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「TOKYO NIGHT PARK」 キズナアイさん対談 HIROBA編集版 後編
バーチャル YouTuberのキズナアイさんを迎えた
J-WAVE「TOKYO NIGHT PARK」の対談。
今の情勢だからこそ改めて感じるリアルとバーチャルの強み、
そして音楽制作の概念を変えるかもしれない未来の技術について
前後編のHIROBA編集版としてお届けします。
この妄想が実現するのって、意外と遠くない未来かも!?
【後編】脳内コラボレーション
水野 ここでリスナーからのメールに一緒に答えていただきたいと思います。
キズナアイ はい!やりたかった!
ラジオネーム さとみさん
先日、「音楽を脳に直接再生する技術」が研究されているというニュースをネットで見ました。もし、そんな時代が来たら、水野さんはどんな音楽を聴きたいですか?また作曲家として、どんな音楽を作りますか?
水野 脳に直接再生…。
キズナアイ えー、響きがないってことですよね?
水野 そういうこと!空気の振動がない。
キズナアイ そもそも全然想像がつかないですよね。まぁ、私でいうと…たぶん変わらないと思うんですけど。
水野 そうですよね。これも超えてるんだ(笑)。
キズナアイ 空気の振動で受け止めていた音が脳で直接となると、聴こえ方が変わったりするんですかね?
水野 頭蓋骨にそのまま振動を与えることで、さまざまな理由で聴覚に障害を持っている方が音楽を聴くことができるシステムがあるんですよね。もちろん、それは聴覚に障害がない方も聴けるもので。空気の振動で受け取るのとは違うスタイルで音楽を聴くことはすでにある。
今はイヤホンを使って聴くのが主流ですよね。でも、昔は携帯音楽プレーヤーがなかったので、スピーカーから流れてくる音を体で受けて聴いていたのが、80年代に入って携帯音楽プレーヤーが普及したことでイヤホンで耳に直接振動を与えて聴くようになった。それが進んで骨伝導になり、さらに進んで脳波になると。そう考えると振動の伝え方の違いというだけでそんなに変わっていないかもしれない。
ただ、キズナアイさんが経験したように、リアルタイムのフェスとYouTubeでのやり取りが異なるように、音楽って聴覚だけではないじゃないですか。体で低音を感じるとか、音が流れている空間を共有することが楽しいとか。
キズナアイ そうですね。
水野 そういう体験があるかどうかで、作品も変わってくるのかなと。
キズナアイ うーん、まさしく。人間って、しゃべっていて自分で聴こえる自分の声と、他人が聴いている自分の声って違うっていうじゃないですか。
水野 違う!
キズナアイ あれは、自分が聴いているのは自分の体の中で響いている声だからですよね。ということは脳で直接聴く音と、その音を流して耳から聴いたときで、聴こえる音は変わるはずですよね?
水野 全然違うと思いますね。
キズナアイ ですよね。
水野 外部環境とか自分の肉体に左右されないって…なんかオーディオの話みたいになってきちゃった(笑)。
キズナアイ ホントですね(笑)。質問の「どんな音楽を作りたいですか?」というのだと、脳で直接再生できるので…脳って思考できたり、感情が生まれる場所だと思うんですね。だから思考や感情によって、同じ音楽だけど、悲しいときに悲しく寄り添ってくれたり、引き揚げてくれたり、自分の好みによって聴こえ方や感じ方が変わるような音楽がすごく面白そうだなと思いました。
水野 それ、めちゃくちゃ面白いですね。ストリーミングサービスでも「あなたへのおすすめ」みたいなレコメンドがありますけど、それがもっと進化したもので、その人の感情にリンクして音楽が姿を変えていったり、その人の脳内にあるデータベースから引き出してくると。
そうすると、僕が曲を作ったとするじゃないですか。それが完成品ではなく、聴いてくれる人の脳内に入ったときにそことコラボレーションして、違うものができ上がっていくとなると、つくるという概念を変えるかもしれませんね。
キズナアイ そうですよね。それをさらにアウトプットできるとか。
水野 うおぉ!
