読む『対談Q』 水野良樹×Mr.シャチホコ&みはる 第2回:本人がやる1を10にするのが僕らの仕事。
口紅を忘れた日。
水野:モノマネってすごく繊細ですよね。
シャチホコ:ものすごい繊細です。メイクひとつでも、何か足りなくなると全然違くなっちゃう。この目の下の黒いアイラインとかも、ないだけでもうアッコさんの目力じゃなくなっちゃうんですよ。
水野:ああー。
シャチホコ:地方営業のときに1度、僕は口紅を忘れたんですよ。もう口紅なんか忘れたら最低なんですけど。
水野:この色じゃないとダメですもんね。
シャチホコ:そうなんですよ。
みはる:色も定番が決まってますからね。
シャチホコ:まだコロナ禍になる前、お祭りだったんですけど。もう口紅を忘れたことにパニックになって。
水野:はい。
シャチホコ:マネージャーさんに、「とりあえず口紅なしで出て繋いでるから、急いで買ってきてくれ」って頼んで。まつ毛なし口紅なしでステージに出て。前列にはめっちゃ子どもたちがいて、「アッコだー!」って。だけど、口紅なしでアッコさんやるわけにいかんなと思って。
水野:何やったんですか?
シャチホコ:1曲目「サマーヌード」で出たんですよ。真心ブラザーズの。
水野:子どもたち絶対わからないじゃないですか(笑)。
シャチホコ:「何か企んでる顔 最後の花火が消えた瞬間~♪」って出ていったんですけど、子どもたちはポカーン(笑)。でも横で焼きそば焼いているおじさんたちがめちゃくちゃ喜んでいました。ただ、本当に怖かったですね。
水野:見ているひとも、大ファンじゃないから細かいニュアンスははっきり見てないけれども、意外と漂っている雰囲気は知っているから。その匂いをわかるためにはやっぱり芸人さんたちの細かい塩梅が。
みはる:そうですね。散りばめてあげて。
水野:それが手の動きだったり、お化粧の具合だったり、すごく繊細なんですね。先ほど桜井さんのモノマネを、リアルを追求したノーマルバージョンと、ちょっと誇張したバージョンやってくださったじゃないですか。で、誇張したバージョンを聴いて、「ハンバーガーがそこにある」って思った。
シャチホコ:あー。
水野:頭でイメージしたハンバーガー。桜井さんがハンバーガーだとしたら、みんなが浮かぶ、「あぁアレだ」みたいな。だけど実際はマクドナルドがあったり、高級店があったり、リアルを追い求めるといろんなイメージがわかれるんだけど。
シャチホコ:それがいちばんモノマネ楽しめる状態なんですよね。
みはる:フラットでね。
「モノマネはマネじゃない」。
シャチホコ:見る側のひとが頭のなかで想像して、その想像のままで終わって欲しいんですよね。チェックしちゃうとおもしろくなくなっちゃう。「いや、本人そこまでやんねーよ」って言われることが勝ちなので。
水野:はいはいはい。
シャチホコ:本人がやる1を10にするのが僕らの仕事だと思っていて。これは歌ではないんですけど、ヒロミさんのモノマネするときに、「まぁそうだよなー、俺たちなんかさぁ、こうやっていろいろやってっけど」。
水野:ヒロミさん会ったことないのにわかる! 圧を感じるもん。
シャチホコ:腕時計をすごく触るんですよね。僕それをずっとこうやっているんですけど、本人はそこまでやらないんですよ。けど、やってそうとか、たしかにやるよねっていうのがあったときにはじめて笑えるというか。
水野:これは言い方が正しいか、失礼になっちゃうかわからないですけど、どこかモノマネじゃないですよね。オリジナルですよね。
シャチホコ:まさに。誇張でおなじみ、コロッケさん。僕がみはると出会ったのは、コロッケさんのショーレストランなんですけど。その楽屋の壁紙にコロッケさんの格言が貼ってあって。そこに、「モノマネはマネじゃない」って書いてあるんですよ。
みはる:うんうん。
シャチホコ:僕がモノマネをはじめたばかりの頃は、「どういうこと?」って思った。でも今はすごくわかるんです。結局、本人と同じにすることは、コピーであって。コロッケさんから見ると、「モノマネってそういうことじゃないよ」っていう意味だったんだろうなって。
水野:はいはい。
シャチホコ:不格好でもいいからイマジネーションで作り上げた形のほうが、価値がある。そういう点でいうと、モノマネのクオリティーは今の時代のほうが上がっているんですけど、何も情報がなかった時代にやっていた方たちの感覚には到底及ばないというか。すごいことをしていたんだなって思いますね。
ミラクルひかるというモンスター。
水野:プロの芸人さんのなかでも、「あのひとはすごい、レジェンドたちはそういう歴史を作ってきたんだ」みたいなものがあるんですね。
シャチホコ:やっぱりコロッケさん、神奈月さん、コージー冨田さん、原口あきまささん、ホリさん。もう全然次元が違いますね。別のレーンにミラクルひかるさんという、とんでもないひともいるんですけど。
みはる:違うレーンのトップを走っているね。
水野:ミラクルひかるさんはどういったところがすごいんですか?
