読む『小説家Z』 水野良樹×珠川こおり 第3回:書いているときと推敲しているときの自分は、違う自分。
融合している音楽。
水野:小説以外のことも、いろんなことがお好きだと伺っています。音楽も好きだと。
珠川:でも素人なので、本当に。
水野:何がいちばん好きですか? 音楽、美術、文章。文章も小説があったり、詩があったり。
珠川:えぇー。どれも好きなので…。でもずっと音楽をやってきたので、音楽はやっぱり好きですね。
水野:音楽と小説、魅力が違うとしたら、どこが?
珠川:根本的に長さが違うっていうのは、大きな違いですかね。でも結構、混同して考えちゃいがちなので。
水野:あまり明確に分かれてない?
珠川:私のなかでは分かれてないですかね。そもそも私は、作詞とか作曲とか、あまりできないので。
水野:絶対できるでしょ!
珠川:いやいやいや。バンドをやっているんですけど、メンバーと「ひとり1曲、作ろう」みたいなのをやったとき、めちゃめちゃ頑張って作ったのをみんなに聴かせたら、「ふ~ん」って感じになったのがツラくて(笑)。
水野:それを乗り越えていかないと(笑)。どんなアーティストが好きなんですか?
珠川:「このひとが好き」というより、いろんな曲を聴いて、「このひとのこの曲が好き」と思うので、結構バラバラですね。歌がついているものだと、秋山黄色さんの「Caffeine」とか。歌がないものだと、『ハイキュー!!』とか『ヒロアカ』のBGMを作っていらっしゃる、林ゆうきさんの曲はよく聴いていて。
水野:どういうところが好きなんですか?
珠川:感覚で、「めっちゃ好き!」って思ったら、好きになっちゃう。あと、アニメのサントラでオケっぽいけど、ギターがカッコよく入ってくるとか。私は吹奏楽をやって、ブラスバンドをやって、合唱をやって、バンドをやって、ってバラバラなんですけど。
水野:音楽、めっちゃ好きじゃないですか!
珠川:でも融合している音楽って、なかなか聴けなかったりするじゃないですか。
水野:なるほどね。
珠川:だからオケとギターとか。バンドにバイオリンが入っているとか。
水野:複合的なものが好きなんですかね。
珠川:そうかもしれないです。J-POPだけど、和の楽器や民族楽器が入っていたりするとすごくワクワクする。
水野:作ってくださいよ!
珠川:いや、本当にうまくできないので。自分が好みのものにならないって感じですかね。満足できないというか。思ったとおりにできなくて、モヤモヤする。でも何が違うのかわからなくて。
『檸檬先生』を久々に読み直したんですけど…。
水野:デザインとか、美術のほうは、もうちょっと自分の思うようにできるんですか?
珠川:画力はないですね。でもデジタルで書いたりすると、顔を描いて、目を描いて、鼻を描いて、口を描いて、髪を描いて、それを「なげなわツール」っていうものを使って、微妙に移動できるんです。
水野:はい、はい。
珠川:大きさも変えて、自分でちょっとずつ微調整していくと、理想的な絵に近づくみたいな。あと、うまいひとのデザインとかイラストをマネして練習することもできますし。そういう点で、自分的には解剖しやすいというか、私の脳みそだとまだそっちのほうがわかりやすい。
水野:それのさらに奥に小説があるんですか? 小説のほうがよりご自身がコントロールしやすかったり、表現しやすかったり。
珠川:こないだ『檸檬先生』を久々に読み直したんですけど。
水野:はい。
珠川:なんか…「これはどういうことなんだ?」「文、下手じゃない?」みたいな。長いから気力で書き切るじゃないですか。ノリノリになっているので、周りが見えなくなっているだけで、実際にはあんまり…。コントロールできているかと聞かれると、そうでもないのかなって思いますね。
水野:あの作品をノリノリで書いているんですか。それはすごいな。推敲したりするんですか?
珠川:小説は自分の好きなタイプの話を書きがちなので、「推敲するぞ!」って読み始めて、「あぁ面白い~。終わり」って何にもしないで終わっちゃったりします(笑)
水野:ははは。
珠川:あと、作品のなかにのめり込んで書いてしまっているので、意味を込めて書いた文章でも、いざ読み直したときには、もう完璧にはわからなくなっていて。
水野:なるほど。
珠川:書いているときと推敲しているときの自分は、違う自分になっていて、このあいだにも考え方はどんどん変わっていくし。ベストだと思って書いたものをあとから直すのも、ベストだと思って書いた自分に対してどうなんだろうとか思っちゃったり。まぁこれは言い訳なんですけど。
書いているうちに逸れていく。
水野:ちょっと即興演奏感があるんですかね。
珠川:そうかもしれないですね。そのときにしか考えられない思考とか、そのとき思いついた空気とか流れとかが、一本に繋がっていたほうが綺麗なんですかね。
水野:映画音楽を作っている世武裕子さんって音楽家の方がいて。彼女は、映画のラフを見ている段階でもう音が鳴っているから、それをバーッと作っていくんですって。
水野:だから、もう1回戻って書き直すとか、一部分だけ修正するとか、すごく不得意だとおっしゃっていて。珠川さんのお話もそれと近いなって。その瞬間で感じたものをスッと形にするみたいな。『檸檬先生』も『マーブル』も、その時々で、「このテーマで書こう」とか「この構図で書こう」ってスタートしたら、とりあえず走っちゃう感じだったんですかね。
珠川:行き詰るときもあるんですけど、ノッているときはもうガーって書く感じです。構造は決まっていても、書いているうちに映像とか音とかが流れてくるので、逸れていくことも結構。
水野:じゃあ自分で思ってなかった方向に行くときもある?
珠川:そうですね。このモチーフを使おうって思って書き始めるんですけど、途中で出てきたものに、「こっちのモチーフがいいな」ってなったり。書いている間に考えていることが変わって、「これ使おう」ってなったり。
水野:編集者の方、ビックリしません?
珠川:それほど、ちゃんとしたプロットを送れてないので、なんというか…って感じです。
水野:僕が聞いて思ったのは、読み直しをされて、「ここは自分ではもうわからないな」とか、「ここはもっとこういうふうに書けたかもしれないな」って感覚があって、「やっぱり自分自身も変わっているから」っておっしゃるのがやっぱりすごいなって。その速度でどんどん変化しているから。1年後に書く作品と、3年後に書く作品、そのタイミングでしか書けない作品を珠川さんは書かれていかれるんだなぁと思いますね。
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