読む『対談Q』 水野良樹×大塚愛 第4回:生きていくなかで、「自分でもよかったな」って思えることを増やしたい。
引退はいつか。
水野:本当ここ数年、すっごく引退を考えていたんですよ。
大塚:あぁー、わかるー。ていうか私、今までデビューしてから、ものを作っている同じ年のひとと喋ったことないんですよね、多分。
水野:マジっすか。でもそうかもしれない。あんまりないですよね。
大塚:ないんですよ。上の方ばっかり。で、最近は下の方ばっかり。なかなか同じ年と喋れなくて。
水野:引退がわかるっていうのは?
大塚:私もずーっと、引退はいつかって考えていて。「桜のように綺麗なまま散りましょう」ってほうなのか。「いや、もう枯れて最後の花びらまでやろうよ」っていうところなのか。自分の覚悟をそろそろ決めないと、中度半端になっちゃうなって、ずっと考えっぱなし。
水野:僕、「引退しよう」ってことの真意は、もう「降りたい」。外に出す音楽の作家としての自分を降りたい。才能も限界があるし、技術も限界があるし、若さでやれることも限界があるし。いろんな限界がくるじゃないですか。そのなかで、自分がうじうじしたまま続けるのはどうなんだろうみたいな。
大塚:うん、うん。
水野:音楽が嫌いなわけじゃないから、ひとに聴かれるってことから降りて、好きにやる。で、職業は別にある、っていう生き方もあるかもなって。そのほうがいきものがかりにも傷をつけないし。って、思うときは結構あったんですよ。
大塚:やーばい。わかります。
水野:でも、じゃあ引退に踏み込むかっていったら、そこはかなりの川があるので、そんな簡単なことじゃないんですよ。ただ、本音を、不安を、こぼすとこういうことだって話で。別にみなさんを安心させるわけじゃなくて、結局やめないと思うんですけど。
大塚:どうだろう、わかんない(笑)。
水野:俺もわかんないけど(笑)。ただ、それを踏まえた上で、もっと俯瞰して見ると、そういう葛藤をしている人間が作る曲はもしかしたらいいかもしれないな、と。
大塚:うん。
悩んでいるときは、多分、何かの途中なんだろうな。
水野:緊張関係のなかで、そういうヒット曲やポップスができるから。意外と作るってことに対しては、まっとうな苦しみ方をしている。大塚さんはどうですか?
大塚:いやぁ…。でも悩んでいるときは、多分、何かの途中なんだろうなと思っています。
水野:なるほどね。
大塚:やめるってなったら、「やめる!」って迷わないと思うので。それに、私がもっと若かったら、「あぁ苦しい! 誰か助けて!」とかなるんですけど。もう大人になってきたので、焦ってもしょうがないし、騒いでもしょうがない。悩めるうちはずっと悩んでいようって、ちょっとほんわかしちゃっていますね。
水野:先輩たちを見ると、そういう時期を乗り越えたひともいるんだろうなって、思ったりもして。
大塚:私、出会った先輩方がみんな、「それなしでは生きていけない」って方ばかりで。
水野:あぁ~。音楽がないとみたいな。
大塚:そうですね。だから今日すごく嬉しい。
水野:よかった! どこか近いものがあったってことなのかな。あと、「自分は音楽に選ばれてないんじゃないか」とか、「音楽という世界のなかで、ギフトを受けてないんじゃないか」って視線が多分、ポップス職人としての自分たちを育ててきたと思うんですよ。そこに迷いがないひとって、作っちゃうじゃないですか。でも少なくとも僕は、「音楽に選ばれてないかも」って思う瞬間がたくさんあったから、選ばれたいと思って頑張るというか。
大塚:うん、うん。
水野:それがないと多分、今音楽でご飯食えてないだろうし。みなさんに知っていただけるような曲を書けてないはずだから。大塚さんもずーっと自分にダメ出しをしているし(笑)。
大塚:そうですね。自分の声も、全然好みじゃないんだけど、でもこの声を活かさないと、何にもならない。だから、活かせるものをやろうって。生きていくなかで、「自分でもよかったな」って思えることを増やしたい。それが最後どうなるのかわからないけど。おばあちゃんになるまでに終了するのか。終了できるように今、頑張っているんですけどね。
ポップフェスやりましょうよ。
水野:僕はその物語を聞くだけで、都合のいい立場にいるなって思うんだけど…。ずっと悩み続けて、自分を叩き続けながら、作品を出し続けている大塚さんの一連の物語自体、めちゃくちゃ素晴らしいですけどね。
大塚:ありがとうございます。ちょっと今後、また裏でいっぱい喋ってもいいですか(笑)。
水野:是非是非是非。僕、来る前に、「他のひとをプロデュースするとか考えるんですか?」って聞こうと思ったんですけど。
大塚:それがしたいんですよ。
水野:したいんでしょうねぇ。だけど一方で、すごいドSなんですけど、大塚さんが苦しむ先も見てみたいなって。プロデュースって大変だし、覚悟は必要なことだけど、今まで大塚さんが戦っていたことからは逃げているところもあるから。難しいなぁって。
大塚:うん。
水野:大塚さんの能力がめっちゃ発揮されるのって、プロデュースだろうなって、今伺っていても思う。でも作り手として、届け手として、苦しんでいるこのひとを見てみたいっていう、矛盾した葛藤が今あります。
大塚:プロデュース、やりたいんですけど、これまた人材を見つけることの大変さ。
水野:まぁひとりレコード会社だから(笑)。
大塚:かつ、プロデュースだから、どう売っていくかみたいなのも考えなきゃいけないし。その子の人生を背負う。そこの出会いを乗り越えるのがいちばんでかいんだろうなと思っていて。なかなかたどり着いてないですね。
水野:でも、プロデュースしたいですね。見てみたいなぁ。
大塚:なんか一緒に…。よくロックフェスってあるじゃないですか。なんでロックばっかりなんだろうって思うんですよね。
水野:ポップフェスやりましょうよ。
大塚:そうなんですよ。
水野:やりましょう、やりましょう。なんかやりましょう。「なんかやりましょう」っていういちばん抽象的な言葉で終わりそう。
大塚:それ、ひとと会って、「ごはん行きましょう、今度」って行かないパターンじゃないですか(笑)。
水野:「なんかおもしろいことしましょうね!」って言って、なにも始まらないやつ(笑)。いつか一緒に曲、作ってくださいよ。
大塚:「いつか」はやめましょ。
水野:すぐにね!
大塚:すぐ、いきましょ。
水野:歌うひと決めて。僕らはずっとソングライターとしていて。
大塚:真ん中に歌うひとを連れてきて。
水野:それもいいかもしれない。
大塚:それやりましょう。ふたりの力を合わせれば。
水野:音楽業界でどこか捻ってきた、何かの歪みを抱えて頑張ってきた、ポップスづくりを頑張ってきたひとたちが、なんかやったらおもしろくなるんじゃないかなって。それをどこかで期待していただいて、今日はおしまいかなと思っております。
大塚:はい!
水野:非常に楽しかったです。ありがとうございました!
大塚:ありがとうございました!
水野:今日のゲストは大塚愛さんでした。
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