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読む『対談Q』 水野良樹×半﨑美子 第2回:私が器となって誰かの思いを受け取って、曲にさせていただいている。
HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。
今回のゲストはシンガーソングライターの半﨑美子さんです。
前回はこちら
数秒の間が勝負。
半﨑:これも訊きたかったんですけど。路上ライブ後にCDを販売されますよね。そのとき、ライブが終わって、「じゃあCDを販売します」ってなった本当に数秒の間が勝負と言いますか。
水野:なるほど。
半﨑:バーッってひとが散ってしまうのか。どなたかがCDを買いに来てくださるのか。そこも大事なんだと、やっていくうちに気づいて。自分のBGMに自分でアナウンスを録音しておいて、それを流してサイン会するとかやっていたんです。そういうところも、いきものがかりさんは3人で役割分担みたいな?
水野:僕らで言うと、路上をやっているとき、目の前に集まるお客さんはいいんですよ。その向こうで、集まることが恥ずかしくて、柱の陰で携帯見るふりしながら、でも聴いているってひと、すごくよくわかるんです。
半﨑:見えますね!
水野:このひとは待ち合わせのふりをして聴いているなって。このひとたちは、実はいちばんCD買ってくれる率が高い。
半﨑:そうですよね。ファンの方だったら、もう持っていたりしますし。
水野:はい。うちの吉岡はそれを目ざとく見ておいて、歌が終わった瞬間に、CD持ってそこに走っていくんです。そのひとたちは自分が気づかれていると思ってない。だから、来ると非常に慌てるんです。でも聴いているから、ちょっと嬉しくて。「あ、ちょっと聴いていました」みたいな。
半﨑:へぇー!
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水野:これ腹黒いですね。財布の紐が緩くなっているんです、そのひとたち(笑)。そこで捕まえるっていうのをよくやっていました。あと曲順で言うと。
半﨑:はい、それ気になります。
水野:路上ライブがいちばん多かった時期は、曲順をまったく決めないで、目配せで、「この空気だったらこの曲だね」って。
半﨑:3人で。
水野:もうわかっていたんですよ。あれは不思議な感覚なんですけど。「あれだな?」「はい、あれだ」って。
半﨑:始めたらもうみんな?
水野:みんなわかってる。阿吽の呼吸で。でもおもしろいのが、ライブハウスに出るようになって、ライブハウスの比重が増えてきたとき、急に感覚が合わなくなったんですよ。
半﨑:えっ。
水野:路上ライブの感覚がちょっと崩れてきちゃって。
半﨑:へぇー!
水野:「いやいやお前、その曲じゃないだろ」みたいな。3人のなかで路上がダメになっちゃって。集まんなくなっちゃったんですよ、お客さんが。
半﨑:あ、そのあとに路上に帰ったら、集まんなくなっちゃったの?
水野:はい。一瞬、ライブハウスに適合してしまったんです。だから僕らのデビュー前の最後の路上ライブって、お客さんひとりしか集まってないんですよ。
半﨑:え、あんなにすごく…。
水野:すごく集まっていたのに、最後は雪の中、女子高生がひとり。それでもう僕らは路上がダメになってしまったんだと。ライブハウスに行かなきゃならないんだって移行していった時期があったんです。
半﨑:ああー、そうですかぁ。
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水野:あと前説っていうのもあるあるで。ライブハウスに出たての頃、実は僕らアウェイだったんです。地元のライブハウスがハードロック系で。緞帳(どんちょう)の代わりに電動シャッターがあるような。みんな長髪でヘヴィメタやっているような。空気を変えなきゃいけないって、ナレーションを吉岡とかがやっていたんですけど。
半﨑:へぇー!
水野:どれだけ笑わせられるかっていう…。
半﨑:すごく大事ですよねぇ。
水野:小ネタをちょっと挟んでね。
半﨑:それは吉岡さんが考えられる?