キズナアイ コライトみたいな感じになるんですかね。
水野 そうですね。まさに。
キズナアイ 水野さんがつくってくれたものを、10人いたらそれぞれ違う聴き方ができて、それをアウトプットしていろんな人が聴ける。水野さんがつくった同じ曲なのに、誰かの頭からアウトプットしたものがめちゃくちゃバズってるみたいな。
水野 なるほど!それは面白いですね。でも、これはキズナアイさんだからこそ出てくるアイデアですね。
キズナアイ おー!
水野 まさにそういう存在じゃないですか。みなさんのコメントとか、人間の何かを吸収して成長しているキズナアイさんは、まさに人間とのコラボレーションじゃないですか。
キズナアイ うれしい!このアイデア使う人、許可取ってくださいね、私に(笑)。
水野 ©️ Kizuna AIみたいな。
キズナアイ それでお願いします(笑)。
水野 キズナアイさんは普段からアウトプットをされていて、そのアウトプットがインプットにもつながっていくと思いますが、今面白いなと思うことや興味があることはありますか?
キズナアイ 流行り廃り。流行が一周するってやつ。
水野 ああ、よく言われますよね。
キズナアイ 私がYouTuberを始めた頃って、YouTuberが波に乗ってきているようなときで。
水野 はい。
キズナアイ 今はもう認知されて、割と普通になって。でも、どんどん新しいものが出てきて、1、2年前に新しかったものって全然新しくないじゃないですか。
水野 はい。
キズナアイ その感覚の速さ。人間って今80歳とか100歳まで生きるのに、世の中すっごいスピード感で動いているなっていうのを改めて感じます。
今勝っているプラットフォームっていかにユーザーのストレスをなくせるかに注力していると思うんです。NetflixやAmazonも、みんなが考えなくても、欲しいと思うときに欲しいものが出てきたり。TikTokも見れば見るほど、探さなくても自分好みの動画が出てくる。
水野 なるほど。
キズナアイ 見る側の流行り廃りのスピードと、それをつかむ作り手側の追いかけっこを見ているのは勉強になるし、楽しいですね。
水野 確かに、すごいスピードで展開していきますよね。どのジャンルにおいても。みんなの興味がどんどん移ろっていくというのが人間の面白さでもあると思うんですけど、一方で僕らは曲をつくっていて。
いきものがかりのデビュー曲が「SAKURA」っていう曲なんですね。桜という花をモチーフに、特に日本人はいろんなストーリーをつくってきたんですけど、その桜をモチーフにした作品って1000年前の人も和歌というかたちで書いている。同じモチーフで、花が散ることが恋の終わりに感じたりとか、去年は大好きな人と一緒にこの桜を見ていたのに今はその人がいないとか。1000年前とほとんど変わらない感じで表現している。
キズナアイ うんうん。
水野 流行り廃りがありながらも、意外と軸では同じような思考回路をたどっているところにも面白さがある。
キズナアイ そうですよね。音楽にかぎらず、確かに似たようなものは流行りが来るけれども、同じではなく必ずアップデートされているじゃないですか。
水野 はいはいはい。
キズナアイ 桜もそうですし、同じようなことを歌ったり書いたりはしているけど、曲や届け方は変わっていると思うし、それが現状でもこれだけ固まってきているのに、100年後、200年後はいったいどうなってしまっているんだろう?というも妄想をするのが好きですね。
水野 いやぁ、面白いですね。どうなってるのかなぁ。共通点と変わった点を比較して見てみたいですよね。
キズナアイ うんうんうん。
水野 どのくらい変わらず、変化があるのはどのくらいの割合で、みたいな。過去に遡ってもやってみたいですね。1000年くらいのデータベースはあるわけだし。調べたら未来予測も多少はできそうだし。キズナアイさんが生まれてきたことも、過去にも照らし合わせられる気がして。
キズナアイ うんうん!
