湖に燃える恋・第11話「ホテルに……行こうか?」
お酒が飲めないと言っていた明美がこうして目の前に泥酔している。
しかも、まるで人格が変わったりのように快活な口調と明るさで俺にまとわりついた。
「ヒロユキちゃんに会いたくて二次会、抜けて街を彷徨ってたのよ〜。」
それは嬉しいのだが…明美のその姿はとても危険極まりない物だった。いわゆる真っ赤なボディコンスーツ、体の線がくっきりと現れていた。
まるで子供が背伸びして大人の女性の真似をしている、そんな姿なのだがその中途半端な「怪しさ」が男心をくすぐる。そしてこんなに酔っていては下心満載の男どもが酔ってくるではないか!よくぞ無事で俺に辿り着いた!と心から思った。
「明美ちゃん、無理やり飲まされたの?」
「だーかーらー、ホントはお酒飲めるんだよー、ヒロユキちゃんに嫌われたくないから言わなかっただけ!それに私まだ未成年だし!」
「そっか……でも酔いが酷すぎるなぁー、俺と酔い覚ましにカラオケでも行こう!」
「さんせーーい、ヒロユキちゃんと2人っきりでいられるぅ〜!嬉しい〜!」
歌でも歌わせておけば少しは酔いも覚めるだろう、そう思い、カラオケボックスに連れて行こうとふらついている彼女の体を一度抱きしめたら明美は完全に脱力して俺にもたれかかっできた。
服のせいなのか、先日抱き締めた時よりも胸の膨らみに弾力を感じた。
「へへっ、凄く酔ったフリしてヒロユキちゃんに抱きしめてもらった〜、わーい、ホントはちゃんと歩けるし、ちゃんと立っていられるよ!でも酔っ払いだけどねー。」
言ってることの訳がよくわからないが間違いなく明美はかなり酔っていた。
「ねぇ、ねぇ、やっぱりもう少し飲みたーい、ヒロユキちゃん、お洒落なバーで飲もう」
もう少し飲みたいと思っていたのは間違いないし…とにかく落ち着いたところでなぜ明美がこんなに酔っているのか、聞きたかったので俺の得意先で働いていた方がそこを辞めてBARを始めたのでそこで飲む事にした。
「あら、荒木さん、ようこそ、綺麗な女性同伴で、ありがとうございます。」
BARの店主、北浦さんは実ににこやかに俺たちを向かい入れてくれた。
「私、キールロワイヤル下さい。」
「じゃ、俺も同じで……。」
「あー、ヒロユキのマネっこ〜!」
いちいち反応して返していると面倒だから…
どうせ酔ってるんだから…と黙っていたら明美は
「……ねぇ、何か言ってよー、言わないとじゃんけんするぞー!」
本当に訳がわからない。クセが悪そうだ。
「お待たせしました。キールロワイヤルです。」
当時人気だった東幹久という俳優のCMで一躍有名になったこのカクテル、カシスをスパークリングワインで割ったもの、口当たりが良くガンガンいける。そんな手軽さもあって人気となった。
「じゃーヒロユキちゃん、じゃんけんだよ!」
とにかく酔っ払いには逆らわず俺はジャンケンの相手をした。
「最初はグー、じゃんけん、ポン!」
俺はグーで明美はパーだった。
「やったぁー、私の勝ちぃ〜!ヒロユキちゃん
一気だよー、一気!」
「え〜!の、呑んでもいいけど……俺を酔わせてどうするつもりなの?」
「いいから……男ならつべこべ言わないで呑みなさい!」
完全に出来上がっている明美になす術はなく、俺は言われるがままにキールロワイヤルを一気に飲み欲した…。
酒は呑めるがあまり強くはない。度数は10度前後のスパークワインとはいえ一気に飲むと発泡しているので酔いも回る。
「ヒロユキちゃん、酔ったぁ〜?」
明美は目をトロンとさせながらも満面の笑顔で聞いてきた。
「あーー、酔ったよ、明美ちゃんのその笑顔に…。」
「なーに言ってるのさー、ばーか!」
明美は両手で俺を押し倒そうとしたようだが、手が滑って俺に抱きつくような体制になった。
俺の右耳に明美の唇が当たった。明美は静かに息を吸い込み、そしてそれを吐き出すように俺に耳元で話しかけてきた……。
「ねぇ………ホテル……行こうか?……」
明美のまさかの言葉に素直に動揺を隠せない俺だった…。
〜第12話に続く〜