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小説家Z 水野良樹×柿原朋哉 第4回:ここ1年ぐらいで、「死が怖い」って思うようになった。
「怖いものある?」って聞かれて。
柿原:水野さんが僕と同じ28歳のときと今って違います?
水野:全然違うと思います。
柿原:人間性が違いますか?
水野:根幹の部分は違わないと思うんですけど。やっぱり生身の生き物だから、闘争本能とか薄れていくんですよね。大事にしていくものとかも薄れていくし。薄れていくっていうか、変わっていく。
柿原:たしかに、「変わる」はありますよね。
水野:獲得していく方向から、守る方向になったり。
柿原:それは獲得しきったからではなくて?
水野:いや、違うと思います。獲得できないと、諦めたんでしょうね。あと、「老いるんだ」ってことをすごく感じるんですよ。本当に小さなことで。
柿原:わかる気がする。
水野:10代、20代の頃は、時間が前にあるっていうか。未来を食って生きている感じ。それこそ、「もっと作品を書いて、売れてやる」とか。「もっと自分の人生はよりよい方向にいくはずだ」とか。未来にいいことがあって、そこに向かっていくというか。それがどんどん時間が自分に近づいてくる感じ、現在を生きる感じになって、だんだん通り過ぎていくんですよ。
柿原:あー、なるほど。ちょっと自分も感じる部分もあります。
水野:本当ですか。どうですか?
柿原:「こんなことで身体崩していたっけな」とか、「膝痛いな」とか、そういうのが増えてきて、残された時間をかなり意識するようになりましたね。まだ先だと信じたいですけど。最近、友だちと話していて自分でもビックリしたんですけど、友だちに、「怖いものある?」って聞かれて僕、「死ですね」って答えたんですよ。
水野:本音が出ちゃってる。
柿原:ここ1年ぐらいで、「死が怖い」って思うようになった自分がいました。前までは、いつかそのときがくるとは思っていたけど、怖いとは思っていなかったので、変わるんだなと思いましたね。
自分の死以上のこと。
水野:あえて先輩面をすると、曲を書いているときに結構「死」をテーマにしていたんですね。「過ぎ去っちゃうなぁ。自分も死んじゃうんだなぁ」って思って。まぁ「死」って終わりがあるから、それに向けて頑張っていこう、それまでの時間を充実していこう、って考えで歌を書いていて。でも、結婚して子どもができたあたり。結婚したぐらいがとくに大事だったかな。まわりの家族に不幸があったりして、受け継いでいる感があったの。
柿原:なるほど。
水野:「あら、自分が死んだあとも、世の中はあるんだな」ってことに気づいたんですよ。それは作品を書く上ですごく大きくて。
柿原:たしかに。
水野:「死が怖い」っていうのは、やっぱり自分の人生を考えているじゃないですか。
柿原:はい。めっちゃそうですね。
水野:今、僕も死は怖いんですよ。もちろん病気になるのも怖いし。でも、もうひとつ怖さというか、不安があって。「俺が死んだら、息子はどうやって食っていくんだろうな」っていう。世の中のお父さんお母さんみんな思っていることだと思うんだけど。あとの世代の心配、自分の死以上のことを考えていることが増えてきて。それって死を考えるときに結構、大事だなって。
柿原:なるほど。
水野:そのフェーズが多分いつかやってくるんじゃないかな。
柿原:そうですね。今、自分のことしか考えてない。
水野:でも前の僕もそうだったし。もちろん家庭を持たない方もいるから、違うパターンもたくさんあると思うんだけど。いろんなパターンで自分以外のことを考えるタイミングがくると思うんですよね。
柿原:そのときに書くものも変わりそうですね。
水野:僕は明らかに変わりましたね。
柿原:すごいなぁそれ。大きい部分ですもんね、自分の内面にとって。
「あぁ水野さん感じてそう…」って。
水野:そうですねぇ。柿原さんは、これから何を書きます? まさにスタートラインに立った感じだと思うんですけど。
柿原:お話したとおり、自分の悩みが半分ぐらいで書いたところもあったので、両方できるようになりたいなと思います。めちゃくちゃエンタメが書けるようにもなりたいですし、純文学よりのものも書きたいですし。自分が書きたいときにそれを書けるように、とにかくいっぱい書きまくって、掴んでいきたいですね。「書きたい。これを遺作にしたい」って思ったときに、最高傑作ができるように頑張りたいなっていう感じです。
水野:文章でとどまりますかねぇ。
柿原:どうなんでしょうね。自分でもちょっとわからないですね。
水野:映像っていう文脈も持っているから、行き来をされるんじゃないかなと、傍からは思っているんですけど。
柿原:水野さんはどうですか? 小説も今後も書かれますか?
水野:はい。書きたいです。
柿原:それってご自身のなかで、何欲が違うんですか?
水野:もう最近、整理がついてなくて。でも意外と同じなんじゃないかって感じはしていて。最初は明確に分けているつもりだったんですけど、書いていくうちにすごく近いものだなって思ったし。あと、小説家の方が書かれた歌詞に曲を書かせていただくみたいなことも経験させていただいたんですけど。
柿原:はい。
水野:そのときもやっぱり、音楽の人間としてそこに向き合ったけど、詞から浮かび上がるものがあったので、すごく近いところにいる気がするんですよね。そんなに境目はないんじゃないかと思ったりもして。だからこそ柿原さんも、ご自身のなかで表現方法としてふーっと近づくときがくるんじゃないかなと。
柿原:今は目の前の小説に精一杯ですけど、「こっちもやってみよう」って余裕が生まれてきたとしたら、やるのかもしれないですね。「自分で書いたものを映画にしてみよう」って。今はその体力がないですけど。
水野:見てみたいです。それはやっぱり柿原さんじゃないとできないことじゃないですか。いくつもの文脈を持っているひとだからこそ、それを繋ぎ合わせることもできる。そこは1ファンとして見てみたい。
柿原:ありがとうございます。嬉しいです。
水野:こんなこと言ったらおこがましいですけど、お互い書き続けたいですね。で、また何作か書いたあとにね。
柿原:作家としては同級生なので。
水野:本当に本当に。同志ですよ。嬉しいなぁ。しかも別の文脈からスタートして。それで何作か書いたあとに、「こんなふうに思いましたよ」っていうことをまた話せたら、それもおもしろいだろうし。
柿原:あともう1個伝えたいことが。水野さんの小説で、居酒屋で飲んでいて、ひとりがチヤホヤされているシーンがあって。そのいじられているのを見て、なんか寂しい気持ちになる自分がいるって、わかるなぁと思って。自分が話題の中心にいないことの寂しさみたいなのも、「あぁ水野さん感じてそう…」って読んでいました。
水野:すげぇ見透かされてる。
柿原:改めて、経験からしか書けないことってあるんだなと思いました。今後も読ませていただきながら、自分も書いていきたいなと思います。
水野:最後、褒めていただきまして。見透かされている感じで。またぜひ、次回作を書いたらお話させていただけたらなと。
柿原:ぜひ。交換会を。
水野:交換会しましょう! これからもよろしくお願いします。
柿原:よろしくお願いいたしします。
水野:ということで、小説家Z、今日のゲストは最新作『匿名』を出されたばかりの柿原朋哉さんにお越しいただきました。ありがとうございました。
柿原:ありがとうございました。