読む『対談Q』 水野良樹×大塚愛 第3回:この年齢でどうやってヒットさせていくのか。
オルゴールになるタイプの曲。
大塚:音楽業界はサブスクが入ってきたことで、いろんなものが大きく変化したじゃないですか。今は私、TD(トラックダウン)のチェックとかも全部スマホで。
水野:そうなんだ。
大塚:スマホでやってOKだったら、普通のスピーカーで聴いたとき、めちゃくちゃいいはずみたいな。
水野:そもそもコンポで音楽を聴くことも少なくなっているから。たしかにユーザーベースのチェックをするって、理にかなっていますね。
大塚:スマホと車ですね。車でしか普段、音楽を聴かないんです。自分が普段聴く環境で判断したいというか。いちばん最悪な質なもので聴かないと、判断できませんって。
水野:完全にポップス職人の病気ですよ(笑)。
大塚:歌の大きさをどれくらいにするかも考えません?
水野:絶対そうですよね。
大塚:音楽的には、もうちょっとドラムとベースいきたいんだけど、でもやっぱり歌で持っていかなきゃいけないしな、とか。あとオルゴール化、よくしているじゃないですか。マッサージ屋さんとか、お風呂屋さんとか、スーパーとかで流れているやつ。
水野:琴バージョンとかのやつですね。
大塚:そうそう。そこでも、「あ、やっぱりメロディー入ってくる」ってものが、ポップソングの大事なところなんじゃないかなって。
水野:僕はもう心のなかで、「いいね!」ボタンを何度も押していますよ。まったく同じことを考えています。やっぱりメロディーが強いんですよね。普通にお惣菜とか買っていて、音楽のこと考えてないのに、ぐっと入ってくる。ポップスにはこの強さが必要だよなって、いつも思っているんです。
大塚:すごく思う。あと、昔の歌謡曲の素晴らしい曲たちは、イントロとかリフが強い。
水野:それ込みで覚えていますもんね。
大塚:そこも歌っちゃいたいみたいな。と思うと、アレンジが終わらないんですよね。
水野:なるほどね。そこも曲作りですからね、完全に。
大塚:オルゴール屋さんに行くと、必ずいきものがかりの曲ありますよね。やっぱり「ありがとう」強ぇ~って。
水野:オルゴールになるタイプの曲と、ならないタイプの曲がありますよね。実はデビュー曲の「SAKURA」とか、あんまり売れてないんですよ。
大塚:えぇ?
水野:オリコンも最高17位とか。だけどオルゴールになるんですよね。そういうタイプの曲があるのかなぁと思います。あとさっきのイントロの話というか、メロディーだけじゃなくていろんなところにフックが混ぜられているよねってところでいうと、「さくらんぼ」の<もう1回>の衝撃はやっぱり(笑)。
大塚:(笑)。
「絶対に売れるんで、このタイアップ取ってください」
水野:作ったときはそんなに考えてなかった?
