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読む『対談Q』 水野良樹×橋口洋平(wacci) 第3回:阿久さんが世界を変えたような力が「カッコいい男」にあるかもしれない。
HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。
今回のゲストはwacciの橋口洋平さんです。
自分は動じないってカッコよさ。
水野:「カッコいい女性」は書けるのもまた不思議で。
橋口:たしかに。
水野:女性はね、強いのよ。失恋の歌もそうだし。恋にはしゃいでいるときもなんかカッコ悪くない。すごく素敵に見える。言葉がキラキラして見えてくる。それもまたおもしろいと思う。ちょっとジェンダーに関わるかもしれないけど、やっぱり男性と女性が紐づかれてしまっているイメージが歌詞の作り方にも影響してくる。
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橋口:そうかもしれないですね。
水野:だから「カッコいい男」の歌に踏み切ることで、意外とひらける世界はあると思うんだよね。難しいけど。
橋口:そうかもしれない。最初の段階で「情けない男」を迷わず選んでいるから、そこで、「カッコいい男を書こう」と思って、書いてみたらどうなるんだろうな。
水野:それが難しいのよね。「勝手にしやがれ」って作詞が阿久悠先生で。で、すごいポイントが、阿久さんが出現するまでの恋愛の歌は、女性が待つほうで、男性が出ていくパターンが多かったのね。
橋口:はいはい。
水野:女性がずっと思いを持って、男性は行っちゃうみたいな。男性優位な感じの演歌の世界。昔の歌謡曲とかそういうのが多くて。
橋口:やたら旅に出ますよね。また行くの?って感じありますよね。
水野:駅って舞台があったら、必ず女性が駅のホームにいるの。電車に乗っているのは男性なの。それを覆しているのよ、阿久さんは。
橋口:へぇー!
水野:「また逢う日まで」とかも、<ふたりでドアをしめて ふたりで名前消して>対等で別れていくの。どっちが強いとかなくて。「勝手にしやがれ」もよくよく見たら、男性がフラれる歌なの。それまでの男性優位な感じが実は微妙に入れ替わっていたりして。
橋口:おもしろい。
水野:そういうのをもうひとつやると、もしかしたらちょっとひらけるんじゃないかなって。俺らはもうそのあとの世代だから。「等身大」ってすごく叫ばれた時期もあったじゃない。あと「情けない自分」とか「自分らしくいよう」とか、歌詞にしやすいステレオタイプなドラマを背負いすぎちゃっているのかもなって、思うときがあるんですよ。
橋口:それはもう次の境地ですね。たしかにそうかも。今は本当に、「情けない男」ってところが主流になっている気がするから。阿久さんが世界を変えたような力が「カッコいい男」にあるかもしれないですね。これなら書けそう、っていうのありますか?
水野:ひとのキャラクターをスタートラインにしなければ。要は容姿とか、いわゆるイケメンとかをスタートラインにしなければ、宮沢賢治の「雨ニモマケズ風ニモマケズ…」の世界観はちょっと今にも通じるというか。
橋口:はいはいはい。
水野:これ語弊があるんだけど、今めっちゃみんな言葉を発するじゃん。何か世の中に出来事が起きたら、「これはおかしいんじゃない?」とか。
橋口:SNSとかで。
水野:そう、怒ったり。「こんなこと考えているやつはバカだ!」って言っちゃったり。結構、発することが簡単だし。黙っていることはよくないとは思うんだけど、軸をブラさないみたいなことは、もしかしたらカッコよさに繋がるのかも。でもそれはドラマにならない。
橋口:それは歌としてどうなるのか、すごく気になるな。
水野:作ってよ!
橋口:無理(笑)。
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水野:今の世の中、動じないって難しくない? 想像もできないようなすごい事件が起きすぎじゃない? 政治も社会もそうだけど。だから動じないとかビクビクしないって、すごく難しいと思うんですよね。
「すぐ既読して返すよ」
橋口:そうですね。いろんなことが世の中に起こっているけど、自分は動じないってカッコよさ、式は成り立ちますよね。恋愛だったらどうですか? ラブソングだったら。
水野:もうお手上げ。お手上げだよ。恋愛に求める潔癖さが強すぎない?