水野:みんなで考えるんです。今考えるとすごくつまらないんですけど、ちょっとくすっと笑って、そういう空気を作るナレーションを考えていました。
半﨑:お客さまが聴く姿勢になるために、まず準備できるのは大事ですよね。心をひらいてもらってから1曲目を届けられるっていう。知ってもらえているっていうのは、ある意味、守ってもらっているってことだと思うので。知らない場所とか、アウェイな場所では、ほぐすことも大事。
水野:うんうん。
誰かの思いを歌にすることが、自己表現。
半﨑:私、ショッピングモールでライブしているときって、もともとは北海道から上京して、17年個人で活動していたんです。だからひとりで行って、入館申請とかやって。当時は本当に、「自分の歌、聴いてください」って発信ばっかりでした。でもあるときから、受信すること、受け取ることの大切さに気づきはじめて。そこから曲自身も、自分の心の在り方も変わって。
水野:はい。
半﨑:サイン会でお話を聞かせていただく、自分の姿勢も変わっていったと思うんですよね。曲作りも、自分で書いているんですけど、書いている気がしないと言いますか。
水野:はい、はい。
半﨑:書かせてもらっている。デビューしてからは、3時間とか4時間とかサイン会させていただくんですけど。みなさん、言葉にしがたい思いとか、切実な問題とか、今背負っていることを打ち明けてくださるんですよね。お手紙をくださったり。そういった言葉や思いが、自分のなかに流れず降り積もっていく。それが折に触れて溢れて、歌になるんですよね。
水野:ああー。
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半﨑:自分が書いているというよりも、私が器となって誰かの思いを受け取って、曲にさせていただいている。誰かの思いを歌にすることが、自己表現になっていることに気づきはじめて。だから、サイン会で楽しくお喋りをするっていうよりも、対話なんですよね。
水野:それ、どこで変わったんですか? そこに気づけるって、大きな転換点だと思うんですけど。
半﨑:わりと自己主張が激しいタイプだったので、最初はすべてを主観で見ていました。でも多分、水野さんもそうだと思うんですけど、ああいう場所で歌うってことはもう客観性を持たざるを得ないじゃないですか。
水野:はい。
半﨑:どうしたらひとが立ち止まってくれるんだろうとか、席が満杯になるんだろうとか。お客さまの立場になって考えざるを得ない。チラシの配り方もそうですけど、そもそもチラシ自体が、「このプロフィールってどうなんだろう?」って。そう考え始めると、「赤坂BLITZでライブがある」って書いたら、少し界隈のひとたちには、「あ、BLITZでやるひとなんだ」って、思ってもらえるんじゃないかとか。
水野:わかります。
半﨑:そうやってだんだん客観性ができていって。アーティストというより、プロデュース目線というか。そういう立ち位置で見ざるを得なかった。それが変化の理由としてひとつあるんです。
水野:はい。
小さな声とか、声なき声を、拾っていきたい。
半﨑:もうひとつはもっとピュアに、サイン会でお話を聞かせていただいていくうちに、聞くとか受け取ることが、自分にとって大事になってきたんですよね。自然と。あの明るいショッピングモールで歌っていて、ひとが椅子から立ち上がってしまうとか、携帯を見ているとか、最初はすごく気になっていたんです。だけどあるときから、まったく気にならなくなって。
水野:へぇー。
半﨑:それがなんでかわからないんですけど。たったひとり、最後まで真剣に聴いてくださって、涙されている方がいる。そのひとに向かって歌おうって。自分自身の集中力が散漫になっていると、どうしてもお客さまも散漫になりがちなんですけれども。自分が集中して、その方に向けて届けるって思いで歌っていると、自然とそこの空気感の連帯が生まれて、みんなが集中していくっていう。
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水野:今、ビールジョッキがあったら乾杯していますよ(笑)。それは本当にあります。お客さんの集中力がどう高まるかって、路上ライブはすごく大事で。うーって集まる瞬間があるんですよ。
半﨑:ありますね!
水野:うぅーーーって、空気がこっちに集まって、「あぁ今、来てる来てる来てる」って、そこに合わせていく。
半﨑:わかる。もう雑踏とかまったく聞こえてこない。
水野:そのときはお客さんもこの無敵の空間のなかにいるんです。このときがいちばん強い。
半﨑:そういう経験を重ねていくうちに多分、変わっていったのかなって。今思い返すと。
水野:受け取るとか、自分自体を媒体にするような感覚をどこかで半﨑さんは得られて。それがすごく半﨑さんにとっての価値になったというか。
半﨑:そうですね。自分としては、それを続けていきたいというか、ある種の使命みたいなものを勝手に感じています。とくに小さな声とか、声なき声を、拾っていきたい。
水野:自分で発信している感じがしないって、言い得て妙だなぁと思いました。半﨑さんのライブや曲が、ともすれば道徳的になりすぎてしまったり、押しつけがましいと捉えられてしまったりする可能性もあった。でもそこにみなさん、他の誰にも言ってないような個人的な悲しい出来事も投影してくれる。そこがすごいですよね。ちょっと力のかけ具合を間違っちゃうと、変な方向に行っちゃうじゃないですか。
半﨑:そうですねぇ。
水野:でも半﨑さんは、常に受け取る側だと思っていらっしゃる。そこで分かれていくというか。歌の存在が飲み込んでくれるというか、受け入れてくれるって感じなんでしょうかね。その優しさの理由を垣間見させていただいた気がしました。
つづきはこちら
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