大塚:「そこじゃない」って思っていた。というか、計算外のところに引っ掛かっていたので、「なんでだろう」って。私的には「さくらんぼ」は、リフが素晴らしいんだと思っていて。アレンジ上がってきたときに、「行った!売れた!」って完全に思っちゃったんです。だから、「そっち!?」みたいな。
水野:そうですよね。本人が、「ここ」って思っても、そこにピンポイントがいかないときもあるから。
大塚:大体、自分が狙ったところって当たらないんですけど、「さくらんぼ」だけはもう、「当てなきゃ」っていうのがありました。あの曲、最初は売れなかったんですけど、毎日会社の社員のひとに、「絶対に売れるんで、このタイアップ取ってください」って必死に言って、近距離で追い詰めていたんですよ。
水野:めっちゃ共感する。
大塚:本当にこれ売れなかったら終わるかもしれないって。
水野:結構、そういう熱量でチームを動かさなきゃいけない瞬間ってあるんですよね。僕、2、3枚目のアルバムのとき、必ずソニーの営業会議に出て、営業のひとたちの前で、「すみません、アルバム100万枚売りたいんで、どうかよろしくお願いします」って、毎回挨拶をしていた時期があって。
大塚:うんうん。
水野:別にそれを世間に見せる必要はないんですけど、アーティストがそういうことをやると、なんか違うって思われる方多いと思うんです。でも実はそういうパワーがないと。やっぱり現場で売るのは営業のひとたちだし、そのひとたちがこの曲の魅力をわかってくれないと次にいかない。だから、カッコ悪いって言われても、アーティスト本人がアピールする強さがあるかないかで全然違うというか。
大塚:それは今も変わらずやっていますね。誰かいたら、すごい近距離で、「あの、もう私、崖に片足で立っているから、お願い」って。
水野:すごいわぁ。これはアーティストあるあるなんだけど、なかなか世間にわかりづらいだろうなぁ。
大塚:そういうところもやっていますよね。
水野:ひとりの力だけ、グループの力だけでは、絶対にヒットって作れないから。
大塚:素晴らしいスタッフに恵まれるかっていうのも、大きく左右するなってすごく思う。そうやって、「本当にこの曲を売りたいんだ」って思ってくれるスタッフのひとに出会えたとき、もうそこで、「勝ちだ」って思えるぐらい。いろんなものの出会い、大事ですね。
幸せだからいいってもんじゃない。
水野:ここから何を書くんですか?
大塚:えー、どう思います? だって私たち、今年40歳。
水野:そう、同じ年なので、今年40歳。いやー、難しいです。でも僕は、ファンとしての願いも込めて、やっぱり俯瞰になりすぎてほしくないですね。俯瞰で見る強さも持ちながら、もう一度、戦ってみたい。自分はそう思っているから。大塚さんもご自身のピュアな部分に向かう、刀の入れ様を緩めないほうがいいんだろうなって。
大塚:うん。
水野:かといって、20代の頃のがむしゃら感とは違う気もするし。もうちょっとね、戦いたいですよね。
大塚:曲とのいい出会いは、常に求めてはいますね。ただ、やっぱり若いひとが熱を持っているから。若いひとたちに受けたとき、一気に激しく燃えるじゃないですか。そこから横に広がっていって、いろんな年代のひとが知るのがヒットの流れかなと思うんですけど。その若い炎を燃やすひとたちと年齢はどんどん開いていく。
水野:はい。
大塚:そこを狙って、変に若いふりして書くのも違うし。この年齢でどうやってヒットさせていくのか。それは私の次の課題なんだろなと思っています。
水野:僕も同じようなことを考えているっていうのが正直なところですね。でも、僕は昔より自分に正直になっている気はしているんですけど、どうですか?
大塚:私は最初から正直すぎるかもしれない(笑)。
水野:そっか(笑)。
大塚:ずーっとあんまり嘘をつかないですね。ただ、人間的に“ちゃんとしたひと”になっていっているので、それがいいのか悪いのか。
水野:それが作り手としていいのか悪いのかってことですよね。
大塚:そうですね。あと、作り手の残念なところでいうと、幸せだからいいってもんじゃないっていう。
水野:わかります。
大塚:プライベートの生活が幸せすぎて、何にも感じないんだよねってなると、書くこともないし。そうなると、勝手に事件に巻き込まれていっちゃったり、不幸なほうにふわーって行ってみたり。でもそれでいい曲が書けるんだったら、いいよねと思いますけど。
水野:どこか狂気ですよね(笑)。破綻を求める瞬間があるじゃないですか。揺れというか。
大塚:安定して何もないよりかは、何かあっていい曲が書けるんだったらいいな、みたいな。危ないですよね。
水野:でもすごくよくわかります。だからとことん作り手なんですね、やっぱり。
大塚:だから一生懸命、生きたいなとは思うんですよね、何事にも。そうやってまた、「この曲と出会った。自分が生きてきたいろんなものを乗せてみた」っていうシンプルな作り方でいくのか。もしくはクリエイターやめて、普通に安定した人生いくのか。私、岐路に来ているなと思っています。
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