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My Love〜高校生編・第6話「哀愁でいと」
裕華は僕の机の上に、そっと手紙を置いて手を引いた。
僕は思わず裕華の顔を見た。裕華は僕と目線を合わせず、まっすぐな視線で黒板を見ているようだった。その横顔はいつもの裕華からは到底見ることのない真剣な表情だった。
え?何だ?このリアクション!ま、まさか怒ってたりするのかなー?でも怒っている顔には見えないし…返事がOKなら、こんな真剣な表情をして、まるで目のやり場に困るように遠くを見つめているし…一体………何???」
まずは…この裕華の手紙を開いて読まなくっちゃ、話は始まらない…。
僕はゆっくりと…四つ折の手紙を二つ折りに戻し、そして折り目をほどくように全てを開いた…。
おっと、反射的に目をとじてしまった。
怖い!怖い! 最悪の結末がそこにあるのか?
最悪な文章を勝手に妄想しながら目を開けられない男がここにいた。
男だろ?お前? そんな事知るか!怖い物は怖いのだ。もしかしてこの手紙の文章次第では一瞬で全てが終わりになっちゃうかも知れない…そう思ったら……。
俺の高校生活はこれからどうなる??
始まったばかりの俺の高校生活は一瞬で奈落の底に落とされるかもしれない。
そんな過剰な妄想を精一杯膨らましたあと、やっと清水の舞台から飛び降りる覚悟ができた僕は…そっと目を開いて、ゆっくりと読みはじめた。
私も……荒木君の事、好きだったけど……
ちょ、ちょ、ちょ、待てよ!「だった」ぁ~??過去形、いつまで過去形だったんだ?
おーいおーい……あ、続きがあった。常軌を逸していた僕はもう一度最初から目で追った。
私も……荒木君の事、好きだったけど……
もっともっと大好きになりました。よろしくね!
や、やや、や、やや、や、ややややや、ややややや………
やったぁ~~~~~~~~っ!!
よっしゃあ~~~~~っ!
と騒ぎたいのだが、不謹慎にも授業中であったので取り敢えずその喜びはあとで表現するとして、まずは裕華の顔を見た。裕華は照れくさそうにしながらもこっちを向いて目を合わせてくれた。そして本当に今までとは違う少し大人っぽい笑顔で僕に微笑んでくれた。
それから僕らは授業が終わる時間まで、手紙のやりとりで気持ちを伝え合った。
「ありがとう…荒木君、今までと変わらないと思うけど楽しくやっていこうね!」
「うん、ありがとう、柏木さん楽しくね!」
「ところで前から思ってたこと、言っていい?」
「いいよ、どうしたの?」
「……お互い、名前で呼び合いたいなぁと思って…。」
「え~~~!前からそんな風に思ってたの?」
「だってぇ〜、柏木って苗字嫌いなんだもん!」
「な~んだぁ、それだけの理由か。」
「でも、今は違うよ…裕華って…呼んでくれる?」
「ちゃんづけしてね、裕華ちゃん、で、俺の事は?」
「うんとねぇ………ヒロちゃん!」
「え?い、いいけど何で『ちゃん』なの?」
「トシちゃんに対抗してヒロちゃん、かわいいでしょ?」
自分は決してかっこいいとか男らしい分類には入らないが、女の子に可愛いと言われたのは…
ん?トシちゃん?
後からカミングアウトされるのだが、裕華はその頃レコードデビューした田原俊彦の大のファンで、俺とトシちゃんはまったく別物らしい。
手紙のやりとりはまだ続く。
「でも、ヒロちゃんの声ってトシちゃんに似てるよね、前から思ってた。ねーねー歌の練習してみたら?」
「哀愁でいと?歌えるけど…似てるかどうかはわからないよ。」
「わかった、今度、トシちゃんのお話いっぱいしましようね!」
自分の告白は、裕華の気持ちを捕らえたかに見えたが、彼女の前には現実とは一緒に戦えない芸能人「田原俊彦」の壁が厚くのしかかっていた。奴への気持ちを越えるまでは裕華はまだ僕のもんじゃない! よ~し負けるもんか!田原俊彦に!
でも意識するあまり…ハッとして気づいた頃には僕自らもグっとはまっていた田原俊彦。
このことが2人を思わぬ方向に向かわせてしまうのだった……。
〜第7話に続く〜