シャチホコ:これは本当にミラクルさんだけなんですけど、知らないのにおもしろい。ズルいんですよ。僕らも羨ましくてしょうがないですもん。JKや子どもたちが、1950~60年の白黒のモノマネでゲラゲラ笑っているっていう。
みはる:それはもうミラクルひかるというモンスターのね。
シャチホコ:モンスターすぎますよ。
みはる:そのひとがキャラクターとなり、笑ってもらえる。これはたしかに女性のなかで、清水ミチコさんとミラクルひかるぐらいじゃないかなって思っていますね。
シャチホコ:うん、本人と同じであることが正解じゃないと体現してくれた方というか。多分、「ミラクルさんっておもしろいよね」って言っているひとたちって、別に本人と同じなものを見たいわけじゃなくて、ミラクルさんがやるから見たい。自分の頭のなかのイメージを預けてみたい気持ちにさせてくれる。
水野:マネている対象がきっかけでしかないというか。そこからスタートして、ストーリーをどれだけ膨らませられるかがみなさんの力量なんですね。
シャチホコ:「バズるためにこれやろう」っていうのも、生き残っていくためには必要な要素なんですよ。だけどミラクルさんは、「やりたいからやる」。それがちゃんと笑いになっているところがすごい。ミラクルさんの表面上の部分だけ抜き取ってマネしても、やりたいもんだけやればいいんだってやっても、また違くて。唯一無二のポジションですね。
みはる:羨ましいね。
シャチホコ:本当にすごい。僕も、「自分がやりたいからやるんだ」って懐かしのモノマネとかやる傾向にあるんですけど。それでもやっぱり、「流行りに乗っからないと」って気持ちもあります。たとえば動画でも、新しいものをやったときと明らかに古いものをやったときのリアクションってどうしても差が生まれてしまうので。
水野:あぁー。
シャチホコ:そこの差を埋めるのが、僕らのいちばんの目標というか。あくまで職人気質でいたいっていうのは夢ではあります。タレントなので本当は寄り添っていかないといけないんですけど。
水野:売れ線とどう向き合うか。ミュージシャンみたいな。
みはる:おこがましいけれど、ちょっと似ている部分があります。
シャチホコ:そのひとたちの苦悩と比べたら僕らなんか全然ちっぽけなんですけど、ものすごく共感できます。自分がやりたい音楽と。
みはる:その時代に合わせたものと。
水野:常に見られ方とか、求められ方とのせめぎ合いはあるにしても、あまり他の方がやられてなかったアッコさんをやり始めたり。それぞれフィールドを作っていくというか。プロの芸人さんたちは、自分がやりたい新しいことを作る瞬間があるんだなって。
シャチホコ:「本当はあれもできるんです」みたいな、持っているスキルってなかなか出せる場所がないじゃないですか。でも出したい。そのために知名度を上げる必要は絶対にあって。だから、矛盾しているんですけど、自分がやりたいものだけを提出する場所を作るために、仕事としてのモノマネもやらなきゃいけない。
水野:バランスがね。
シャチホコ:あと、本当はこれのほうが似る。だけど、伝わりやすさでいったら知名度的にこっちだから、クオリティーは低いけど出すとか。そういうのもやりますね。
水野:めちゃくちゃ複雑な要素が絡んでいるんですね。ちょっと自分たちの世界に引き寄せると、たとえば恋愛の曲あるじゃないですか。back numberの清水依与吏くんが前に言っていてすごいなと思ったのは、「今の自分がこの言葉を吐いたら、どう聞こえるかということをすごく意識するようになった」と。
シャチホコ:うん。
水野:作品だけを見たら、たとえば切なげなフレーズや女々しいフレーズがいいかもしれない。だけど、それを自分がパフォーマンスするとなったら、歌と差が出ちゃったり、変に聞こえちゃったりする。見られ方、求められ方を計算した上で、ちょっと言葉を戻す。そういう趣旨のことを話していて。たしかになと思ったんです。
みはる:うん。
水野:吉田美和さんが歌う「好き」と、うちの吉岡が歌う「好き」も意味合いが変わってくる。キャリアとか、ご自身が過ごされた生活とかも含めて、伝わり方が違う。モノマネ芸人のみなさんも技術では出せるけど、それは今の見られ方とは違うときはちょっと降りるというか。わかりやすく砕かれている。そこは同じなんだなって思いました。
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