ある企画が始まる前に、語っておきたいこと①-無意味から、意味を見出す。それがたぶん”人間らしい”ということじゃないか。
HIROBA
玄関を出れば、無秩序に音が鳴っている。
自動車のエンジン音だったり、子どもの声だったり、近くの線路を電車が通ったときのゴーーっという低音だったり、虫の鳴き声だったり、コンビニの自動ドアが開くときのチャイムだったり…。それらはとりとめもない。どこからはじまって、どこまでで終わるかみたいな区切りも判然としない。だれかが鳴り止むまえに、だれかが鳴り始めていて、ずっとぐちゃぐちゃと。うごめいている。
その一連のなかで、意味をもつ、音がでてくる。
正確に言うと、こちらが”意味を見出す”、音が出てくる。
たぶん、外で自分の名前を呼ばれたら、振り返ると思う。
ほぼ無限にある音のなかで、人間の声で(まぁ、機械の声でもいいんだけど)「み」「ず」「の」と発音されたら、それは自分にとって意味を見出せる音だから、「ああ、自分のことを呼ばれたんだ」と思って、振り返る。
たぶん、自分の曲が流れたら、振り返ると思う。
ほぼ無限にある音のなかで、音高を表現できるなにかの音(あるいは声)で、自分の曲の旋律が、ある一定の長さ、その通りに辿られたら、「ああ、俺の曲だ」と思って、振り返る。
ほぼ無限にある音のなかで。
どこまでが音楽で、どこまでが音楽じゃないか。
どこまでが言葉で、どこまでが言葉じゃないか。
音楽とされているもの(言葉とされているもの)と、音楽とされていないもの(言葉とされていないもの)との境界は、いつも曖昧で、絶対的ではなく、そのときどきの認識をつかさどる者の恣意性に委ねられている。
無意味から、意味を見出すのが、人間にとってとても基礎的で、重要な能力なのではないか。あるいは、人間が人間らしくいるための”すべ”なのではないか。
そんなことをずっと考えている。
夜空に無秩序に散らばっている星空を見て。
そのあいだに線を引く。そして、なにかの”かたち”を見出して、あれは「射手座」だね、と言ってみたりする。
それが、人間らしい行為の本質なのではないかと、思っている。
無意味から、意味を見出す。
それは言い換えてみると、物語にするということ。
いくつかの要素を①取り出して②ならべて③要素以上のなんらかの意味をたちあげる。この”物語にする”という行為で、人間は人間として生きているんじゃないかと、思っている。
もっと言えば、物語にすることができなければ、人間は生きられないんじゃないか?
すべてを物語にすることで、人間は世界をとらえて、生きている。
昨日の自分と、今日の自分は、物質的には違うものだ。
だけれども、僕は過去から現在にまでたどってきた僕の人生を生きていて、昨日の自分と、今日の自分とが、同一のものであるという”物語”を、頭のなかで自然に受け入れていて、生きている。
その認知が、なんらかの理由で破綻してしまったら、僕は僕でいることを保てない。それはあるいは精神病のたぐいのなかでは、そういったことも起こりうるのだろう。
僕のまわりには、多くの、実にさまざまな生命がいるけれども、そのいくつかは自分と同じ”ヒト”で、さらにそのうちのいくつかは、自分と私的な関係のある”友人”であったり”家族”であったりする。
それらの”○○”は、僕らが、そう名付けているだけで、名付けたことによって、やっと認識されている。それを僕らは自然に受け入れている。
小さな幼子が、なぜ、毎晩、物語を読むことをせがむのか。
同じ認知を、共有することが、人間が孤独を紛らわすうえで、あるいは自分以外の存在(世界)と、自分とを接続させるうえで、とても大事なことなんじゃないか。
それは原始的といってもいいくらい、本質的な。
今日もだれかが、どこかで、歌を口ずさんでいる。
時間も、空間も、かけ離れたところで。出会ったことのないひとが。
たとえば、それが自分がつくった歌であったのなら。
自分はそのひとと、ある物語を、ある認知を、共有している。
それは死をも超えるし、距離や時間も超えるのだから、すごいことだとも思う。
なぜ、人間は、歌なんてものを生み出したのか。
なぜ、人間は、虚構(創作物)をわざわざつくるのか。
それは、なにかを物語にする、という行為自体が、知性を持ち得てしまった人間が生きるうえで、実は睡眠や食事といったような行為と同じような、とても基礎的ななものだからなんじゃないか。
そうやって”物語”というキーワードを中心にうだうだ考えていることを、これから書いていきます。(気が向いたときに)
そして、それは”ある企画”へとつながっていきます。
企画自体はとてもシンプルな構成のもので、そのうえで豊かな”物語”があるものです。
今年が始まって、ずっと長い物語のなかにいるけれど、もうすぐ秋が来てしまう。
そろそろ、届けるところまで、たどりつけそう。
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