野さんがおっしゃっていたことが、僕は現状いちばん腑には落ちましたけどね。
水野:間で出会うために、ずっと曲を。
上田:めっちゃいい言葉じゃん。間で出会うために。間で出会うためにさじ加減を、塩梅を考える。そして、出会えたねっていうことなのかな。
水野:意外と何かに触れたかもしれない。さぁそんなわけで。脱線しながらも戻ったり、破壊と再生を繰り返してのトークでございました(笑)。本日の対談Qのゲストは上田慎一郎監督でした。ありがとうございました!
上田:ありがとうございました!
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