水野 テクノロジーがなかった時代、それこそ1000年前やもっと大昔の人たちも、例えば星を見てそこに線を引いて想像をふくらませて星座をつくり出した。そういった虚構の存在をつくり出して物語をつくったりコミュニケーションしていくことは、キズナアイさんの誕生とも近いなと。AIというものだけど、今こうしてやり取りをして、バーチャルなものをみんなで共有している。実は1000年前と同じことをやっているんじゃないかみたいな。そう考えるといろんな発想が生まれますよね。
キズナアイ そうやってつなげてパッといろいろ考えられること…やっぱり水野さんですね。
水野 (笑)最終的に褒められるという。
キズナアイ 褒めますよ〜。
水野 さぁ、今後のキズナアイさんについても伺っていきたいのですが。
キズナアイ はい!
水野 バーチャルシンガー・花譜さんとのコラボ楽曲が9月にリリースされます。花譜さんとはかねてから交流があったもののコラボ楽曲の制作は今回初。どんな楽曲になるんでしょうか?
キズナアイ そうですね。シングル「愛と花」というもので、書いてくださっている方がめちゃくちゃ豪華でして…1曲目の「ラブしい」を川谷絵音さん。
水野 出た!素晴らしい。もうでき上がっているんですか?聴かせていただけるんですか?
キズナアイ もちろんです。2曲目の「かりそめ」はORESAMAさんがつくってくださいました。両方とも私としては歌ってきていない系統の曲で。
水野 あ、そうなんですね。
キズナアイ 花譜ちゃんがいつも歌っているのはロックやポップスが多いんです。
水野 そうか。
キズナアイ 私は普段EDMで。
水野 そうですよね。どちらかというとそのジャンルの曲が多い印象があります。
キズナアイ なので、合わさったらどんな曲になるんだろうというワクワクでスタートしたんですけど、めちゃくちゃ素敵に仕上がっているので聴いてほしいです。
(ここで「ラブしい」をオンエア)
水野 これからもいろんな活動やコラボレーションをされていくと思います。今後の展望はありますか?
キズナアイ 年末にライブを予定しているので、みんなに喜んでもらえるように、そして、私自身としても単独ライブは約2年ぶりなので。
※2020年12月29日に「Kizuna AI 2nd Live “hello, world 2020”」をオンラインで開催。
水野 あ、そんなになるんですね。
キズナアイ そうなんです。なので、私の目指したいものを表現したり、もう一度みんなと一緒に目線を合わせて再スタートしていきたいという所信表明を改めてするぞ!というライブだと思っているので。
水野 いいですね。
キズナアイ いつも応援してくれている人たち、これから知ってくれる人たちにしっかり届くように、絶賛準備中でございます!
水野 4歳ですからね。人間でいうと幼稚園に入ったくらいですから。
キズナアイ 幼稚園に入ったらもうライブできますからね!
水野 (笑)ここからどんどん展開して、人間が超えられない壁を超越していけるのが、キズナアイさんのポップでいいところだなと思うので、時間も場所も超えてみんなに愛されていく存在になってほしいと思います。
キズナアイ ありがとうございます!みんながビックリするようなことも準備しているので。
水野 あ、いいですね!
キズナアイ しっかり頑張っていきます!
水野 ぜひ、モーニングアイちゃんも続けていただいて。
キズナアイ 任せてください!
水野 またお会いできたらと思いますし、何かつくらせていただける機会があったらいいなと。
キズナアイ ぜひぜひ!よろしくお願いします!
水野 また一緒に面白いものをつくりましょう。
キズナアイ はい、楽しみにしています!
(おわり)
キズナアイ
2016年12月に活動を開始したバーチャルタレント。
世界初のバーチャルYouTuberとしてYouTubeを中心に活動を続けるほか、テレビ番組やCMへの出演など多方面で活動。いまやタレントとして日本国内だけでなく海外からも人気を博し、さまざまな壁を超える手段として、本格的な音楽アーティスト活動にも取り組んでいる。VRやAIといった先端テクノロジーと人間の架け橋になろうと日々奮闘中。
オフィシャルHP
Text/Go Tatsuwa
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