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歯医者で出会った彼女・第20話「心温まる冷たい手」
僕等はゲームセンターを後にして、目的のパスタ店に向かおうとしていた。しかし、まだパスタを食べようという気分ではなかった。というか今日の直美ちゃんの雰囲気は僕の中では正直、パスタなどどうでもよい気分だった。
その直美ちゃんはやはりいつもと明らかに違っていた。ナチュラルな顔にアイラインがうっすらと引かれているし、淡いピンクのチーク、そして唇は食べて欲しいと言わんばかりにグロスでプルプルとした艶を醸し出していた。
もうちょっと街をブラブラとしたい。今日確実にイケるのか、どうか?直美ちゃんがそれを望んでいるのか?それを判断したかった。
「直美ちゃん、輸入雑貨のお店が出来たんだけど、ちょっと見に行ってみない? 」
「あ、いいわね お部屋に飾るものが欲しかったんだ!行こ!」
そう言いながら直美ちゃんの手が僕の左腕を掴んでいた。今まで手も繋いでくれなかった直美ちゃんなのに服の上からとはいえ、さりげないスキンシップが僕をドキッとさせた。今日はいける!
でも女性にしてみたらこの腕を掴むという行為は特に
意識してやるものではないらしい。でも男性はこれやられると殆どの男は自分に気があると思い込むというのだが……ま、そんなことはどうでもいい。
今日は絶対に、これは絶対に行かなくっちゃ! 直美ちゃんのハードルは間違いなく今までよりも下がっている。ここで行かなきゃ、今日決めなきゃ、これからの二人の進展はありえない。よし、手を繋ごう…。
でも…手を繋ぐだけなのに…こんなに勇気がいるなんて、初めての彼女というわけじゃないのに、こんなに緊張するのはどうしてだろう?直美ちゃんに嫌われたくないという弱気な僕がそこにいた。でも…今日は大丈夫、時には強かな強引さも必要だ!そう思うことにした。
僕は直美ちゃんが掴んでいた僕の左腕から手を下した瞬間静かに彼女の右手を掴んだ。細くて長い指、ちょっと冷たいその指先をそっと握りしめると一瞬、ビクっとして直美ちゃんは僕の顔を覗いたがその顔が緩やかに笑顔に変わっていった。彼女は何も言わずに下を向きながら一緒に歩いた。
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僕はもう完全に舞い上がっていた。こないだまでもうこんな光景はありえないと思っていただけにまさに夢のようだった。
直美ちゃんとふたりでこんな時間を共有できるなんて…彼女の柔らかい手がこれほどまでに愛しく感じることが怖いくらいだった。
「ねぇ、荒木くん…私の手、冷たいでしょ? 手の冷たい人って心が冷たいってよく言われるんだけど…やっぱりそう思う?」
「ううん、思わないよ、直美ちゃんの手は冷たいけど僕のハートを温かくしてくれるからね!ふふっ。」
「いやだぁ、何言ってるの~、バッカじゃないの、あっはは!」
こんな幸せな時間、もう失いたくない。誰にも邪魔されたくない。
直美ちゃんとのこの時空間、今は僕のもの・・・。
しかしまさか…僕達が幸せの時間を楽しんでいるその裏で!僕等を追いかける奴らがいたなんて…その時の
僕らは想像さえしていなかった…。
〜第21話に続く〜