読む『対談Q』 水野良樹×柴田聡子 第3回:今、思春期かもしれない。
「受け止めるよ」っていう手のデカさ。
柴田:人間を超えていくひとって、いっぱいいるじゃないですか。
水野:そうそうそう。スーパースターの方って超えていっちゃう。
柴田:あれはもう人間の何かを脱ぎ捨てないとできない。
水野:『クリスマスの約束』という小田和正さんの番組があってですね。
柴田:はいはいはい、知っています。
水野:2009年に、みんなでメドレーをやる企画があったんですよ。そのとき初めての試みで。それぞれ自分の代表曲をメドレーで歌い合って、全員でコーラスしてみたいな、壮大な企画だったんですけれど。そのメドレーのトップバッターを誰がやるか。これ結構、緊張感あるんですね。みんなをワーッと繋いでいくから。
柴田:本当ですねぇ。
水野:藤井フミヤさんが「TRUE LOVE」を歌われたんです。
柴田:名曲!大名曲!
水野:誰もが知っている。イントロが流れた瞬間に、「わぁ!」ってなるあの曲。そのとき幕張メッセかな。本番、5000人ぐらいの観客がいて。もうこれから、何が起こるか僕らもわからないわけですよ。初めてで。
柴田:はい、はい。
水野:で、1曲目、藤井フミヤさんがセンターマイクにパーって歩いて行って。あのイントロが流れたら、手を広げたんですよ。
柴田:はい…!広げちゃったかぁ!広げたんだぁ。
水野:で、歌い出したんですよ。すっげぇ光景を見たなと思って。ステージに上がったときの、「全部、俺受け止めるよ」「俺は今、みんなが大好きなあの曲を歌い出すよ」ってあの感じ。これがスターなんだって。何かを超えないと、ああならないっていうか。でも、そうじゃない僕たちの葛藤。急に僕たちって言っちゃうけど(笑)
柴田:いや、完全に私も…(笑)
水野:どっちも素晴らしさがある気がしていて。もちろんフミヤさんにその葛藤がないとは言わないし、いろんなものを乗り越えた上で、スターとしてステージに立つ人間の佇まいを獲得されたと思うんですけど。
柴田:本当ですね…。それは自分も常々考えます。まわりでスターになっていくひとたちを見ていると。さっきの「受け止めるよ」っていう手のデカさ。
水野:そう。
柴田:広さが5000人分なんだなって。私やっぱり4人ぐらいしか無理だなって。友だちは慰めてあげたりできるかもしれないけど、この場所に来たひとを本当に癒したり鼓舞したりって、考えたらできないこと。しかも、めちゃくちゃ滅私じゃないですか。
水野:本当にそう。虚構みたいな存在になるというか。自分を超えたものにどうなれるかっていうのが、エンタメって結構、表裏一体であって。スーパースターたちって、そこにご自身でなろうとしたのか、なってしまったのか、たどり着くひとがわずかにいて。
柴田:そうですね。本当に選ばれたって感じ。偶然そうなった感じにも近い。
水野:でも、うじうじしているんだよなぁ。どっちにも。
柴田:私もうじうじしているかも。
いつまでも裏方みたいな気持ちをどうしても捨てられない。
水野:でも、柴田さん、ガッってそっちに行く瞬間ありません? 急にカウンセリングみたいになっているけど。
柴田:いや、でもやっぱりライブのときとかは、もう割り切っていこうと最近すごく思い始めました。
水野:そこが今、一歩踏み出していますね。
柴田:本当ですか!?やばい。(手を広げる)
水野:いや、こうはならないと思うけど(笑)。
柴田:たとえば、拍子を取っているだけのポーズだけど、やっぱり気持ちにドライブがかかる。なんか羽みたいな感じではあるのかなって。最近ちょっと理解しました。でも私は、いつまでも裏方みたいな気持ちをどうしても捨てられないというか。
水野:ああー。
柴田:私はソングライターかなって、ずっと思っちゃうので。シンガーはすごすぎるなと思います。天性のシンガーというか。
水野:近い。このひと僕と近い(笑)
柴田:やった。近かった。よかった。
水野:でも歌っているもんなぁ。
柴田:でも、水野さんも歌っていますよね?
