読む『対談Q』 水野良樹×半﨑美子 第1回:音楽に触れてこなかった方に出会える稀有な場所。
玉置さんの歌声の波動。
水野:対談Qです。今日のゲストはシンガーソングライター・半﨑美子さんです。よろしくお願いします。
半﨑:よろしくお願いします。
水野:実は、Twitter友だちと言いましょうか。
半﨑:はい(笑)
水野:いきものがかりは路上ライブ出身。半﨑さんはショッピングモールでのライブが注目を集めました。同じようにストリート的なところからキャリアをスタートして。あと、ふたりとも玉置浩二さんのファンで…そんなところからTwitter友だち的にお話させていただき、今回来ていただきまして。
半﨑:よろしくお願いします。光栄です。
水野:今日は一応テーマがありまして。「目の前で歌うことの力」。コロナ禍、路上ライブはもちろんのこと、ライブ会場で直接、歌や音楽を届けることが難しい時代になってしまって。直接届けることに重きをなしていた、あえて言っちゃいますけど“僕たち”。僕たちは、どう考えるのか、みたいなことをお話できたらと思っています。
半﨑:はい。
水野:話の取っ掛かりとして、先日、玉置浩二ショーに半﨑さんが出られて。出演される前に、玉置浩二ショーに出たことがある人間として、僕のことを思い出してくださったみたいで(笑)。
水野:出るときの心構えみたいなものを、Twitterで訊いてくださって。僕なりに「こんなふうな現場でした」みたいなことをお伝えしたんですよね。で、実際に本番を観たら、本当に玉置さんの目の前で歌っていらして。緊張されたんじゃないですか?
半﨑:いやーもう、本当に。ただ、あのときはトークの流れのまま歌うということで、オンエアはされていないんですけど故郷について話していて。私も北海道、玉置さんももちろん北海道。その話をされているとき、もう私はすでに涙が止まらなくなってしまって。その状態から「母へ」に行ったので、感情が高ぶっていて、緊張をとうに通り越していた状態でした。
水野:なるほど。
半﨑:でも、玉置さんの楽曲を歌わせていただくことはあっても、自分の歌を歌っていただけるというのは、考えられないことだったので。玉置さんが歌ってくださったとき、自分の歌に包まれているような、抱きしめられているような感覚で。本当にすごいですよね、あの玉置さんの歌声の波動と言いますか。
水野:溢れ出るパワーだったり。でもパワーだけじゃないんですよね。優しさみたいな、何とも言えないものが。僕も中学校の頃から大好きで。
半﨑:そうですよねぇ。
水野:玉置浩二ショーに出させていただいたとき、目の前で、中学校のときに聴いていたような曲のフレーズを歌ってくださったり。言葉にできないものがあって。
半﨑:生命力もそうですし。歌っていただいているんですけど、自分の気持ちを聞いてもらっているような不思議な感覚がありましたね。
「80年生きていて、初めてCDを買いました」
水野:最初の段取りを言うと、半﨑さんの「母へ」という楽曲を玉置さんがすごく気に入られて。ご自身のお母さまのこともあって。そこに対する思い入れで、半﨑さんを呼ばれたみたいで。僕思ったんですけど、ショッピングモールのライブでもそうですけど、半﨑さんって様々なリスナーのみなさん、ファンのみなさんの直の物語を聞いていらっしゃるじゃないですか。
半﨑:はい、サイン会で。
水野:ファンのみなさんの話される物語に、感動してその場で泣かれたり。まさに直に触れることをずっとやられていて。そういう意味ではこの2、3年って、結構厳しい時間だったと思うんですけど。
半﨑:そうですね。リアルな場を共有することを大事にしてきたので、歯がゆさがありました。私すごく水野さんに、シンパシーを勝手に感じさせていただいていて。どんなにメジャーで第一線で活躍されても、路上の経験がずっと原点として息づいていらっしゃるじゃないですか。
水野:はい。
半﨑:それは、曲作りもそうですし、ステージングもそうだと思うんですけど。あの場所って、音楽的な要素はほぼないと言いますか(笑)
水野:わかります、わかります。音楽の場というより、生活の場という感じですよね。
半﨑:私も実際にCDを買ってくださる方で、「80年生きていて、初めてCDを買いました」とか。まったく音楽を聴いてこなかった方とか、音楽に触れてこなかった方に出会える稀有な場所じゃないですか。路上もそうですよね。ましてやとても反応は正直ですし。そんななかで私、水野さんの何かの著書で読んだんですけど、「空気を読む」みたいなことを。
水野:はい! 今日その話をしようと思っていました、まさに! ありますよね。