世の中、今。
橋口:あー、浮気とか不倫とか。
水野:そう、厳しいじゃん。あと、曖昧さを許さないところがある。不倫みたいなわかりやすいものじゃなくても、本当にちゃんとしてないとダメみたいな感じ。あと多様性に対しての理解がちゃんとできてないと、って圧も強い。そんな簡単に恋愛について語れませんみたいな空気が。
橋口:たしかに、たしかに。
水野:恋愛でカッコいい男を書くって難しいですよね。
橋口:難しいですね。なんかもうすべて逆張りするのもありですよね。「既読がつかないLINE」とかも、「すぐ既読して返すよ」みたいな。世の中のマイナスの部分を逆張りする。
水野:なんだろう、ちょっとコメディーだよね(笑)。でも「すぐ既読して返す」って言っている、楽しいね。
橋口:あと世の中の、「好きだ」って気持ちを伝える前にある前談の部分を全部、そのひとの理想の男に変えていってしまうとか。
水野:なるほどね。それはあるかも。お会いしたことないんですけど、フワちゃんっているじゃないですか。僕らの世代が10代の頃の篠原ともえさんみたいな。
橋口:同じ中学。
水野:えぇー!?
橋口:ギリギリ被ってないですけどね。
水野:あれぐらい超ポジティブに明るいって意外とないなと思って。だからこそ、フワちゃんみたいな方ってみんなから好かれるし。それを男性で書いたら意外といけるかも。さっきのLINEの話もそう。みんなからすると、「えー?」って行動をポジティブに前向きにやっちゃう。すぐ帰る。すぐ迎えに行く。
橋口:すぐ、「写真撮ろー!」とか(笑)。
水野:そうそう。ちょっと狂気を感じるくらい全部やったら「こいつすげー!」ってなるかも。イヤなこと言ってくる相手に対しても、すべて受け止めちゃう。笑いで返しちゃう。「俺のこと嫌いなの? 俺好きだよ!」みたいな。圧倒的な明るさで、誹謗中傷さえぶっ壊しちゃう。そういうスーパーヒーローはあるかもしれない。
橋口:なんかウルフルズとか、ぽいなぁと思うけど、でも「モテたい」とか「情けない」が前提での「ガッツだぜ!!」ですもんね。底抜けに全部明るいって…。
「モテる男で詞を書いてくれ」って言われたら。
水野:これはなかなか難問にたどり着いていますね。同じ質問なんだけどさ、「モテる男で詞を書いてくれ」って言われたらどうする? たとえば、ドラマ主題歌のお話いただきましたと。その主人公はすごくモテるひとです。プレイボーイみたいな。「このキャラクターをイメージして、橋口さん曲を書いてください」と。
橋口:そんな依頼、絶対ないですよね(笑)。でもやっぱりさっき言っていた、言われたい言葉だったり、そういうところに行きついちゃいそうです。今パッと考えると、「世の中の全員に好かれたって、君に好かれなきゃ意味がない」みたいなところに。
水野:やっぱりサービス精神の話になるよね。どれだけ相手が求めているものを提供できるか。
橋口:に、なっちゃいますね。サビでは「とっかえひっかえ」とか歌う感じもキャッチーそうでいいけど。
水野:なんか俺らが思春期を過ごした頃って、お金の成功とか、名声とかを自分から得ようとするひとってカッコ悪いって意識があったと思うの。がめついひとだって。でもそれが何周かまわって、ある時期から起業家のひととか出てきて、「ビッグマネーを稼ぐことはカッコいい」とか。
橋口:はい、はい。
水野:スポーツ選手とかでも、ビッグマウスと呼ばれるひとが出てきて、自分の成功を求める感じがカッコいいって時代があって、それに俺は馴染めなくて。あれって、自分の欲をどれだけストレートに言って、自分の欲をどれだけ成功させるかってことを、嘘つかず言うことのカッコよさだと思うんだけど。橋口くんの、「相手が言ってほしい言葉を」って、そことまたちょっと違うと思うのよ。
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橋口:たしかに違いますね。
水野:自分の欲じゃなくて、自分のした行動が相手で最大化されるのがいちばんいいから。そこがポイントな気はするんですよね。
橋口:すごい、そうですね。
水野:で、サビで「とっかえひっかえ」って話。「とっかえひっかえ」は、自分の欲よね。「この子もこの子も」みたいな。その「モテたい!」を全面に出す正直さのカッコよさもあると思う。でも、相手が求めている言葉を言われないでも返してあげるみたいな、そっちを攻めていったほうがなんか…。いけるのかなぁ。
橋口:え、どっち? 相手が求めている言葉を?
水野:そう、相手の。ちょっと微妙に「カッコいい」の定義にズレが生じてきていて。やっぱり自分の欲をガーッ!って言うひとは、個人的に好きじゃないんだろうね。
橋口:そう、そうですよね。
水野:どこかそれをカッコいいと思ってないんだよ。だから自分の欲があるにも関わらず、相手にすべて捧げられるって思うから。そっちだったら書けるかもなって。難しいね。
橋口:いわゆる二人称がメインの、対人のときのカッコよさっていうのは、やっぱりそういうのがいいなと。一人称だと、ファンモンじゃないですけど、自分を奮い立たせるみたいなところでカッコよさはきっと出せていくと思うので、そっちがいいのかなって気がしますね。
次回の更新は8月11日です。