水野:そう。こないだ小説を書いて、自分で曲をつけて、自分で歌うっていうのをやったんですよ。
柴田:拝見しました。
水野:いきものがかりでMVもう何回も撮ってもらっていて。生意気なんですけど、MVの撮影現場は多少慣れているんですね。さすがに。
柴田:もちろんです、それは。
水野:慣れているはずなんです。だけど、自分だけにカメラが向けられるって初めてで。恥ずかしくて、恥ずかしくて。これを普通にやれるって、普通じゃないなみたいな。
柴田:そうですねぇ。
水野:一応、恰好つけるじゃないですか。恰好つけているつもりなんです。これを言うとすごくダサいけど。
柴田:わかります。めちゃくちゃわかります。
水野:曲調もあるし。
柴田:やらずにはおけないですもんね。
水野:それを恥ずかしがるのは、いちばんダメなやつだと思って、自分なりにやったんですけど。やっぱりここで道が分かれるなぁって。ただ、そこにはすごい沼があるんだなって、思いましたね。
柴田:そうですね。それはとてつもない深い沼だと。もう抜けられないぐらいなのかもしれないですけど。
「私はなんでもしてみよう!」
水野:そこはそこでおもしろいんだろうなって。でも、柴田さん行けますよね。
柴田:いやぁー、どうかなぁ。行ってみたいけどぉ…ぐらいの。まぁそこは私が決めることじゃないかな感がありますね。でも私はどちらかというと、「ライブの最中しかできないです」とか言っているので。そんな機会があったら、人生を棒に振ってまで行きたい感じはありますけどね。
水野:いやぁー…、行くな、これ。
柴田:そんなことはない(笑)。でも、単純に楽しいですよね。観ているほうも。「ちょっとあのひと、入っているぞ」みたいな。私はそういう自意識が今まで結構チラチラ、ライブ中もするタイプで。
水野:はい。
柴田:お客さんも多分ノリにくかったんですよね。ちょっと心配させるというか。「あ、今このひと、人間に戻っているな」みたいな。
水野:なるほど。
柴田:お客さんが完全に身を任せて、ノリノリで来てくれないのは、私に原因があるっていうのはすごく感じています。だからもう、お客さんに楽しんでもらいたい気持ちから行くと、「私はなんでもしてみよう!」っていう気持ちは今ありますね。スターになろうっていうより、どうやったら身を預けて楽しんでくれるかなって。
水野:あぁー。
柴田:自分もそれを経験したことありますよね。ライブを観に行って、頭が飛んでしまうくらい興奮したり、楽しんだり。やっぱりそれがライブだったなぁって。ちょっと楽しみ切りたい気持ちが強いですね、今。
水野:だから、あえて予言します。今、僕は柴田さんと近いところにいるんですけど、柴田さんはその入り口に立っていて。僕は背中を見ている感じですね。
柴田:いや、そんなことは全然ないです。私ホント、マジで。
水野:でもすごく素直だなぁと思いますね。「完全に私は裏方です」って拒絶しちゃってもいいと思うんですよ。でも柴田さんは、「でも、そっちにも楽しさがあるし、もしライブがお客さんたちにとって素晴らしいものになるんだったら、そこに身を投げちゃいますよ」みたいな気持ちでいるっていうのは、運命に対して素直というか。
柴田:たしかに。年を取って、なんでも楽しめるようになってきた感じがします。どうでもいいこだわりが結構消えてきていて。かつ、知っていれば知っているほど、経験していればしているほど、よいっていう考え方なので。そういうのも手伝って、最近はいろんなことを楽しもうというモードです。
水野:じゃあ、めっちゃ変化の狭間にいるっていう。
柴田:ちょうど30代の半ばってそういう感じありますよね。いろんな方の話とか聞いても思うし。まぁ私は小さくずっとやってきて、どかーんみたいな経験もないので。自分の力が及ばないところで、バーンって弾けるってことがないぶん、今、なんでもいいんじゃないかなぁって。
水野:そうなんですねぇ。
柴田:今、思春期かもしれないですね。反抗期。遅かったぁ。
水野:僕も30代前半ぐらい、「二度目の思春期です」とか言っていたんです(笑)。
柴田:ちょっと恥ずかしいですけど、まぁひとそれぞれ時間の流れが違うってことでいいかって。
水野:どうなっていくんだろう。すごく楽しみですね。
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