半﨑:それをずっと自分のなかでやっていくと、その後のステージも変わっていくと思うんですけど。きっと「空気を読む」って打算的なことじゃなくて。気持ちを汲み取るってことですよね。
水野:はい、はい。
半﨑:お客さまがどう感じているのかとか。どうしたらもっと聴きやすくなるかとか。客観性に基づいて、ライブの選曲だったり、MCだったり、いろんなことを構築していくわけじゃないですか。そこにシンパシーを勝手に感じさせてもらっていて。ちょっとコロナ禍の話とズレるんですけど、私はどちらかというとそのお話をお聞きしたく。
エスカレーターってめちゃくちゃ重要。
水野:その空気のことをピックアップしていただけたの、すごく嬉しくて。まさにそこだなって。
半﨑:そうですよね。
水野:路上ライブだったり、ショッピングモールだったり、生活の場というか。
半﨑:まさに。
水野:優しい場所でもあるけど、シビア。今、80歳の方が初めてCDを買ったというエピソードをおっしゃっていましたけど、音楽にほぼ興味のないひとのほうが実は多かったりして。そのひとたちにどう聴いてもらうのかってところからスタートすると、やっぱり「空気を読む」ことがすごく大事で。路上ライブでは、女子高生のみなさんが3人止まっているときと、男性のサラリーマンの方が3人止まっているとき、まったく空気が違う。
半﨑:そうですよねぇ。
水野:右側にいるか、左側にいるかでも結構違う。
半﨑:体感として、だんだん鼻が利くようになっていきますよね。それがもう染みついていらっしゃる。
水野:ありません?
半﨑:ものすごくあります。
水野:同じような会場設定でも、全然違うんじゃないですか? そのときの街の雰囲気とか。
半﨑:違いますね。ショッピングモールは一応ステージがありますよね。ただ、そのステージの場所が、モールの端にあるのか、真ん中にあるのか、エレベーターの真下にあるのか。立ち止まれない場所にあるのか。椅子の並べ方ひとつ取っても、たとえば初めての方とか、通りがかりの方って、いちばん前に座りにくいですよね。
水野:はい、はい。
半﨑:いつでも立ち去れるように、後ろのほうで様子を見るじゃないですか。そういうとき、どうやったらいちばん前に座ってもらえるんだろうとか。通路がないと前に座りにくいから、通路を入れてとか。ポスターの貼る位置とか。一個一個考えていくことって、多分、路上ライブと一緒のことなんだろうなって。
水野:まったく同じですね。「いいね!」ボタンがあったら、もうバンバン押しますよ。路上ライブも、エスカレーターってめちゃくちゃ重要なんですよ。
半﨑:そうそう。
水野:エスカレーターで降りてくる方々は、エスカレーターに乗っている時間は、イヤでも聴かなきゃいけないから。
半﨑:そうそうそう!
水野:彼らは降りてくる場合、僕らに近づいてくるんですよね。その間10秒ぐらい。そこが、「立ち止まろうかな」「何やってんのかな」って興味を持ってもらえるかの試練。駅によっては、下からのぼってくるエスカレーターがあったり。音だけ聴こえて、上がってきた瞬間に僕らの顔を見る。それだけでも違うんですよね。
半﨑:わかります。
水野:じゃあ具体的にどう方法を変えるのか、説明しづらいんですけど…。やっぱり選曲とか。あと、MCの声の張り方でしょうかね。なんか違いません?
半﨑:違いますね。お客さんの持っている時間も、まさに場所によって違うと思いますし。郊外のモールだとそこに一日中お客さまがいらっしゃる。けれど、都会のモールだと1~2時間の滞在時間だったりする。すると、その間に目に触れるかってことも大事だと思いますし。選曲もその都度その都度、変えられていたと思うんですけれども。やっぱり喋っているときよりも、歌っているときがいちばんお客さん止まりますよね。
水野:ああー、はいはい。
半﨑:喋りに関して言うと、影アナウンスをいつもしていたんですけど。ついたてのなかで。
水野:ご自身でやられていたんですか?
半﨑:はい。「まもなく半﨑美子さんのステージ。13時からミニサイン会を開催いたします」みたいなことを連呼するんです。これからイベントが始まるザワザワ感を、みなさんにお届けするというか。サラッと出ていくより、紹介があって、拍手があって出ていくほうが、2階3階から注目してくださるので。「半﨑美子さんのご登場です。拍手でお迎えください!」って自分で自分を紹介して、パって出ていくみたいな。
水野:素晴らしいですね!
半﨑:本当にそういうちょっとしたことが、すごく大事になってくるんですよね。
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